068. 脅威的存在。
「――魔法? が使える事に気付いたのは、魔物がいる方へ近付いてみようって思ったからなんだ。火を噴いたり、凄い……静電気? 雷みたいなものかな。を、纏ってる魔物がいたから、私もあんな風に何か技みたいなものでも使えたらなあって困ってたら、偶然に。いいなあーって、その魔物を考えながら剣を振ってたら、何かバチッて、電気みたいなのが剣から走って」
「……この世界での魔法って、誰でも使えるものらしいぜ」
俺は説明してやろうと、話し出す。
「血みたいに魔力が人間の身体の中を巡っていて、それを意識で操ると、魔法として扱えるようになるらしいんだ。例えば火を出したいと思えば、指先なんかに意識を集中して、頭の中で火や熱をしっかりイメージすると、こんな風に」
俺は右手の人差し指を立ててみせると、ぽっとライターのような小さな火を灯してみせた。
それを眺める今西の表情は、余り驚いていない。
「じゃあ私が魔法を使えたのは、筋が通ってたんだね」
今西は納得したように、視線を川へ戻す。
「化け物じゃなくて『魔物』って呼んでるって事は、そういう生き物も魔力を持ってるって事なんじゃない? 魔物が魔法を使ってる所を見て、それを考えながら剣を振るったから、偶然真似をする形で、魔法を習得してたんだ」
「きっとな」
「凄い偶然」
ころころと、今西は笑った。
「ラッキーだったんだよ。でもよかった。魔法に早く気付けたお陰で、戦いには有利になったんじゃないか? さっき魚を捕まえたのだって、魔法だろ? かなり慣れてる感じだったけれど」
「まあねえ。もう今は、その辺の魔物には負けないよー」
ちょっと得意げになって、今西の表情が明るくなる。
それに少しだけ、俺は安心した。
「もうね。大変だったんだけれど。いきなり森には呼び出されるわ、シスターは消えるわ、ちっちゃいウサギみたいな魔物に、リュックは持って行かれちゃうし」
「俺より踏んだり蹴ったりだな……」
「ん。そうなの? まあでも、最初っからマジで過酷な状態だったから、魔法にも早く気付けたのかもね。余裕が無くて。ぶっちゃけ大分来てるじゃん。私もあんな風に技とかあったらなあって、ありもしないものに縋ろうとしてるなんて」
「まあ……」
敢えて指摘しなかったのだが、本人に言われてしまうと反応に困る。能天気な振りをして話しているが、想像を絶するような過酷さだったのだろうと。
シスターへの激しい怒りが、ふつふつと腹の底から湧き上がる。
今西をそんな目に遭わせやがって。一体何がしたいんだ。
「まあ確かに魔法は幾つか、早い段階で覚えられたよ。森で何度か練習してから、勝てそうな小さい魔物から挑んでみて、慣れていったらキモトカゲぐらいの大きいのにも。そしたらその、大きい魔物がいた辺りの位置から、森を抜けられたんだ。嬉しかったなあ……。もう振り返らないで、走って森から離れて、人を探して歩き回ったの。シスターはもうとっくにどっかに行っちゃったのか、見つからなかったんだけれど。……歩き回ってたら岩場に入って、そこでキモトカゲに襲われた後の、オマ村を見つけたんだ」
当時を思い出したのか今西は、また暗い表情になってしまった。
「……疑ってる訳じゃないけれど、やっぱり、オマ村だったんだよな?」
念の為に、もう一度確かめる。
「うん」
俯いて、膝の上で組んだ両手を見ていた今西は、両の親指を動かしながら頷いた。
「コノセちゃんがいて、カイハニおじさんがいて、村長でコノセちゃんのおばあちゃんの、セモノさんがいた」
「……ガエルカおじさんは?」
「死んだんだって」
ぽつりと、今西は呟く。
「村の人は、殆どが怪我をしてた。セモノさんは頭を打って、カイハニおじさんは腕を折って、コノセちゃんは……。片足を、食べられちゃってた。キモトカゲは、どこから現れたのか分からないって言ってた。でも……」
今西は黙り込んでしまって、完全に俯いてしまった。
暫くそのまま、じっと動かなくなると、深い息をゆっくりと吐いて、目を開く。
「森には、キモトカゲみたいな魔物もいるって言ったじゃん? もしかしたらオマ村の人達が襲われたのは、私の所為かもしれないって……」
「どういう事だ?」
「半年間森を彷徨ってる間に、私が戦えるって分かったからなのか、魔物の何匹かが見えなくなったんだよ。私はその時はまだ森を抜け出せていなかったから、どこに行ったのかは分からないんだけれど、小さい魔物から、あんまり見かけなくなっていって。もしかしたらあのキモトカゲもその時に、森から逃げ出してた魔物かもしれない、って……」
「キモトカゲって、エリタイだよな? あの地下採石場にいた」
「うん。あの二匹で動いてたやつ。もう一匹は荒井君達が、退治してくれたんだよね」
「ああ。でもあのエリタイ達は、お前が連れて来られた森から出て行った所は、見てないんだろ? そもそもあいつらは、その森にいたのか?」
「分かんないけれど……」
「分からねえなら抱え込むなって。たまたまかもしれねえじゃねえか」
「でも、縄張り争いに負けて、あの地下採石場に潜り込んで来たかもしれないんでしょ?」
不安そうな今西に真っ直ぐ見据えられ、俺はつい黙ってしまった。
馬車で地下採石場からワセデイに引き返す間、今西にはラトドさん達の紹介も兼ねて、ワセデイでの事情を話している。
確かにその時にもラトドさんは、あのエリタイ達は縄張り争いに負けてやって来たのだろうと、話していた。普段は魔物が近付かない、平和な都市であるワセデイの近くに、突然あれ程のサイズがある魔物が二頭もやって来たのは、それぐらいしか理由が思い付かないと。こんな所まで移動して来るとは、負かした相手がよっぽど強力で、それだけ元々住んでいた場所から、距離を取りたかったのだろうとも言っていた。
今西は川へ視線を投げると、何とも言えない表情をする。思い詰めるような、過去へ思いを馳せるような。
「……分からない限り、無責任な事言えないよ」
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