040. ナマユウシャ
「まあ昼間にタイナの奴が言ってたが……。俺は元は、傭兵だったんだよ。その前は一人で旅をして、今みてえに魔物狩りで生計を立ててた。戦争が終わって、国から雇われていた期間も終わってまた旅暮らしをしてたんだが、たまには故郷に顔でも出すかと村に帰ってる所に、タイナと会ったんだ。丁度村の門の前で、両親とゴチャゴチャ言い合ってたな。訓練所に通う事について、両親と揉めてたんだよ。冒険者なんて危ねえからやめろって。でもそいつは聞かなくてな。なら俺が、一緒に行ってやるよつって、今こうしてここにいる訳だ。同じ村の出身者同士、俺はタイナの両親とも面識があったから、なら任せられるってな。以来そいつが一人前になるまで、面倒見てやってるって訳だよ」
そうラトドさんはぶっきらぼうに喋ると、がりがりと頭を掻いて、話し終える。
俺は昼間の、マルガさんの言葉をふと思い出した。
「ああ……。そう言えば同じ地方の出身だって、マルガさんが言ってましたもんね。同じ村の出身だったんだ」
「よく覚えてやがるな。まァ、そんなもんだよ」
照れているなと、何となくだけれど分かってしまう、ラトドさんの態度。でも指摘したらきっと、物凄い形相になって睨まれるだろうとも分かってしまって、ラトドさんの目を盗んでにやにやしていたタイナちゃんと、こっそり笑い合った。
森から突き出したように見える、岩のように巨大な石の数が増え始める景色を見ながら、ラトドさんは言う。
「――そろそろ気ィ引き締めろよ」
同時に馬車は減速を始めて、森を抜けた先に広がる、野営地に入った。
そこは普段は、地下採石場で働く人々の休憩所や、切り出した石を運搬する為のスペースらしく、資材置き場のようながらんとした場所だった。そこで止まった馬車を降りると、広い敷地内にぽつりと立つ二つの白いテントの、入り口に設置された篝に火が灯っている方に入る。
中には、地下採石場へ入り込む人がいないか泊まり込みで監視をしている、ワセデイからの警備兵達がいた。数は五人。全身鋼のプレートで出来た鎧を着込んでおり、頭にはヘルメットのような、顔を露出する兜を被っている。地下採石場の危険度を暗に示しているようで、俺は緊張した。そうだ。俺は、百三十人もの犠牲者を出した魔物を退治しに来たんだ。
テント内には、木製のテーブルと椅子が幾つか置かれ、そこで警備兵達は思い思いに過ごしている。中でも中央に置かれた、一回り大きなテーブルに広がる地図に目を落とし、難しい顔で何やら考え込んでいた警備兵の一人が、俺達に気付くと顔を上げた。
「――ああ! 勇者様! それにお二人も……! ギルド長から、連絡は受けております!」
「俺らはお供かよ」
不機嫌そうに眉を曲げる、一番にテントに入ったラトドさんを、「まあまあ」と慣れた様子で宥めたタイナちゃんが口を開いた。
「どうもお疲れ様っす。地下採石場の周辺を警備されてるって聞いたんすけれど、派遣されてるのは皆さんで全員っすかね? ギルドからウチらが来る前に、地下採石場からは引き上げといて欲しいって伝えといたと思うんすけれど……」
「はい! 地下採石場の入口は現在封鎖されておりまして、我々も立ち入ってはおりません。あくまで入り口に誰も近付かないようにと、見張りをしておりました」
「……あの、もしかしてその地図って、地下採石場のものですか?」
俺が言葉を発すると、さっきまで地図を眺めていた警備兵さんは、急に裏返った声で答える。
「あっ……ひゃい!! 魔物が現れた場所から、にゃにか掴めるものはないだりょうかと考えておりまして!!」
「生勇者に興奮し過ぎて気持ち悪くなってんぞ」
ラトドさんは冷たく言った。
他のテーブルで飲食をしたり、カードゲームをしていた他の警備兵さん達も、気付けば全員立ち上がっていて、俺に敬礼をしたまま動かなくなっている。どう反応したらいいのか分からなくて、微妙な愛想笑いを浮かべた。アイドルや芸能人って、こんな風なリアクションをされるのだろうか。ていうか生勇者って。
「まあ一生に一度でも拝めるか分からないっすからねー」
タイナちゃんは涼しい顔で言うと、テントの中央に置かれたテーブルに近付き、地図を眺める。するとその表情は俺のように、微妙な感じになった。
「おう……。これは……」
「どうした?」
怪訝な顔で言うラトドさんに、俺も続いてテーブルへ近付く。
両手でテーブルの縁を掴むと前傾姿勢になったタイナちゃんは、地図を睨みながら答えた。
「結構広いんすねえー……。まあ、大都市ワセデイの経済を担う場所っすから、予想はしてたっすけれど」
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