III 僧侶
お元気ですか?
私は勇者の仲間の「僧侶」として、今のところ快適な旅を続けています。
「いつまでも家事手伝いは恥ずかしい」って言われるから、なんとなく応募してみたらまさか受かるなんてね。
私に「僧侶」が務まるのかって?
アドバイス通り呪文の最初に「神よ」をつけたり、最近は名詞の前に「聖なる」をつけたり、季語の前に「癒しの」をつけるようにしたわ。
一般人って簡単に騙されるのね。
今では「聖女様」とか呼ばれるようになる始末よ。
悪い気はしないけどね。
つい最近まで近所で「いき遅れ」「こども部屋おばさん」とか噂されてたのにね。
それが今や、毎月の給料やボーナスは出るわ、行く先行く先どこへ言ってもVIP待遇だわ。勇者の言う通り、いい仕事にありついたわ。
冒険や戦いは恐くないのかって?
そうね~、確かに冒険は面倒臭いわ。
何だかよく分からないけど、町や村の人ってどうしてああも大事なものを洞窟やら山奥やら、自分達で行けないような場所に隠す癖があるのかしら。
小さい子どもも迷い込んだりして、それを迎えに行くハメになったりもするんだけど、よくシツケとけっての。
なんだか今のところ「何でも屋」稼業と変わらない気もするけど、まあいいわ。
戦闘も多いけど、回復役は楽よ~。
戦いは男どもに任せて私は列の後ろでダメージ受けた人に回復魔法を投げればいいだけだし。
もぐらたたきの要領ね。
復活の魔法使えるのは私だけだから、危なくなった時に逃げても文句言われないし。
あ、そうそう。「復活の魔法」ってね、死んだ人を蘇らせる事ができるんだけど、国際協定で門外不出なんですって。
なんで私が使えるのかって?
出発前の研修で教えてもらったのよ。
ただ呪文を呟いただけで死んだ猫が生き返ったもの。
たぶん人間でもできるわ。
それより何が大変って……ヘアケアとスキンケアね。
あと趣味が手芸、園芸、お料理、お祈りっていう設定でさ。
いつの時代の人間よって感じ。
話は変わるけど、関節痛に効く薬や体を温める食べ物とか教えてくれない?
仲間の魔法使いのおじいちゃんが、体冷えちゃって辛いらしいのよ。
顔は土気色、唇は青いわで気の毒ったら。
町の人は暢気に、
「さすが、人ならざる気を、まとわれておられる」
とか言うけど、顔色が悪いだけだっての。
魔王にたどりつく前に、おじいちゃんが倒れるわ。
ユリちゃん、じゃない、戦士のダンもなかなか大変そうでさ。
一番前で戦うんだから、もっとしっかりした鎧着させてあげればいいのに、やたら腕とか脚の部分が露出してるのよね。
最初は「兜はかぶるな」とか言われてたんだけど、さすがにそれは初日で死ぬって。
まあ、なんだかんだで一番大変なのは勇者ね。
最初はどんだけ能天気かと思ったけど、違ったみたい。
あれは諦めの境地ってやつね。
文句を言わず。疑問を持たず。
それなりに戦ってれば生活と名誉が保証されるって、分かってんの。
よかったわ~。本当に十六のガキじゃなくて。
マジで「俺達で世界を守るんだ!」とか熱血されても面倒くさいもの。
あ、でも今時の子って、もっと冷めてるかしらね。
長くなっちゃったから、今回はこの辺にするわね。またお手紙します。
って、きっとこれも検閲されて届かないんでしょうから、形だけでも残しておくわね。
さてっと。
今日も勇者の部屋で集まってみんなで飲もうっと。
だって酒場じゃ私だけ飲めないんですもの。
「麗しき聖女に酒やタバコはご法度!」っていう事らしいわ。
やれやれね。
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