016. 根源を目指して



「そうです。その力があれば危険な旅も、勇者様なら乗り越えていける筈なのです。今までの勇者達が、そうであったように……」


 俺は、やや前のめりになりながら尋ねる。


「その、歴代の勇者達って、何をしたんですか?」

「世界を脅かそうとする魔物や災害、強大な国の侵略を退けたり、まだ誰も到達していなかった未開の地へ、足を踏み入れるなどと言った所でしょうか……」

「……まさに勇者の物語って感じか、冒険者って所なのか。じゃあ、その偉業を終えた後の勇者達は、一体どこへ?」

「彼らの行方は、誰も知りません……。旅から旅へと、世界を歩き回る果てに、気付けば誰もが彼らの行方を、見失ってしまうのです……。そうして彼らが伝説となった頃に、再び新たな勇者が異界により現れると……」

「うーん……」


 謎が謎を呼ぶと言うか、本当に怪しい話だ。でも真偽を確かめるには村を出て、ワセデイという都市へ向かうしか方法は無い。


 六日間も原っぱを彷徨い野宿か……。サバイバル経験なんて無いし、またエハアラに遭ったら怖いし……。


 いやでも、ここでじっとしてても始まらない。


 俺は歩いてでも野宿してでも、この世界の正体を知りたいんだ。


「……まあ取り敢えずその、ワセデイって街を目指してみるよ。この村から、どっちの方向にあるのかな?」


 コノセちゃんに尋ねてみる。


「後で地図を書いてあげるよ。何にも無い所だけれど、目印になる岩とか、大きな木があるから」

「ありがとう。それじゃあ……。旅に必要なものって、何があるか教えてくれるかな? リュックに大抵のものは入ってるみたいなんだけれど、旅とか出るの初めてで……」


 セモノ村長が口を開いた。


「それなら、村が支援しましょう。ガエルカを救ってくれたお礼です。食糧などはこちらで用意します。宿を用意しますので、今日はお休み下さい……。夕食は広場で宴と共に行われる予定ですので、それまでは村の中で、どうぞごゆっくりお過ごし下されば……」

「じゃあ、甘えさせて頂こうかな」

「宿屋さん、案内するね」


 コノセちゃんがキッチンにお盆を戻しに行く間に、席を立った俺は、セモノ村長にお礼を言うと、コノセちゃんに連れられ、宿屋へ案内して貰う。宿屋というより民宿といった感じの簡素な佇まいだったが、お代は要らないと言ってくれた手前文句は言わない。


 夕食までする事も無いので、コノセちゃんに旅の心得を教わりながら村をぶらぶらしていたら、小さい子供達に勇者だ勇者だと集まられてしまい、見世物のような気分になった。でも久々にのんびりと外を歩き回れるのはやっぱり、気持ちのいいものだった。


 元いた世界じゃ、こんな風には外出出来ない。エハアラよりよっぽど恐ろしい魔物達と魔法使いが、俺達を滅ぼしてしまおうと、今にも攻め込んで来ている真っ最中だったのだから。


 元の世界の家族や、友人達の事がふと心配になったが、今は、考えないようにした。


 広場で行われた宴でしっかり食事を摂り、宿屋で早めに休んだ俺は、夜明け頃に目覚めると荷物を纏め、門の前に立っていた。村の人達はもう出て行くのかと名残惜しそうに昨日から言っていて、早朝にもかかわらず多くの村人が、見送りの為に集まってくれている。


 俺は村人達へのお礼を代表して、セモノ村長に言った。


「……それじゃあ、色々ありがとうございました」


 セモノ村長は、にっこりと応える。


「こちらこそ、この村に寄って頂き、本当にありがとうございました……。村を救ってくれた恩は、この先も語り継がせてて頂きます……」

「んな大袈裟な。気にしないで下さい。まぐれだったんだから」


 続いてコノセちゃんが、一生懸命に言った。


「またこの辺に来る事があったら、遊びに来てね? いつでも歓迎するから!」

「うん。ありがとう」


 宴は多くの村人達と打ち解けられて楽しい時間を過ごせたが、コノセちゃんが名残惜しそうに言うのが、特に胸を痛くさせられる。


 でも、いつまでもこの村に留まっている訳にはいかない。一日も早くワセデイに着いて、勇者について調べないと。この世界の正体を知って、出来れば帰る方法も見つけ出すんだ。やって来る事が出来たなら、戻る方法だってきっとある筈。エハアラがどうたらと、怖がってちゃあ始まらない!


「……じゃあ、またいつか!」

「元気でね!」


 コノセちゃんを始め、村人達が大きな声で送り出してくれると、俺はコノセちゃんが書いてくれた地図を頼りに、ワセデイへ歩き出した。村が用意してくれた干し肉などが入っている袋で荷物は増えたが、勇者の力のお陰で、重たいとは感じない。



 期待と不安が溢れる胸は、リュックよりもいっぱいになっていた。



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