episode:21【※認識できません】


 生命力が低下すると、電気機器に認識されなくなる。嘘か本当かは分からないが、こんな話を耳にしたことがある。人間にも磁気があるらしい。分かりやすく例えるなら、乾電池。バッテリーが無くなるにつれ、力が弱まっていく。人間も死期が近づくと、生気が薄れ、弱々しくなる。


 私たちは人の形をした【乾電池】なのかもしれない。


***************


「なんかさー、最近おかしいんだよね」


 久々に会った友人が神妙な面持ちで自身のスマートフォンを操作し、私に一枚の写真を見せてきた。


「ここに写っている子いるでしょ?」

「あー……うん」


 茶色のボブヘアをした可愛らしい女性が写っていた。周りの子たちよりも頭一つ分身長が小さい。白地の花柄ワンピースがよく似合っている。


「この子がどうかしたの?」

「うん……。実は──」


 友人とボブヘアの女性は同じ職場で同期入社。年齢も一緒のため、プライベートでもよく遊んでいるそうだ。


 そんな彼女と二人で旅行に出掛けたとき、奇妙なことが起きたと言う。


「到着して真っ先に旅館にチェックインしたの。部屋から見える海が絶景だったから、海をバックに写真を撮ろうってことになって……」


 当時のことを思い出し、身震いがするのか、友人はしきりに左腕を擦っている。


「今のカメラ機能って勝手に顔認識してくれるじゃん?」

「そうだねー。四角の枠が顔の所に合わせて出てくるよね」


 どんなカメラで撮っても写真映りが悪い私からすれば、あってもなくても困らない機能だ。カフェラテの甘さにホッと一息ついていると、「ちゃんと人の話聞いてる!?」と友人に怒られてしまった。


「それがさー……私には出て、この子の顔には出なかったの」

「たまたまじゃないの? 出ないときもあるじゃん、あれ」

「私も最初はそう思ったんだけどね……」


 「これ、見て……」と差し出された画面を見て言葉を失った。


「何これ……」

「わかんない……。気持ち悪いけど、消すに消せなくて」

「本人には話したの?」

「……言えると思う?」


 私が友人の立場だったら真っ先に伝えるが、友人は相手の気持ちを尊重するタイプだ。こんな写真を見せたら気を悪くすると考え、ずっと同僚に言えずにいるようだ。


「どうしたらいいかな……」

「うーん……。とりあえず、お祓いしてもらったほうがいいんじゃない?」

「だよね……。あのさ──」

「私も見ちゃったし、一緒に行く」


 ネットで検索し、近くにある神社でお祓いを頼んだ。


 心霊写真にも様々なパターンがある。背後に写り込んでいたり、体の一部に憑依していたり、あるはずのモノが消滅していたり。今回の場合、後者が当てはまる。


 なくてはいけないモノが認識できなくなっていた。


 お祓いをしてから数日後。友人から連絡が入った。「どうしても会って話がしたい」と。何かに怯えた様子で電話越しに声が震えていた。


 お互い仕事を終えてから最寄の駅に集合し、近くにあるファミリーレストランに入った。


「どうしたの?」

「……今日、会社に連絡があったの」

「なんて?」

「──ナツキが亡くなったって」

「え……あの写真の──」

「うん。それも交通事故で……」


 嫌な予感が全身に恐怖をもたらした。こういう時の勘は恐ろしいほど的中する。ゆっくりと動く友人の口元。


「顔が認識できなかったって」


 削除したため、画像はもう残っていないが、私たちの脳裏にはハッキリと焼きついていた。


──首から上がぼやけ、モザイクのかかった彼女の顔が……



※認識できません【完】

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