041. 向コウニアリハシナイモノ。
確かに、茶色い紙に書かれた地下採石場の見取り図は、まるで蟻の巣のようだった。
地中に埋まる石を切り出しては、モグラのように掘り進んで行ったようで、暫くそこで切り出し続けたのだろう、開けた場所に出るとまた、地中を掘り進んだような通路が続く。通路はなだらかな傾斜で地下へ進み、計四つの部屋を作っていた。奥に向かう程部屋のサイズは大きくなり、全て一本の道で繋がれている。……いや、全くの別方向からひょろひょろと頼り無く、地下四階付近にまで、緩やかな傾斜で伸びている通路もあった。
四つの部屋に書き込まれていたバツ印やメモも気になるが、中途半端にほったらかされているその頼り無い通路が一番気になり、対応してくれた警備兵さんに尋ねてみる。
「これは何でしょう?」
俺達と同じくテーブルに向かい合っていた警備兵さんは、また飛び上がると答えた。
「ひゃい! それは、地下採石場を建設する前の、地質調査の際に掘られた通路でしゅ!」
「…………」
遠慮しないで言っていいのならキモいなと思ったけれど、緊張している人に向かってそれはあんまりなので黙っておく。
まあつまり、ボーリング調査の為に掘った穴と考えればいいだろう。
「その地質調査の為の穴は、今はどうなってるっすか?」
続いてタイナちゃんが尋ねた。
「――はい。現在は使われておらず、通路の先も行き止まりという事で、誤って落ちないよう穴を塞いだ上に封鎖しています。もう何年も使われておらず、人が立ち入った事もありません」
「その落差キモいんで何とかした方がいいっすよ」
息を吸うようにタイナちゃんに突き刺された心が痛んだのか、警備兵さんはショックを隠し切れない表情で、左胸の辺りを強く掴んだ。シャツだったらくしゃっと、握り締められている所だろう。
「まァざっと見た限り、俺が昔依頼で入った時と大して変わらねえな。それぞれの部屋が掘り進められてでかくなったのと、第四層目が足されたぐらいか」
地図を眺めていたラトドさんは顔を上げると、周囲のテーブルで俺への敬礼をしたまま直立する、他の警備兵さん達に目を向けた。
「この地図、借りていいのか?」
「あっ――はい! どうぞ!」
タイナちゃんの一撃で呆然としていた警備兵さんが、覚醒すると応じてくれる。
ラトドさんはその声を聞き終えない内に地図を取ると丸めて、ショルダーポーチの一つの蓋を開けると、取り敢えずそこに突っ込んだ。
「うし。夜明けまでに狩り終える予定だ。俺が昔来た事があるから、地下採石場までの案内は要らねえ。朝が来ても誰もここに引き返してこなかったら、全滅したって街に伝えてくれ。連絡用の馬車は置いて行く。――行くぞ。タイナ。リュウタ」
「はいっす」
「分かりました」
「では、皆さんお気を付けて!」
警備兵さん達の激励に見送られながら、ラトドさんを先頭に、テントを後にした。
野営地となっている資材置き場から少し歩くと、地下採石場の入口が見えてくる。あの地中から突き出したような、白みがかった灰色の石が山のように鎮座していて、その足元を見ると洞窟のように、大きな穴が地中に向けて彫られていた。石と穴は、高層ビルとその地下駐車場を思わせるようなサイズ感で、穴にはただ、黒い布を覆われたような距離感を狂わせる闇が、ぺったりと貼り付いている。
こんな所に踏み込んで、無事に出て来れるだろうか。
どこからか、ふつふつと湧き上がろうとしてくる恐怖を、頭を振って振り払う。
隣を歩いていたタイナちゃんはこちらを一瞥すると、ぐぐっと伸びをした。
「さーて。そんじゃあ始めるっすか。――リュウタさん。ランタンの点け方、分かるっすか?」
「あ、ああうん。大丈夫」
今俺は、タイナちゃんとラトドさんが使っている、ポケットが沢山ついたショルダーポーチを巻いている。便利だからと、ラトドさんが買ってくれたものだ。リュックの中の、すぐ取り出せると便利なものはポーチに移して、そう優先度が高くないものはリュックに残して背負っている。
ランタンとは、このショルダーポーチの右手にぶら下げている、手の平サイズの球形をした携帯ランタンの事である。これも二人とお揃いで、ラトドさんが買ってくれた。ガラスを網目状の鉄が覆っていて、小さなメロンのような姿をしているのだが、上端にあるツマミを捻ると、灯かりが灯る仕組みだ。ガラスの中には
ここはやっぱり異世界なのだろうかと思いつつ、タイナちゃんと同時にランタンを灯す。足元の少し先を照らす程度の淡い光が、ぼうっと辺りを照らした。
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