II 勇者

 あ、こっちです!


 皆さん初めまして!

 勇者をやらせて頂きます、私、つい先日まで王宮にて近衛兵を務めておりました。

 どうぞ、よろしくお願い致します。


 あ、態度が十六歳らしくない?

 すみません、えっと…。

 よ、よろしくな! みんな! オレ達で必ず魔王を倒すんだ!


 ……はあ~……。


 と、とにかく!

 左から戦士さん、魔法使いさん、僧侶さん、ですね。

 凄い、皆さんイメージ通りと言いますかプロっぽいと言いますか。

 どうしました? 苦笑いされて。


 では、とりあえず出発しま…え?

「旅資金が百ゴールドしかもらえなかった。これじゃランチも食べられない」?

 そうですよね。

 大丈夫です、それは表向きなので。

 後でちゃんと経費と給料が振り込まれるように、はい、そうです、給料制です。


 魔物を倒しても現金は手に入りません。

 私達のような素人が素材をとろうとしても、業者がやるようにはできません。

 下手に自給自足をしようと動物を殺すと、うっかり条約に反してしまったりと色々面倒ですし。


 なので給料制です。


「根本的な質問をしても良いか」?

 どうぞ。


「そもそも、魔王って何だ」ですか。

 私もよくわかりません。

 見たことありませんしね。


 伝承はあまたあれど、世界中でどれだけの人が「魔王」を見たことがあるかと言えば…、ほとんどいないのではないでしょうか?


 ただ、確かに今、世界は不穏に包まれています。


「魔物」と呼ばれる生物が増え、

 凶悪犯罪がはびこり、

 環境破壊による食糧難への不安が募り、

 不安定な経済情勢、それによる就職難、

 少子・高齢化する社会…、


 え?

 八割ぐらい魔王と関係なさそう?


 でもまあ、そうした不安を人々が「魔王」という存在に投影させ、それを退治する存在がいる…それで少しでも人々に安寧を…というのが各国の狙いなのだと思います。


 いわゆるこれは、国際協力のもと発足した福祉プロジェクト。

 そう思えば有意義な任務ではないでしょうか。


 こうして皆さんと、世界中を旅できて、人々に喜んで頂けて、それでお給料を頂戴できるのですから、私は良い任務を仰せつかったなと。


 え?

 何故私が選ばれたのか、本当の理由が分かった気がする?


 まあとにかく、末永くよろしくお願い致します。

 天気も良いですし、そろそろ行きましょうか。


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