058. 脱出


 今西は興奮した様子で、俺に尋ねる。


「そのシスターってもしかして、同じ事ばっかり言う金髪の子!?」

「そうだ……! そうなんだ! もう何が何だかさっぱりで……!」

「うん! 私もその子に勇者様って呼ばれまくって、この服とか鎧あげるから世を導けとかなんとか、訳分かんない事言われた……! 何言ってんのって帽子取り上げても同じ事しか言わなくて参ったんだよね……! 何なのあいつ!?」

「さ、さあ……」


 俺よりも強引な手で別の台詞を引き出そうとしていたらしい今西の行動に、若干引きながら言葉を返した。


 やっぱりこいつ、ちょっと乱暴って言うか、頑なな所がある。


「はあ。全く何なのよ運命の導きって……。――って待って分かったかも」


 がっくりと肩を落としたと思うと、がばっと起き上がる今西。


 リアクションの大きさについ目を奪われていると、ずいっと今西は近付いて来て、俺の顔に人差し指を向けた。思わずちょっと仰け反る。さっきからよく指を向けてくるが悪意は無く、これは今西の癖。


「これじゃない? あのシスターが言ってた、“運命”って」

「……どれだ?」


 仰け反ったまま尋ねた。


「今。この状況だよ。この訳の分かんない世界で、荒井君と会えた事! これって凄い確率じゃない!?」

「そ、そう言われると、確かに……」

「だよね!? じゃあ私達これから、なるべく一緒に行動した方がいいよね!? 私も一人じゃ心細いし!」

「それは俺も、ありがたいけれど……」

「やった! じゃあ暫くは、それで決まりね! これであのシスターの言っていた事はちょっとは掴めたとして……。でも救世って、何なんだろ……?」


 そしてくるりと背を向けると顎に手を当て、ぶつぶつと考え始める今西。


 エリタイを一人で倒した直後だと言うのに、エネルギッシュな奴だ……。


「あー……。それに関しては俺も調べてて、一応仮説は立ててるんだけれど……」

「――よーしいけそうだな。おいお前ら! タイナが弓で地上へロープを繋いでくれてるから、こいつを伝って先に上がってろ!」


 声に振り返ると、今西が穴を開けた天井の真下に立つラトドんさんが手を振って、俺達を呼んでいた。今西が開けた穴からはロープが垂れ、タイナちゃんの姿は消えている。


 俺は今西に目で促すと、一緒に小走りになってラトドさんに合流した。


「タイナちゃんは?」


 俺がラトドさんに尋ねる。


「上だ。付力ふりょく魔法で跳んで、ナイフと手足で通路の中をよじ登ってる。腰にお前のロープを繋いでるから、安全確認が済んだら適当な所で引っ掛けて、合図を送って来るさ。――そこのお嬢ちゃんは別に、地中を掘る際の訓練を受けてたり、知識があるって訳ではねえんだろ? 元は地質調査の為に掘り進められただけのものだし、どうなってるか分からねえから通路に使ってもいいか、タイナに見て貰ってんだ。合図が来たら、このロープを伝ってよじ登れ。俺にあの穴は小さ過ぎるから、通路を歩いて上がってるさ」


 ラトドさんは俺の肩を叩いて言うと、早速地上へ向けて歩き出した。


「わ、分かりました……。一人で大丈夫ですか?」

「エリタイも全滅したしなあ。ナラタもあの調子じゃあ、地上まで逃げてったんだろ。そこの雄の死骸を見れば分かる。あいつらお嬢ちゃんに、完全にビビって行っただろうぜ。あの数のナラタとエリタイを同時に相手取って、大した怪我も無くエリタイをボコボコにしたんだからよ。大したもんだ」


 今西はぽりぽりと頬を掻くと、困った笑みを浮かべる。


「あ、あはは……」

「そういう事だから、俺は行ってるぞ」

「ありがとう! おじさん!」

「ラトドだ! おじさんじゃねえ!」


 手を振る今西にラトドさんは怒鳴ると、機嫌を悪くしてしまったのかずんずんと、大股で歩いて行ってしまった。



 入れ替わるように天井からタイナちゃんの声がして、俺は垂らされていたロープを掴む。「怒らせちゃった」とぽかんとする今西に苦笑して、地上へと登り始めた。



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