042. シュツジン


「まあ昔の王族の墓でもあるまいし、そこまで複雑な構造はしてねえが――。一応、おさらいしておくぞ」


 ラトドさんもランタンを灯すと、ポーチに突っ込んでいた地図を取り出し、ランタンの明かりを頼ろうとその場に屈む。俺とタイナちゃんも腰を落としながら、ラトドさんが膝の上で広げた地図に、改めて目をやった。


 矢張り、野営地のテントで見た時と同様全ての部屋に、バツ印が記されている。バツ印の隣には、それぞれメモのような文章が書き込まれているが、少なくとも日本語でも英語でもない形をしており、俺には読めない。


「このメモによると、捜索が行われるきっかけになった、一番最初に魔物が確認された場所は、第四層の採石場だ。そして初めて派遣された捜索隊が、魔物と遭遇したのは第二層。二度目に遭遇したの第四層で、最後に派遣された捜索隊が遭遇したのは、第三層となってる」


 話しながら当てはまるポイントに指を向けていたラトドさんに、タイナちゃんが口を開いた。


「ギルド長の言っていた通り、地下採石場内をうろついてるって印象っすね」


 今度は俺が言う。


「でも、第一層には一度も上がってない」

「その通りだ。もし魔物が読み通りエリタイだったら、この動き方にも納得出来る。地上に上がりたがらず、暗所を好むという事は、夜行性か、陽の光に弱い、洞窟なんかで暮らしてる魔物と考えられるな」

「じゃあ夜の間にどこかから移動して来て、この地下採石場に住み着いたって事ですかね?」

「恐らくな。縄張り争いに負けて、元々暮らしてた場所を追い出されでもしたんだろ。ワセデイなんて大都市の近くに、エリタイ程サイズのある魔物が近付く事もそうそうえから、地下採石場も普段なら夜に警備兵は付けてねえ。人間が魔物を恐れるように、魔物も人間を警戒するからな」

「おまけに一ヵ月も潜りっ放しって事は、すっかり気に入っちゃったみたいっすね。捜索隊がわんさか入って来てくれるもんすから、食糧にも困ってないでしょうし」

「食糧?」


 俺は地図から顔を上げて、タイナちゃんに尋ねた。


「その殺した捜索隊っすよ。普段は自分より小型の魔物や、動物を食らうんすが、そもそも肉食っすからね。その気になれば人も食べるっす」


 淡々と答えるタイナちゃんの言葉に、一気に血の気が引く。


「え……」

「何だ言ってなかったか? まァ準備は万端だから安心しろ。エリタイは、魔物としては中型種だ。サイズは大凡、八メートルから十メートル。殺した百三十人全員を一ヵ月で平らげる程に、食欲は旺盛じゃねえ。胃は丈夫だから、生肉も腐肉も食う奴だ。ちびちび食って生きてんだろう。死体はまだ、残ってると思っていい。まァどれだけ形を保って残ってるかは怪しいが……。用心して進むぞ。何層目でエリタイと予想している魔物と会うか分からねえ。同時に、捜索隊の死体に寄生したナラタ――。まァ、人間ぐらいのサイズをした、でけえ虫の魔物がいるかもしれねえから、気を付けろ。ブンブン飛んで鬱陶しいが危険度は、まあエハアラと同じぐれえだ。最後に捜索隊が派遣されてから一ヵ月は経っちゃあいるが、まだ潜んでるかもしれねえ。先頭は俺、真ん中がリュウタ、後ろにタイナの順で行くぞ」

「分かりました」

「了解っす」

「作戦通り動けよ。もし読みが外れてエリタイじゃなかった時は、一度地上に上がって、作戦を練り直す。読み通りエリタイなら……。ぶっ潰してやろうぜ」


 ラトドさんは不敵に笑うと立ち上がり、丸めた地図をウエストポーチに突っ込んで、外套のフードを被った。



 俺とタイナちゃんも立ち上がり、俺はフードを被ると剣を抜き、タイナちゃんは背中から弓を取り出すと、斧を握ったラトドさんに続き……。いよいよ、地下採石場に乗り込む。


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