037. 持ツ者ト、持タザル者達。
「まァ今は取り敢えず、エリタイ退治を考えようじゃねえか。それで結局、お前は魔法出来んのか?」
ラトドさんの言葉に、ぎくりと肩が揺れる。
まるで心を読むかのように話題を切り替えてくれたラトドさんだったが、あんまり嬉しくない切り替え方だった。
「えーっと……。俺が住んでた世界の魔法って、こっちとはちょっと違うって言うか……。誰でもは、使えないものなんです」
俺は意を決して、説明する。
正直元の世界の話は……。特に、魔法の話は余り、したくない。
「全部を説明出来る程、俺も詳しくないんですけれど、そもそも魔法が使えるか使えないかは、生まれ持った性質で決まるんです。魔法使いの子供は魔法使いの子供で、普通の人間の子供は、普通の人間の子供といった風に。普通の子供は、どうやっても魔法は使えません。稀に普通の人間の間から生まれた子供でも、魔法を扱える力を持って生まれる事もあるそうですが……。まあ、滅多に無い事で。俺は、普通の人間の間に生まれた子供ですから、全く使えないんです。魔法を使える人間と使えない人間は、きっちり住む場所を分かれて暮らしていますから、お互いの事もあんまり知らなくて。魔法が使える人は魔法で生活し、使えない人は技術や道具で暮らしと、完全に互いの暮らしは分離されていて」
「何で分離されてんだ?」
ラトドさんが尋ねた。タイナちゃんも俺の話を、不思議そうに聞いている。
「何でって言うか……。気付いたらそういう仕組みになってたみたいで。俺が生まれる何世紀も前から既にあった形らしくて、そういうものなんだと思ってます。お互いが暮らしている土地の境界には、高い壁が設置されていて、行き来も出来なくなってますし。普通は一生、関わり合わずに過ごします。お互いに壁の中で生活が完結していますから、わざわざ越えてまで接点を持つ理由が無いって感じで」
少なくとも皆、そう思っていた。
「ふうん。まァ、そっちの世界の仕組みはいいけどよ」
ラトドさんは、関心はありそうだが今は仕事だという風に、話を戻す。
「つまりお前は元の世界じゃ、魔法が使えない側の人間なんだな?」
「はい。もう全然」
「でも伝説なら勇者とは、膨大な量の魔力を持っていたと語られているっす。それこそ魔法使いも名乗れるような、強力な魔法を操れるって」
タイナちゃんがそう言うと、ラトドさんは頷いた。
「うし。なら一丁、俺が魔法を使ってるから真似してみろ」
ラトドさんは言うと、俺とタイナちゃんが立つ辺りから少し離れる。
「えっ?」
「そっちの世界に本はあるか? あれをずっと読んでると、身体を動かした訳じゃねえのに疲れるだろう。魔法を使うってのは、集中力を削がれるもんで、そいつの加減で自分の魔力があとどれぐらいか、感覚で覚えるんだ。魔力ってのは、普段は血のように身体中を巡っているが、大凡全ての物質を通れる力がある。魔力の持ち主がそいつの行き先を意識すれば、指先に集中させる事も可能だ。魔力を集中させて、熱と火をしっかりとイメージすれば……」
ラトドさんは、斧を持っていない方の手を持ち上げてみせると、立てた人差し指が突然、ボンッと発火した。
「――こんな風に、火を起こせる。こっちの世界じゃ魔法とは誰にでも使える気軽なもので、ちゃんとやり方さえ知ってりゃあ、こうして生活の為の道具にするんだ」
俺はその光景が信じられず、飛び散る火の粉が消えて行く間も、呆然とラトドさんの指先を眺めた。
つまり、聞き込みの際一件目のおばさんが火を起こしたのは、そういう仕組みだったらしい。
「魔力を魔法っつう形へ変えるのは、はっきりとしたイメージが重要だ。火を起こしたいなら詳細に、例えばまるで、頭の中で火が燃えているように、今目の前で焚火を眺めているような気分で、強く正確に、魔力で何を作り出したいかを思い浮かべるんだ。想像力が豊かな奴は、魔法が優れているとも言われる。まァ取り敢えず基本の基本、この、火を起こす魔法からやってみろ。マスターすりゃあ便利だぞ。旅に火の魔法は欠かせねえ。お前は勇者だから、魔力の量は十分にある筈だ」
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