002. ループ・ループ
然し、その覚えた機械的な違和感は一瞬で、そんな事よりもと少女の言葉に反応してしまった。
「あの、何なんですか。俺ん
東本願寺だっただろうか? いつも母が「どっちだったっけ?」と、親父側の親類の葬儀の度に首を捻っては、
長男に嫁いだ嫁だというのに、長男の家の葬儀の上げ方を未だ覚えていないのかと、とっくにくたばった親父側のばあちゃんからは、度々お小言を言われていたそうだが、母は「私が結婚したのはお寺じゃないですし」と、平然と打ち返していたそうだ。天然というものは恐ろしい。怒られているという事にすら気付いていない。そんな母親の元で暮らす所為か俺達子供達も、親父が西なのか東なのか、未だによく分からないまま葬儀に参加している。破天荒なファミリーだ。親父もどうでもいいと思っているらしく、そういう点では全く長男らしくない。
「旅の準備はこちらで整えております。さあ勇者様、いざ、己が使命を果たす旅へ!」
「…………」
確かに我が家の破天荒ぷりについてたらたらと考えて放置していたのは謝るが、それにしたって人の話を聞かない女だと、ドツいてやろうかと思った。
然し。俺は紳士なので、女性を殴らない。
殴りてえなと思うぐらいにムカつく頻度は、短気なので正直頻繁にあるが。
「……何なんすか、ここ」
「ここは洞窟です!」
見た分かるわ。
そういう意味合いの質問じゃあねえんだよ。
「勇者様。時は金なりです勇者様。さあ、これをお持ちになって、運命の導きの元へ!」
「あほみたいに呼称を繰り返すんじゃねえ。つか何なんだよ勇者様って……」
向かい合ったあほシスターが、右手で脇を示した先には、ぱんぱんに膨れ上がった茶色い大きな、登山用を思わせるような丈夫そうなリュックと、剣道の防具みたいな金属製のものが一ヵ所に固められ、地面の上に置かれていた。何やら、鞘に収まった剣まで見える。
見間違いでなければそれは、全て西洋風なデザインを施されており、もっと具体的に言うならば、それを纏えばゲームの冒険者がしているような格好に、かなりの完成度で近付く事が出来るもの達だった。
俺はその荷物を、じっと見たまま口を開く。
「つか、その『勇者様』って、何すか」
「あなた様の事です!」
「いや、違いますよ。俺の名前はもっとこう、個人名らしい普通の名です」
「時は金なりです勇者様。さあ、これをお持ちになって、運命の導きの元へ!」
「…………」
本当に壊れた給湯器のように、ユウシャサマ、ユウシャサマ、ウンメイノミチビキノモトヘと繰り返すあほに辟易しながら、同時に頭の隅で、しっかりと思う。
全然覚めねえじゃねえか。この夢。
どんだけ冒険したいんだよ。俺。
夢とは夢だと自覚出来ながら見るものと、自覚しないまま目覚めてから夢だと気付く種類があると、小難しい本を読みながら、
つまりだ、その
……あるいは、もしかすると、これは確かに人には言えない願望だが、俺は
「馬鹿げてる」
つい口に出して、吐き捨てていた。
……まあ、どちらにせよこれは、願望らしい。
なら付き合って、消化してやるか。夢の中でなら、何をしたっていいだろう。その内また、適当なタイミングで目覚めるさ。始まるのが突然なら、終わるのも突然なのが夢である。真面目に構えている方が馬鹿らしい。
でもやっぱり、急な事に受け入れられなくて、自分が見ている幻だとは分かっていても、釈然とせずがしがしと頭を掻く。
「……仕方ねえな。分かったよ。旅立ちます。それで、そこの荷物は何だ、持って行っていいやつなのか?」
俺の問いにシスターは、また両手を胸の前で組んで、上目遣いになり目をうるうるさせた。
「……ああ。やっと届いたのですね。運命に導かれし勇者様にも、私の声が……!」
つくづくコピペの捗る聖女である。
「それは肯定って意味で取っていいんだよな」
もう面倒なので、いちいち突っ込まない。
夢の中とは言え、ロボットみたいな奴だ。
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