076. ブツ切リノラストヘ。


「あの時?」


 寒そうに腕で身体を抱えながら、今西が尋ねる。


 互いの息が白く消えていく様に、俺も寒さを覚えながら訊いた。


「お前は、遭った事無いのか?」

「遭うって……何に?」


 今西は不安そうに、首を傾げる。


 そう言えば今西は、瞬間移動をしたなどといった話はしていなかったな。


「ああいや……。あのシスターと出会ってすぐにも起きたんだけれど、村からワセデイへ移動しようと旅に出たら、一瞬でワセデイに着いた事があったんだ。今俺達がここにいるのも、一瞬の事だっただろ? 同じ事が起きたみたいなんだ……」


 今西は、驚いた顔をした。


「そう、なの……? でもそれって、どういう意味があるのかな……?」

「分かんねえけれど……。最初にこれが起きたのは、シスターに旅に出されてすぐだったんだ。何も無い荒れ地だったのに突然、緑豊かな土地になって、オマ村が現れて……。二度目に起きたのは、オマ村からワセデイに向かおうと旅に出た時だ。何かに躓いて転んで起き上がったら、ワセデイの街の中にいたんだよ」


 じっと俺の話を聞いていた今西は、怪訝そうに眉を曲げる。


「……んん? ショートカットみたいなものなのかな……? ここが、ザスパーの魔法で見せられている悪夢という説で考えるなら、さっさと危険な場所に荒井君を向かわせて、殺したいとか……?」

「でもそれなら、何で俺だけ? お前は一度も、ショートカットさせられてないんだろ? 寧ろ半年近く、同じ森の中に閉じ込められたって」

「――いや、ちょっと見えたかもしれない」


 今西は顎に手を当てると、眉間の皺を解いた。


「どんな魔法や方法を用いた所で魔法側の目的は、鉄側を滅ぼすという一つでしょ? ザスパーは、半年前からこの夢の世界に私を落としてるのに、未だに私を殺せてない。でも新たに荒井君も、この世界に落としてる。私と荒井君で、殺しの趣向を変えたんじゃないのかな? 同じ場所に閉じ込め続けて彷徨わせるより、ショートカットしてどんどん危険な場所に向かわせる方が、正確に殺せるんじゃないかって。私で既に失敗している方法は、荒井君の場合ではボツにして、新しい方法を試みてるとか」

「確かにそう言われると、筋が通るよな……」


 俺は、じっと考えると口を開く。


「――今西の場合は彷徨ってる内に、その場所に慣れてきちまう。実際お前は地形を覚えて、比較的弱い魔物がいるエリアで戦いの練習をしたんだよな?」

「うん。慣れてから、危ない魔物がいる方へ向かった」

「俺みたいに周囲がころころ切り替わってたら、そんな事は出来ねえもんな……」

「その方法でも、まだこうして荒井君が生きてるから、この三度目のショートカットが起きたのかもしれない」


 強い口調で、今西は言った。


 俺も、今西の目を見て続く。


「手っ取り早く、この雪国にいるかもしれない、ルートエフと戦わせる為に」

「それなら私が、荒井君と合流出来た偶然にも説明がつく」

「中々死なない俺達を、纏めてここで、始末する為に……」


 今西は答えを分かり切っているような、疲れたような顔になって言った。


「……いきなり飛ばされたと思ったら魔物に襲われるっていうこの理不尽な流れから、多分そういう狙いなんだと思うよ」


 悔しさか、怒りなのか。


 何とも言えない、ぶつけようもない燻った感情に、俺はたまらず声を零す。



「……くそ」



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