episode:25【虫】


 今思うと、幼少期のおこないが引き金になっているのかもしれない……。


 虫が苦手な人も多いが、私は割りと平気な方だ。ただ、Gは受け入れられないが……。それ以外は何とも思わず、触れる。


 幼少期は特に怖いもの知らずで、蜜蜂を何匹片手で捕まえられるかという遊びを自宅の庭先でやってみたり、幼稚園で他の園児たちがキャーキャー怖がっている毛虫に近づき、踏み潰したり。今となっては、虫たちに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 そう思うようになったのには理由がある。


 小学生に進学してから、どこかへ出掛ける度、虫に刺されるようになった。それもいつ刺されたのか、どんな虫に刺されたのか分からない。帰宅する頃になると、刺された場所に痛みが走る。足を刺された時は熱を持ち、象のように膨れ上がり、歩行すら困難で父に背負ってもらった。この現象は中学に上がっても、高校に上がっても続いた。高校では修学旅行先で、それも初日に刺され、二泊三日の旅行は足の痛みとの同伴となった。


 それだけではない。普段生活している中でも、虫がなぜか私にだけ寄ってくる。逃げても逃げても、追ってくるのだ。


 おまけに洗濯物の中に足長蜂が入っていたことも。気づかず、ズボンに足を通し、太ももを刺された。十年以上経った今でも、あの激痛は忘れることができない。


 不思議なことはまだある。


 夏になると、毎年決まって父方の実家に遊びに行った。田んぼに囲まれた田舎で、祖父の家から五分もしない場所にある公園はカブトムシやクワガタの宝庫だった。そこで捕ったカブトムシやクワガタを自分の家に持ち帰り、大切に育てていたのだが、気づくと小さな蟻がどこからか現れて、カブトムシやクワガタを覆い尽くす。さすがに毎年この状態が続くと、虫を飼うのが怖くなり飼うのをやめた。


 飼う場所を変えても、戸締まりをきちんとしても、気がついたら小さな蟻たちは列を成し、カブトムシやクワガタのいる虫かごへ向かっている。そして、彼らの命を奪うのだ。


 私が幼少期に行ったことは、決して許されることではないと虫たちは伝えているのかもしれない。今は虫を見ても、そっとしている(Gと蚊だけは例外)。自分の子供たちが同じ目に遭わぬよう、【虫を見ても触わってはいけない】と教えている。触らぬ神に祟りなし、というわけだ。


 どんなものにも命は宿っている。【命を粗末にしてはいけない】という虫たちからの知らせかもしれない。

 


虫【完】




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