084. 自壊する骨。


 矢が俺達に降り注ぐタイミングを狙うように、剣を持ったスケルトン達が一斉に走り出す。


 俺は降って来る矢に構わず、スケルトンの群れ目指し――付力魔法をかけた脚で、強く氷を蹴り上げた。


「焼き切ればいいんじゃない!?」


 後ろから、剣が空を切る音が鳴る。


 すると今西が立つ方向から、真昼のような光が起こった。


 今西の魔法だ。ワセデイから抜け出して、川辺で話していた際、魚を捕まえる時にかなり控え目に披露していたあの魔法。静電気などととぼけた事を言っていたが本来の威力は――あんなもんじゃない。


 光に数秒遅れる形で、耳を突くような轟音が轟き、俺達を貫こうとしていた鋼鉄の矢が、白く輝くと焼き切れた。


 今西の十八番おはこ、雷の魔法だ。


 それを食らった矢が炭に成り果て、吹雪に乗って散っていく。


 付力魔法で一気にスケルトン達へ距離を詰めた俺は、風の魔法を込めた万喰らいを、右から薙ぐ。――当然、初めて骸の牙に遭遇した時のような、半端な威力にはしていない。刀身から放たれた巨大な三日月形の風刃ふうじんが、吹き荒ぶ吹雪を両断しながら、紙屑のようにスケルトン達を吹っ飛ばす。バラバラの骨と化し、前方へ消えて行くスケルトン達を追うように、骸の牙へ距離を詰めた。その身を削りながら、スケルトンを生み出している骸の牙の足元まで来ると、裂傷魔法と火の魔法を剣に纏わせ、頭上から振り上げる。


「……うおおっ!!」


 一番手前に立っていた、骸の牙を破壊した。瓦礫と化した骸の牙が、火の粉と共に四方に飛び散る。


 残りは、二本。


 氷上に向いた切っ先を、正面に戻しながら視線を上げた時、後ろから、岩が砕けるような音が鳴る。


 氷を蹴り抜いて跳んだ、今西だ。


 俺に追い付き、通り越すと――右手に掲げた剣を、腕を曲げて、槍のように引き寄せる。吹雪の中、じっと狙いを澄ませるような滞空時間を見せると、奥に立つ二本の骸牙から、手前の一本に剣を放った。


「……リベンジだ!!」


 蒼い魔力を纏った一閃が、頭から牙を貫き氷に刺さる。瓦礫と化した牙と、湧き出されていたスケルトンを巻き込んだ衝撃は、吹雪を掻き消すように飛び散った。


「うお……っ!?」


 その瓦礫と、抉られた氷の塊を巻き込んだ突風に、俺は思わず腕を翳す。


 肩や頭のすれすれを、乗用車よりまだ大きい骸の残骸や氷塊が抜けていく感覚が走り、吹き飛ばされていた吹雪が再び吹き始めると目を開け、前方に目を凝らした。二本目の牙が跡形も無く消えた氷の上に、背を向けた今西が着地する。


 地下採石場でタイナちゃんが見せていた、貫通能力を付加した魔法と同じものだ。


 初めて骸の牙に遭遇した際放った剣には、付力魔法を纏わせていたらしく、破壊にまで至れなかった。だが俺がこの移動中に教えた、矢尻一点に魔力を注ぐタイナちゃんの貫通魔法を応用した剣で、頭から牙を壊す事に成功する。


 これで骸の牙は、あと一本だ。


 だが、氷上の剣を回収した今西に追い付こうと駆け出した時、最後の牙に亀裂が走る。


「えっ!?」

「何だ――!?」


 天辺から根本へ、突然深々と走った亀裂は、がらがらと牙を頭から崩し始めたのだ。


「壊れ……てる? 何で? 何もしてないのに……」


 最後の一本を凝視する今西の隣で、違和感を覚えた俺は辺りを見回す。この吹雪の中を、何かが移動した気配がしたのだ。


 目を凝らすと俺達の周りで、大きな影が幾つも揺れている。


「今西……」


 呼びかけながら、剣を握り直す。


 ――牙の瓦礫だ。


 数は八。


 壊した牙の残骸が、独りでに俺達の周りで円を描くように漂い出したのだ。


 それを分かった瞬間、背中がひゅっと冷たくなる。


「――避けろ!」



 叫ぶと同時に、吹雪に紛れていた瓦礫が、一斉に俺達へ飛んで来た。



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