episode:27【話しかけやすい人】

 全く面識のない人に話しかけられることが多い。これは今に始まった話ではなく、幼い頃からそうだった。


 幼い頃の私は、この現象を【ラッキー】と呼んで素直に喜んでいた。なぜなら、知らない場所で知らない人に話しかけられ、時には何かを貰えるからだ。


 学生の頃、友人とよく行っていたゲームセンターがあった。あの当時、プリクラが爆発的に流行っていて、暇さえあればゲームセンターまで自転車を走らせた。


「今日は、どの機械にするー?」

「あ! 新しい機械入ってるよ!」


 何枚かプリクラを撮った後、ユーフォーキャッチャーが並ぶコーナーに移動した。これもいつもの流れ。そこで好きなキャラクターのユーフォーキャッチャーを見つけ、奮闘するも玉砕……。収穫が無く、肩を落としていると──


「これ、あなたにあげる」

「え?」


 声がした方を見ると、海外のお兄さんが私が狙っていた景品を片手に立っていた。もちろん、面識は無い。見知らぬ人から物はもらうな!と学校や世間が厳しくなった辺りで、尚のこと私は断った。


「気にしないで。はい、どーぞ」

「え、でも……」

「ばいばーい」


 景品を私に渡すなり、海外のお兄さんは満面の笑みを残し、彼の友人たちと去ってしまった。「ありがとう!」と小さくなる背中に声を飛ばした。


「やったじゃん! 【ラッキー】だね!」


 友人に言われ、「うん……」と頂いた景品に目を向けた。だが、歳を重ねるにつれ、【ラッキー】とは思えなくなっていた。むしろ、どうして私だけ知らない人に声をかけられるのか不思議だと思うことが増えた。友人だって、隣にいたのに……。


 接客業に就き、この【ラッキー】スキルは効力を発揮する。お客様から声を掛けられることが増え、お客様とコミュニケーションを取り、「また来る」と言ってもらえたり、「話せてよかった」と満足して帰られたり。接客業向きかもしれない。


 ただ……困ったこともある。入社したばかりで、専門的なことを訊ねられても答えられなかったり、「あの木は何の木?」と職業とは全く関係のない質問をされたり……。元々、人と話すのは嫌いではないから話しかけて頂くと、心が温かくなる。


 それに、【ラッキー】なことだけではない。面識のない人からの無茶ぶりに巻き込まれるケースもある。


 高校のとき、アルバイト先であるコンビニへ歩いて向かっていたら、対向側から二人の小学生が自転車に乗ってやって来た。なんだか、楽しそうに話しているなぁと思っていたら──


「オッス! オラ、孫○空!」


 すれ違い様に名台詞を残していった。どう対応していいか分からず、ただ笑うしかできなかった。


 また別日に出勤時刻に間に合うか微妙でバイト先まで走って向かっていたら、道路沿いの家の前にいたおばさんから「あら? マラソン? 頑張ってーー!!」と熱いエールを送られたこともあった。これまたどう返したらいいか分からず、「ありがとうございます!」と礼は述べたが、どう見てもマラソンするような服装じゃない。ワイシャツにジーパンでマラソンはしないだろう……と心の中で突っ込みを入れた。


 そして、先日。職場から歩いて帰宅していると、対向から来た自転車に乗った博士のような髪型をした面識のないおじ様が突然片手を挙げた。なんだろう……と視線を向けていたら、私の顔を見て「ぱぁっ!」と叫んだのだ。そのまま、おじ様とはすれ違ったのだが、新しい挨拶か何かか……?


 考えても答えは出なかった。首を捻りながら歩き進めていると──


「はーい」と頭上から声が降ってきた。見上げれば、高架下を歩いている私に上の道路から面識のない海外のおじ様が手を振っている。


「さようならー」

「……さようなら」


 軽く会釈をし、互いの姿は見えなくなった。この不思議な出来事が五分も経たない内に立て続けに起こった。……もはや、【ラッキー】ではない。ここまで来たら、【ミステリー】だ。


 きっと、これからも私の怪奇日常は続くのだろう。これを元に話を書けという執筆の神様からの贈り物なのかもしれない。迷惑だとも思うが、ネタに困らないのは書き手として有り難いこと。


 職場の先輩に話したら、笑っていた。


「話しかけやすいんじゃない? いいことだと思うよ」

「そんな雰囲気出てます?」

「うーん……何も考えてなさそうな雰囲気は出てるよね」

「それって、つまりバカってことじゃないですか!」

「さぁ、どうだろうねー」


 いいんだか、悪いんだか……。



話しかけやすい人【完】

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