『創世神』ガイア
(目覚めよ……)
ん、何だよまたあんたか……。
(目覚めよ……)
……もう一回寝よ……。
(力が欲しいか?)
力……力?力って、どんな力だ?
(おっ、ようやく食いついたな)
いきなり普通に喋りだした……。
あんたが何をしようとしてるのか知らないけどさ、今俺は力が足りなくて困ってんだよ。あんたの言う力が何かによっちゃ、興味がある。
(知ってるさ。まあ、乗り気になってくれてよかった。ひとまずこっちに来い)
こっち?こっちってどっちだよ。
すると、意識が何かに吸い込まれるような感覚があった。
気づけば、俺は何だか妙な部屋の中に立っている。
ベランダがないので、賃貸マンションというより、どこかの一軒家の奥にある一室らしい。結構広く、十畳くらいはあるだろうか。
俺から見て右奥にはクローゼット、その手前にベッドが置いてある。
部屋の中央にはガラス張りのローテーブルがあり、床にはクリーム色の絨毯が敷いてあった。
左側には、本棚が二つほど連ねて置いてあり、その上には窓が見える。
見えるんだけど。
そこで俺が自分でここを「妙な部屋」といったのがなぜかわかった。
窓の外は、ガラス越しとはいえどんよりと、しかも奇妙な色合いをしている。
振り向けば、入り口にドアはなく、その向こうの空間も似たような色だ。
ここはどこ……いや、何だ?
俺から見て真正面、部屋の奥には何やらテレビでゲームをしている男。
その左にはパソコンが置いてあり、ゲームと呼べるものはそこで一通りプレイできる環境になっているらしい。ディスプレイはなぜか二台。
その更に左の壁際には、何やら大きな仰々しいデザインの鏡が置いてある。
突っ立ってこの部屋を観察していると、真正面の男が振り向き、俺に声をかけてきた。
「ようこそ俺の部屋へ。まあ、座れよ兄弟。ゲームでもしようじゃないか」
その男は、口元だけが出るような仮面に覆われていて、どんな顔をしているかはわからなかった。ただ、得体のしれない感じがする。
「そんなに警戒するなよ。今から色々と話してやるから。ほれ、ここに来い。俺は退屈なんだ」
そう言いながら男は、自分の隣にクッションを持ってきて、ぽんぽんと叩いた。
考えていても始まらない。移動しながら、俺は当然の疑問を口にする。
「あんたは誰だ?」
男の隣に座り、用意されたコントローラーを持つ。二つのディスプレイには、全く同じ、有名なPC用ゲームのタイトル画面が映し出されている。FPSで、ゾンビを撃ちまくるやつだ。これはコンシューマー機への移植版だな。
「地球の管理者。人間風に言えば……『創世神』ガイアと言えばいいか」
は?
俺は思わず、ガイアと名乗った男の方を振り向いた。
「どうした?兄弟。始めるぞ」
どうしたって……。何でこいつ平然としてんだ。ていうか何でゲーム?
「地球のサーバーに繋げるけど……日本のサーバーだし、何書いてあるかは兄弟なら読めるよな」
「ちょっと待てよ。何だよガイアって……。あと、俺普段はPCのゲームしかやらないから、キーボードとマウスじゃないときついんだけど」
「む、そうか悪かったな。あいにくこのゲームは移植版しか持ってないんだ。PCでやるには電子マネーを買って来ないといかん」
そういってゲームは始まった。やりにくい。コントローラーなんてほとんど使ったことねえよ。ていうかこいつ上手いな……。ゾンビごとの行動パターンや対処法とかも完全に把握してる。俺完全に足手まといじゃん。
「兄弟……このゲーム下手くそだな」
「あんたがうますぎるんだろ……」
「俺のことはガイアでいいよ。俺は兄弟を何て呼べばいい?」
「ラスナでいい」
その後はスラスラステージをクリアしていくが、俺は途中で死んでしまった。すると、ガイアが立ち上がって背伸びをし始める。
「一人でやってもつまんないし、そろそろ本題に入ろうか」
最初からそうしろや……。
そう思ったが、俺は黙ってガイアの話を聞いた。
「ラスナ=アレスター。お前が魔法を使えるようにしてやろう」
…………。
えーと。
「何だか俺のことをある程度は知ってるようだけど……。何でだ?」
「兄弟なら薄々感づいているだろう。そこの鏡を見ろ」
ガイアが部屋の隅に置いてある鏡に向かって手をかざすと、見慣れたマダラシティの風景が映し出された。
「これは……マダラシティか?」
「俺がガイアだってことはこれでわかってもらえるだろう。ほれ、これはサービスだ」
次に、鏡にはユキが映し出された。さっきも見た、ホテルの部屋だ。
今は深夜らしく、ユキはベッドの上ですやすやと寝ている。
「っておい!盗撮じゃねーか!やめろ!」
「またまたぁ~気になる女の子の寝顔だよ~?もうちょっと見てたいんじゃないのぉ~?こいつぅ~」
くっそうぜえ!
「何なら今度サービスシーンも見せてやるよ」
「い、いやそんなの、だっ、だめだ!やめろ……デュフフ……」
しまった、下心の部分が少し漏れてしまった!
「兄弟も男の子だねえ……。まあ、それはいいや。次は俺の話だ」
鏡からユキの姿は消えて、何も映さなくなった。
「さっきも言ったけどな、俺は退屈なんだ」
「はあ」
「『創世神』なんて人間は呼ぶが、俺にはそう大したことはできない。人間の生命を生み出したり、ましてや世界を創造したり何てできやしないのさ」
…………。俺は、黙ることで続きを促していく。
「俺の主な仕事は、ここでこうやって地球と天界の人間を監視して、何かあれば罰を下すように、七つの神々に命令を下すだけだ」
それは聞いたことがある。少なくとも天界では、神々に禁止された事をした場合には、ひどい場合には例えば突然雷が落ちてきたりして死ぬ。怖い。
「後はたまに俺の数少ない力を使って遊ぶ……人間たちが『天界の門』と呼んでいるあれを作ってみたりな」
「あれはあんたが作ったものだったのか……」
「ああ。少しくらいなら天界に人間を住まわせてみた方が面白いかなってね」
しかしそこから、ガイアは少しずつ語気を強め始めた。
「でもどうだ。人間は一度、世界を支配しようとするという過ちを犯し、罰せられたというのに、今また、過ちを犯そうとしている」
「また?またって何だよ」
「俺は思ったんだ。もう、いいかなって。天界にいる人間は滅ぼそうかなって」
こいつ、さっきから俺の質問にはたまにしか答えてくれないんだよな……。
「地球だって同じように戦争とかしてるんだろ?そっちはいいのか?」
「あっちは天界ほど俺たちの力は及ばないし、何より俺たちの住んでるところから一番遠いからまあいい。しかし、天界ではだめだ。神々の世界やこの部屋から近いからな」
地球で起こっていることはほとんど他人事、天界で起きていることはそうじゃないってことでいいのか。
「そこでだ、俺と取引をしよう、兄弟。魔法を使えるようにしてやるから、その力を使って『七か国戦争』に八人目、ヴァレンティア王国の代表者として出場し、そこで優勝してみせてくれないか。そしたら、人類を滅ぼすのはやめる」
また突拍子もないことを言うなあ……。
聞かなきゃいけないことが多すぎる……。
「質問してもいいか?」
「どうぞ」
「どうやって魔法を使えるようにするんだ?」
「それは取引が成立した際のお楽しみだ」
「ヴァレンティア王国から代表者を出すなんて、『七か国連合評議会』の連中は納得するのか?」
「納得するかはわからないが、いつも通りの方法で認めさせる」
いつも通りの方法ってのは、お告げだ。
最初はお告げなんて、信じるやつと信じないやつ、半々くらいの割合だった。宗教と同じだ。
でも、お告げ、つまりガイアからの忠告を聞かないやつらには、必ず罰が下るので、今ではお告げを無視するやつなんて誰もいない。
まあ、連合評議会のやつらは納得しないだろうな……。
「じゃあ、何で俺なんだ?」
「いい質問だっ!」
この質問を待っていたかのように、ガイアのテンションがあがる。
「俺が人間たちに天界に住むのを許したのはな、不完全だからなんだ。神々と違って、俺の言うことを聞かないときもあるし、過ちも犯す。だから見ていて面白い。俺の退屈を、少しだけどうにかしてくれるんだ」
あのゲームを極めてるくらいだし、本当に他にやることがないんだろう。
「でも、人間が天界に住むにあたって、デメリットの方が多くなってしまった。色々とやりすぎだ。もうそろそろ滅ぼしちゃおうかな?なんて俺は思っちゃうわけ」
そろそろコンビニに飯買いに行こうかな?みたいな感じに言うな。
夕飯感覚で滅ぼされたらたまったもんじゃない。
「そこに兄弟、お前を発見したわけだ。俺は人間たちのステータスや心の中とかはわからない。本当に下界の様子を見ることができるだけなんだ。だから、魔法が使えない人間なんてのを見つけたときは、こりゃ面白いと思ったわけ」
「コンビニで奇抜な新商品を見つけたときと似たような感じか」
「そういうことだ」
そういうことなのかよ……。
「俺の数少ない力を使えば、ある程度は人間の運命を操ることができる。でも、魔法を使えない人間なんてものは当然作れない。イレギュラー中のイレギュラーだ。そこで兄弟に魔法を授けて戦わせてみたい!と思ったわけよ」
なるほど、一番くじ引いてみたい!ってのと似てるな。
一番くじってのは、一回500円とか600円でひけるくじのことだ。
そのくじに決められたテーマにまつわる景品が用意されていて、漫画やアニメなんかのキャラグッズが手に入るものが多い。
少し値段は張るが、ちょっと引いてみたいな……どうしようかな……ってなる。
一番くじは少し違うか……こいつにはあまりデメリットがないし。
こいつの言い分はわかった。でも……。
「あのさ、ガイア。俺は人類が滅ぶとか、今更魔法が使えるとか、そういうことにはあまり興味がないんだ」
「…………」
ガイアは黙っている。もう、俺が何を言いたいのかわかってるんだろう。
「そりゃどっちみち俺たちも死ぬのなら、戦わなきゃいけないんだろうけどさ。もし俺がお前の言う通りに優勝できたら、俺の願いを聞いてもらえないか?」
「あの女のことかい?」
「そうだ。見てたんならわかるだろ。あいつはアイドルをやめたがってる。どうにかしてやりたいんだ。そのためなら俺は、何だってできる」
ガイアの仮面の下から見える口元が、にやりと歪んだ。
「いいだろう。兄弟が本気になってくれないと俺もつまらん。お告げを使って、税金の徴収を許可したりとか、まだ具体的には決めてないけど、あらゆる手段を講じることを約束しよう」
それを言われれば、俺にはもう他の選択肢はない。
「わかった。やるよ」
「ようし!取引は成立だ!ラスナ=アレスターよ!目が覚めたら『希望の丘』へ行くがよい!そこにお前専用の『神器』を置いておく!後のことはそいつに聞いてくれ!なお、俺が人類を滅ぼそうと思ってることは秘密な!俺にばれてることがばれちゃうと面白くないからな!」
そいつ?人みたいな言い方だな。そこに案内人でも置いてくれるのか?
それと人類が滅ぶかも、なんて言われなくたって言えないだろ……。
「それと、Tyoritterの俺のアカウント『ガイア様のお告げ(ガイア教公式)』をフォローしておくように!」
アカウント持ってんのかよ、ていうかそれ教会のアカウントを私物化してるだけじゃね?
「じゃ、一旦お別れだ、兄弟。また会おう!」
その言葉と一緒に、俺の意識は遠のいていった。
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