chapter 9/?
028. 作戦会議
「リュウタさーん! せんぱーい!」
ラトドさんの言う通りギルドの前で、タイナちゃんが手を振って待っていた。さっき応接室を出て行く時より荷物が減って、身一つになっている。
タイナちゃんは応接室を出て行く時、ここで待っているとは言っていなかったが、ラトドさんがそれを分かったのは、付き合いがあるからなのだろうか。特にその辺については触れず、ラトドさんはタイナちゃんに尋ねる。
「おう。タイナ。お前、荷物はどうした?」
「邪魔なんで宿に置いて来たっす。あと、武具屋に得物を預けて、軽くチューンアップを頼んどいたっすね。簡単なものなんで、一時間後には出来上がるとか」
「そうか。今から飯行って、作戦立てるぞ。敵の大体の予想がついた。今日中には乗り込んでぶっ飛ばすつもりだから、そこで何が食いてえかでも決めて待ってろ。リュウタとギルド長に会いに行って、その予定を伝えて来る」
「了解っす。先輩は斧の調整、武具屋に頼まなくていいんすか? リュウタさんも戦いになる前に、一回整備して貰った方がいいと思うっすけど……」
「ああ、俺も戦いの前に一つ、お二人に訊いときたい事が……」
「だーっ。一気に喋んじゃねえ。先にギルド。後は飯を食いながらだ。行くぞリュウタ」
ラトドさんは面相臭そうに言うと俺を促し、トノバさんに今日中に魔物を退治する予定である事と、地下採石場までの馬車を用意して欲しい旨を伝え、タイナちゃんとお昼に向かう。
「ワセデイと言えば石釜ショヘカっすよ! ここのレストランは美味しい上に、冒険者向けのボリュームのあるメニューが充実してるって評判なんす!」
タイナちゃんは俺達が聞き込みをしていた間に、実は昼食にと既に目を付けていたオープンカフェへ案内してくれると、白いテーブルクロスがかかる木製の円形テーブルに掛けながら、上機嫌で言った。
「ショヘカって、何?」
タイナちゃんと向かい合わせに座った俺は、ウエイターさんが持って来てくれた木製のジョッキに注がれた水を飲みながら尋ねる。またジョッキなだけに大量に入っているのだが、飲み切れるのだろうか。店には一般のお客さんもいて、一般の方には普通のサイズのガラス製らしきコップで飲料が注がれているが、どうやら他の冒険者を見る限り、冒険者にはこのジョッキで提供しているらしい。まあ魔物退治なんかで生計を立てている人達だから、沢山飲んで食べるだろうという配慮だろう。俺は一般人所か平均的な量を平らげる事も出来るか難しい体調だったのだが、こっちの世界に迷い込んでからは、人並みに食べる事が出来ている。疲れや運動量の関係で、単に食が進んでいるだけかもしれないが。
「ああ、知らないっすか? ショヘカっていうのは焼いた――」
「さっき注文したんだから待ってりゃ来るだろ。それより今は、仕事の話だ」
ウエイターさんから用意された、特別大きくて頑丈そうな椅子に掛けるラトドさんは、仏頂面でタイナちゃんを遮る。
タイナちゃんは俺の隣に掛けるラトドさんにむくれながらも、気を引き締めるように椅子に掛け直した。
「むう。久し振りに街でごはん食べられるんすから、ちょっとは楽しんでもいいと思うっすけどねー。――確か蓄積するタイプの魔力を持った、爪牙が得物の魔物だったすよね?」
「おう」
ラトドさんは頷いた。
午前の聞き込みで得た情報は、店への移動中と注文をしている間に、ラトドさんからタイナちゃんへ伝えている。
「生き残り共の傷から推測するに全長は、八メートルから十メートルって所だ」
「成る程。一件目の生き残りさんは魔物との相性が悪かっただけで重傷化……。でも、被害に遭ったのは一ヵ月前っていう時間経過から見ても、軽傷の割には未だその傷を引き摺っている方が殆どで、仕事に復帰出来ている方は、まだ一人もいないんすよね?」
今度は俺が答える。
「うん。浅い割には、中々治らなくてって言ってる人が殆どだった」
「という事は、元々体内に残りやすいタイプの魔力を持った魔物と見た方がいいっすね。つまり先輩の言う通り、中型種といった所っすか……。地下採石場という、日の光が届きにくい冷所を好み、かつそこから出て来ないという事は――」
ウエイターさんが料理を運んで来たので、一旦話は中断される。テーブルにずらりと並べられたのは、直径が四十センチはありそうな四枚のピザだった。
「えっ。ピザ?」
「ショヘカっすよ!」
「ショヘカ? これが?」
どう見てもピザだけれど、こっちの世界ではショヘカと呼ぶのだろうか。
ピザと言うよりピッツァと呼ぶべきなのかもしれない。生地が、宅配ピザのような硬くて平べったそうなものではなく、分厚くてもちもちとした印象で、耳まで美味しそう。しっかりと敷かれたチーズが見えなくなるぐらい、大振りに切られた具材がたっぷりと盛られていて、本格的だった。
タイナちゃんは考え込むような難しい顔から一転、目を輝かせて上機嫌になると、早速その内の、エビやイカ、カニらしき具が贅沢に乗った、シーフードっぽい一枚に手を伸ばす。
それを見ると、思い出したように、ぐるると腹が鳴った。鼻をくすぐるチーズの豊かな香りに、口の中は涎まで溢れてくる。
「おら。奢ってやるから、好きなだけ食えよ。戦いの前に腹減ったなんて、洒落にならねえからな」
「あ……ありがとうございます!」
俺もタイナちゃんのように目を輝かせてラトドさんにお礼を言うと、いただきますと手を合わせ、早速小皿に一番手近な、生のハム、トマトと……水菜? みたいな野菜が盛られ、その上に粉チーズが振りかけられた一切れを乗せる。直径が大きい分一切れも大きいし、ナイフとフォークも用意されていたが、豪快にそのまま齧った。
もっちりとした生地の触感に、まずやってくるのは、提供される直前に盛られたのだろう生のトマトの甘みと、程よい酸味。塩気が丁度いい粉チーズとの相性は素晴らしく、後から新鮮な水菜の歯ごたえが生ハムと共にやってきて、生地とその上に敷かれている、あつあつでたっぷりのチーズが、生の具材との温度差、触感の違いを引き立たせながら、濃厚な香りで鼻に抜けていく。
もちもち、ざくざくと、忙しなく咀嚼しながら、俺は、絞り出すように言った。
「……うまい……!」
「大層な奴だぜ」
ラトドさんは呆れたように笑いながら、マルゲリータのようなショヘカを齧る。身体が大きい分口も大きいのでその一口目で、もう半分だけになってしまった。
ハムスターのように頬をいっぱいにしながらショヘカを食べていたタイナちゃんは、慌てて飲み込むとラトドさんに抗議する。
「――いんや! ここのショヘカはほんとに美味しいんっすよ! ねえリュウタさん!」
「はい……! 俺、こんなうまいもん食ったの、久し振りです……!」
「いつでも食えるだろこんなもん。お前よっぽどの田舎モンか、貧乏人だったのか?」
「いやそこまでド田舎って訳じゃないですけれど、配給制になってからあんまりまともなもの食べられてないって言うか……!」
タイナちゃんが訊き返した。
「配給?」
「っああいや、――兎に角! ありがとうございます! ラトドさん!」
「分かったから冷めちまう前にさっさと食べろ。――それで、話を戻すが」
「エリタイじゃないっすかね。その例の魔物」
タイナちゃんは、もう二切れ目に手を伸ばしながら言う。
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