013. 混乱の中を。
抱えていたお礼の品を投げ捨て、門の向こうへとひたすらに足を前へ出す。
そんな訳あるか。
そんな訳あるか。
森へ行くのは怖いから、門を飛び出すと取り敢えず、原っぱが続くだけの右手へ曲がる。
異界? 異界って何だよ? あのラノベとかでよくある、異世界転生ってやつの話か? でもあれは、フィクションだろ? 実際になんて起きてたまるか。何で勝手に神の都合で殺されたと思ったら、全然違う場所で生き直せなんて言われなきゃなんねえんだよ!
「うわああああああああ!!」
怖くなってか、叫んでいた。
足を止めてしまうと、頭を抱える。
「そんな……。死んだ……? あぁあ、何で……。まだそこまで進行してなかった筈だろ!? なあ!?」
怒鳴るが俺の周りには、当然いつもの主治医はいない。ここは病院じゃないし、病院なんて最初から建ってない。どこかも分からない、ただのだだっ広い原っぱだ。
何だ……? 病院に向かうまでの外出中に、何か、変なもんでも貰っちまったのか? まだあの地域は安全だった筈……。魔法使い共も連中の魔物も、まだ沿岸部の地域で暴れてるって、家を出る前、朝のニュースで言ってたじゃねえか! それを国が、撃破したんだろ!? 嘘……? 嘘なのか? あのニュースは実は偽物で、本当はもう、俺達の国は……。
「リュウタくん! 待って!」
後ろから飛んで来た声に驚いて、頭を上げる。
ぎょっとして振り返ると、大きく息を切らして、コノセちゃんが追いかけて来ていた。俺を刺激させまいとしているのか、かなり距離を取った先で足を止めると、両膝に手をついて息を整える。
「ま、待って……! 行かないで……!」
「……コノセちゃん……」
苦しそうに訴えるコノセちゃんに、罪悪感が湧き出てしまって、少しだけ我に返るような気分になった。
「最初はそうやって……。びっくりする人も、いるの……! そ、そうだよね、いきなり死んだって、言われて……違う世界に、連れて来られちゃったなんて、言われたら……! でも、私達っ、リュウタくんの、味方だから……!」
息が整ってきたコノセちゃんは身体を上げると、戸惑っている俺の目を、真っ直ぐに見据える。
「リュウタくんにとっては、受け入れられない場所かもしれないけれど……。でも、リュウタくんのお陰で私達が助かったのは、本当だから……! エハアラだって、普段だったら大人達が何人も出て、やっと追い払えるかってぐらいだし……。ガエルカおじさんを助けられたのも全部、リュウタくんのお陰なんだよ! だから……パニックにはなっちゃうし、中々受け入れられないかもしれないけれど……。――私達は本当に感謝してるし、お礼にごちそうも用意してるから、それを食べて落ち着いて欲しいって言うか、その……!」
「……セモノ村長に訊けば、勇者の事ってもっと知れるのか?」
「えっ?」
急に言い出した俺に、泣きそうになっていたコノセちゃんは、目を丸くした。
「ああいや……。ごめん、驚かせて……」
俺は何となく恥ずかしくなってくると、頭を掻きながら向き直る。
「歓迎してくれるのは……嬉しいよ。感謝されるのも、必死にやっただけだったけど、嬉しい。……急に死んだとか異界とか言われても、全然受け入れられてないけれど……。でも、村長に訊けば勇者の事、もっと、知れるのかな……?」
目を丸くしていたコノセちゃんは少し間を置くと、強く頷いた。
「あっ――うん! 勇者の伝説は、この世界の人なら皆知ってるけれど、おばあちゃんはもっと詳しいよ! 異界から来た勇者様は皆、自分の目的を持って、世界を回るんだって言ってた!」
「そっか……」
俺はコノセちゃんの言葉をしっかり受け止めると、何とか口にする。
「じゃあ俺、死んじまったってのは、本当、なのかな……?」
コノセちゃんの表情が、苦痛に歪んだ。
そして少し伏し目がちになると、胸の前で両手を組むような仕草を見せて、慎重に言葉を探す。
「……ごめんなさい。それは……。私には。おばあちゃんに訊けば、何か分かるかもしれない。でも、リュウタくんの姿は皆ちゃんと見えてるし、幽霊になった訳じゃ、ない、と思う……」
「確かに、別に半透明になったり、足が消えてるって訳でもねえしな……」
俺は、自分の足を見ながら呟いた。
今更だけれど全身ははっきり見えてるし、足だって地面に着いていて、今まで散々移動して来た。でも夢って片付けるにはリアル過ぎるし、現実とするにも突飛過ぎて受け入れられない。やっぱり俺は病院にいて、そこで何かあって意識が切れた次には、この場所に立ってたんだ。死んでいるとはとても思えないけれど、生きている上での現象としても、余りにぶっ飛び過ぎている。
まずは村に引き返して、村長から話をしっかり聞いてみよう。俺以前にも勇者がいたような口振りだったのも気になるし、もしかしたら、帰る方法があるのかもしれない。俺以外の勇者とはどういう人達で、何をしに行ったのかさえ掴めれば、大きなヒントになる筈だ。
俺は、最後に一度だけ大きく息を吐いて、気を落ち着かせるとコノセちゃんへ近付く。
「……追いかけて来てくれてありがとう。ちょっと、気が楽になったよ。村に戻ろう」
コノセちゃんは、またぽかんとした。でも俺の言葉を理解すると、心配の余りだろうか微かに滲んでいた涙に気付き、慌てて拭う。
「――うん!」
俺はその健気な笑顔に、まだぎこちない笑みを返した。今度はコノセちゃんの歩幅に合わせ、ゆっくりと歩き出す。
――この世界が何なのか、意地でも見極めてやる。
静かに覚悟を決め、奮い立たせるように拳を握った。
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