063. 成すモノ達


 俺は、得体の知れない不安が先走るのを、誤魔化すように尋ねる。


「い、いやでも、これがどういう……」

「たまたまかもしれないけれど、内容が怪し過ぎると思わない? それに私、コノセちゃんにもカイハニおじさんにも、セモノ村長やエハアラだって、岩場にあったオマ村で会ってるんだよ。あのエリタイっていうキモトカゲに村は襲われた後だったから、話だけ聞いただけで、もう死んじゃってた人もいたけれど……」

「ちょっと待ってくれ……。じゃあ、他の名前も繋いでみると、文章になるってのか……?」

「私が名前が分かる人やものに会ったのはオマ村からで、キモトカゲを追いかけて荒井君達と会うまでは、名前が分かるものは無かったんだ。たまに人を見かける事はあっても、キモトカゲを見失わないようにいるので精一杯で、話し込んでる暇なんて無かったから。……ラトドさんとタイナちゃん、だっけ? 他に会った人やものの名前、出会った順番に言ってみてくれないかな? 私が知ってるのは、『コノ世界セカイ偽物ニセモノ。オマエハ、アラガエルカ』って言葉を作るもの達だけなんだけれど……」

「…………」


 どうしてか、脈が上がる。


 まるでもう、何かあると分かってしまったようで。


 俺は、口元を覆うように右手を当てると記憶を辿り、順番通りにゆっくりと口にしてみた。


「……オマ村にもまだ、少し続きがあった筈なんだ。えっと……」

「待って。メモ持って来てるから、書きながら纏めてみよう」


 今西はズボンのポケットから、四つ折りにしていた茶色い紙と、クレヨンのような画材っぽい、黒い棒を取り出した。


 俺達は噴水の足元にあるベンチに座ると、今西は膝の上でメモを取り、俺は人名や地名、ものの名前を挙げていく。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今西のメモ


 シア(オマ村で出されたお茶)/ワセデイ(街の名前)/タイナ(弓使い)/ラトド(斧使い)/マルガ(受付嬢)/イイモ(地名)/トノバ(ギルド長)/ショヘカ(ピザ)/エリタイ(地下採石場に入り込んだ、トカゲのような魔物)/ルートエフ(北の果てにいると語られる、伝説の魔法使い)/マッテイル(ルートエフがいると言われる北の地に、最も近い町の名前)/タカウ(エハアラから作られた、暗所を見渡す霊薬)/ガイ(成分は異なるが、タカウと同じ効果の霊薬)/ナラタ(地下採石場に現れた、ムカデのような魔物)/イタビノ(光を放つ狩り道具)/ハテニ(ワセデイの噴水から汲まれた、天然の霊薬)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 名前を挙げ終えると今度は、一つに繋げて読み上げてみる。


「えーっと、シアワセ、デ、イタイナラ、トドマルガ、イイ……? モトノバショヘ、カエリタイ、ルートエ、フマッテ……? んん? ここからはそのまま読んでも、繋がらないのか?」

「並べ替えが必要とか……? 意味が繋がらないものは、一旦飛ばそう」

「分かった」


 今西のクレヨンを借りながら、分からない言葉は囲って飛ばし、繋いだ言葉は、キリのいい所で句点を振ってみた。そこから作った文章に、読みやすいよう漢字を当てはめていく。最後に置き場所が分からなかった単語を、それらしい位置に当てた。


「…………」

「……これって……」


 ほぼ出会った順番通りに並べて現れた文章に、俺と今西は、言葉を失くす。


 もう読み上げなくても分かっていたが、それでも受け入れる為の儀式のように、俺は出来上がった文章を読み上げた。



「……『シアワセデイタイナラ、トドマルガイイ。モト場所バショカエリタイナラ、タタカウガイイ。タビテニ、ッテイル。ルートエフ』」




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