サア! 素晴ラシキ結末マデ、アト半分デゴザイマス!(残り時間 126,144,000秒)

chapter 15/?

055. クラスメート。


「え? えっ!? 何で荒井君がここにいんの!?」

「…………」


 今西いまにしはフードを下ろすと、頬にエリタイの返り血が付いたまま、埃塗れになって狼狽する。


 俺はその光景に、言葉を失ってしまった。


 今西真苗まなえ。去年のクラスメート。


 高校入学と同時に俺が住む町にやって来て、その明るい性格で、クラスの人気者だった。特技は確か、知恵の輪。前に解くのを見せて貰ったけれど、十秒あれば大抵のものは余裕で解けていて、確かにその早業は凄かった。苦手なものは体育。見学しないといけなくて、退屈だから。好きな食べ物は鶏肉で、嫌いな食べ物はねばねばしたもの。


 たったそれだけだった筈だ。


 だから、こんな十メートルにも及ぶ化け物を、たった一人で倒してしまえるような女の子じゃなかったんだよ。


 何でこんな所にいる? 幻覚か?


 この一連の緊張感と混乱に頭をやられて、とうとうおかしくなっちまったのか?


 それでも今西はほったらかしにされようと、「何でこんな所にいるの」とか、「何でそんな緑に汚れてんの」とか、思った事を次々と言葉にしている。


「……知り合いなのか? リュウタ」


 状況を整理するように、ラトドさんが口を開いた。


 でも、混乱しているのは俺と同じらしい。エリタイが死んだようなので緊張は幾らか緩んでいるが、今西が気になるようで、斧をしまおうとはしない。


「ゆ、夢じゃないなら……」

「いやそこにちゃんといますよ。幽霊なんかじゃないっす」


 矢を矢筒にしまいながら、タイナちゃんからの突っ込みを受けた。


 するとラトドさんが、鋭い声でタイナちゃんに言う。


「おいタイナ。矢をしまうな。まだあいつは得体が知れねえ」

「いっ、いやラトドさん。大丈夫ですよ。あいつはそんなんじゃないです」

「じゃあ今がどういう状況なのか、きっちり説明して貰って来い! どっから湧いて出やがったんだあのガキは! 一人で雄のエリタイを殺したんだぞ!? あれは雌よりもよっぽど凶暴で――」

「あーもうはいはいはいはいお勉強は後でもいいっすから! じゃあリュウタさん! お願いするっす!」

「うおっ!?」


 どんっとタイナちゃんに背中を押し出され、俺は転びそうになりながら前へよろめいた。


 エリタイの死骸の向こうでは今西がやっぱりいて、こちらの様子を窺っている。今西も俺との遭遇に、酷く混乱しているようだ。


「…………」

「…………」


 何から切り出せばいいのだろうかとお互い黙ってしまい、変な沈黙が流れる。


「うおい! いきなり黙ってんじゃねえよ!」

「先輩煩いっす!」


 後ろの方でラトドさんの怒声と、同じぐらい煩いタイナちゃんの声が響いた。


「いや、えーっと……」


 俺は剣を収めると、言葉を探しながら、がりがりと頭を掻く。


「ひ、久し振り……」

「えっ? ああ、うん、久し振り……」


 今西はぽかんとしたが、すぐににへっと笑みを浮かべ、頬を掻いた。


「えっと、最後に会ったのはもう、一年の時の年明けぐらいだっけ? 私休学したからさあ」

「そ、そうだったな。この前病院にお見舞いに行ったのがもうそれぐらいになると思う……」


 やっぱり今西だ。夢なんかじゃない。


 その姿を、改めて見る。


 黒い外套を羽織っていた。それで服装はよく分からないが僅かに覗く隙間から、俺と同じような格好をしていると分かる。露わになっている足元は、動きやすそうなゆったりとしたズボンに鉄製のブーツで、そのデザインはどう見ても、俺と同じものだった。腰には先程の剣を提げているらしく、柄が外套から突き出ている。


 顔はもう見なくても間違い無い。やっぱり今西だ。マルガさんぐらいありそうな黒髪をポニーテールに結い上げ、びんは下ろして、前髪は中央で分けている。いつも教室で見ていた頃と変わらない、いつもの髪型だ。そして外套と、恐らく俺と同じく付けているだろう胸当ての上からでも分かる、ナイスなバディも相変わら


「久し振りに会ったクラスメートをものの数分でエロい目で見だすって、人として終わってるってマジで思うよ」

「何を言うんだよ今西。これぐらいのジョーク、笑って済ませてくれる爽やかさがお前のいい所だったじゃないか」

「確かにその罪を認める潔さは評価に値するけれど、腐敗臭のような臭いを放つ液体に塗れた緑の男にエロい目で見られるのは、幾ら気の知れた友人であろうと看過出来ない部分が多分にある」

「この地域での前衛的アートだ」

「マスクマンみたいな色していい声で言わないで」

「まあ聞けよ。こんな場所でまさか再会するなんて、お互い思っちゃいなかっただろう? お前が本当に今西なのか、確認したかっただけさ」

「それで最も見なければならなかった部位が何故胸だと?」

「それだけ印象的で、魅力的だったのさ。お前の胸っ」


 痛っ!?


 ゴツっと額を何かが襲った!


 すると足元に何かが落ち、額を押さえた視界の隙間で目を向けると、血の付いた握り拳大の石がころりと転がる!


 石投げやがったよあいつ!


 俺はエリタイの死骸の向こうで、石を投げた腕を下ろしたばかりの影を睨んだ。


「ぐっ……貴様、偽物か……!」

「まさか。これはあなたが荒井君かを確かめる検査です。無事あなたは荒井君だと証明されましたオツカレサマデス。――いやていうか、ほんとにどうなってんの?」


 今西は眉を曲げると、俺の後ろを手で示す。



「そっちの人達は……。荒井君の知り合い? 何で荒井君、こんな所にいんの?」



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