被検者番号3OE:夢か現の葬送行進曲《フューネラルマーチ》
木元宗
――雪に飲まれる前に(残り時間 252,288,000秒)
chapter 1/?
001. ソノ報道ハ、本物デスカ?
だって俺は学校の、健康診断に引っ掛かったんだ。
まあ、軽いものさ。そう言い聞かせて、学校から指定された病院へ、休日を用いて向かう。いつも通り待合室で説明を受け、簡単な問診に答えると、すっかり慣れてしまった検査が始まった。精々かかっても、一時間ぐらいだろう。予想通りとはいかなかったがまあそれでも、一時間と二十分程度で検査は終わり、診断結果が届くのもいつも通り後日と聞いて、受付から帰宅してもいいと声を掛けられるまで、広い待合室のソファーに掛け、垂れ流されていたテレビを、ぼんやりと観ていた。
まだ午前中の、昼にもまだ少し遠い中途半端な時間だったので、中年や年寄り向けの、退屈な内容だった気がする。まあまだ、いいか。そういうぼんやりとした内容で。各地の被害状況とか、戦況とか、どこがやられて、何を撃破したかとか、そういう恐ろしい情報はどうであれ、俺はあんまり見たくない。まだ、まだ遠いと言える地域の出来事だとしても、何だか着々と、俺達の生活を蝕んで来るような空恐ろしさを感じて、最近は、テレビそのものすら観ていなかった。
俺にはどうしても、負け戦にしか見えない。
連日敵を撃破したという、国からのニュースが流れているのにそう考えてしまうのは、単に俺自身が、健康診断なんかに引っ掛かってしまい病院にいるという、気が塞ぎがちになってしまうような状態にいるからだろう。
こんなありふれた理由で検査なんて、学校も随分神経質だ。そんな高が、軽い不整脈が見つかった程度で。大袈裟過ぎて欠伸が出る。まあ、子供を預かっている学校からすれば、そうは雑には扱えないか。
そう思っていると、覗き込むように左手からひょっこり現れた、若い女の人の受付から、帰宅していいですよと声を掛けられる。だからよっこいしょとおっさんみたいに、待っている間の退屈の所為で、重くなった腰を上げたのだ。
そこでぶっつりと、記憶が切れる。
その直前に、コツンと乾いた音がしたような気がするが。
次に俺という人間の記憶を、リアルタイムで形成し始めたのは、この薄暗い洞窟の中で、立ち尽くしているという現在だった。
目の前にはぽっかりと、緩やかな上り坂の果てに地上へ向かう、大きな出口が見える。もうほんの目の前だ。
外の景色は、どんよりとした曇り空で、時折ゴロゴロと、雷が走っていた。遠くに岩山のようなものがぽつぽつと見えるが、距離があり過ぎて霞んでしまい、それが正確な情報なのかは分からない。洞窟の中には、壁の両脇に
「いやいやいやいや」
いやおかしいだろ。何だよ急に。夢か?
受付から声を掛けられるまでの待ち時間が
いや確かに子供の頃は、テレビのヒーローとかに憧れて、俺もあんな風に必殺技とか撃てたらいいのになって、無邪気に胸を躍らせていた少年だったのは認めるが、俺はもう十七歳である。もうアウトだろ。
「お待ちしておりました勇者様!」
意識が切れる程の集中力でこの異常な意識を作り上げるってお前、とんだクリエイティブな野郎だな。進路は何かしらのアーティストか?
「お待ちしておりました勇者様!」
流石にこれは自分でも引く……。もっと大人になっていたと思っていたのだが、俺の意識はまだまだキッズだったようだ。いや本当にやばいな。ガキ過ぎだろ。家帰ったら、何か賢そうな本を読もう。太宰治? 江戸川乱歩? こんなのもし周りに知られたら、幾ら
「お待ちしておりました勇者様!」
「うるっせえこちとら必死に状況を理解しようとしとんじゃ壊れた給湯器みてえに
隣にずっと立っていたとは分かっていたが、それ所じゃないので無視していた金髪の女に怒鳴り散らす。
だってこの状況もやばいが、この女の姿も非常にやばい。少なくとも日本での一般的な感覚では、計り知れない異質さを纏っているのだ。だって全身真っ白の、所謂シスターというような衣服に身を包んだ、俺と同じぐらいの歳の少女が立っているのである。こんな洞窟なんて、教会があるとは思えないような場所で。
どう見ても日本人には見えないが、身長はその年頃の日本人と比べてもやや小柄。そしてやっぱりお国が違うと、外国人らしい透き通るような白い肌と、金色の髪が言っている。瞳の色は青色で、どう見てもやっぱり、日本人ではなかった。顔は全体的に幼さが残る、甘い印象が特徴で、何故だが俺を見上げて、目をうるうるさせていた。
「……ああ。やっと届いたのですね。運命に導かれし勇者様にも、私の声が……!」
そしてどうしてか、機械的な印象を受ける。
どこかまるで、作り物のようだと。
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