第2話 出会い
僕の前に立ち尽くす女性を見た最初の印象は、――女神。だった。
彼女は右手に細剣を携えている。
つまり、この人がモンスターにとどめを刺してくれたのだろうか。
僕は武器を仕舞うことも忘れ、立ち上がる。
「あ、あの。ありがとうございます」
僕は、僕なりに精一杯のお辞儀をした。
しかし、女性は戸惑ったように声を詰まらせる。
「あ、いや・・・・・」
僕はめげずにもう一度お礼を言う。
「助けてくれて・・・・・助けていただいてありがとうございます」
「・・・・・そ、そう。怪我はない?」
「はい。おかげさまで」
女性は細剣を腰の鞘に収めると、僕に向き直った。
「・・・・・君、一人でダンジョンに?」
「やっぱりここはダンジョンだったんですね!」
女性は首を傾げる。
「見たところルーキーのようだけどいくら第一ダンジョンとは言え、一人でダンジョンに挑むのはあまり感心できないわね」
「そういうあなたも一人なんじゃ・・・・・」
言った後すぐに僕は失礼なことを言ってしまったことに気付き、すぐに謝罪する。
「ご、ごめんなさい。生意気な事を言って」
「事実だし、それは構わないのだけれど・・・・・どうして一人で?」
「それが、僕もよくわからなくて」
これまでの経緯をざっくりと話していく。
「と言うことは。あなた、まだ協会で申請すら済ませてないの!?」
「はい・・・・・集合場所に向かう途中だったんですけど、もう集合時間も過ぎてるし・・・・・」
これだとまた、試験を受け直さないといけないのかな。もう一度受かるかな・・・・・
「まあ、いいわ。とりあえず地上に戻りましょう」
僕は女性の後を付いて行く。
女性は僕とは違う道を通って来たらしく、今はじめて気付いたけど、岩壁に沿うようにして螺旋状に緩やかな傾斜が存在する。
そこを進んで行く。
僕たちがさっきまでいた場所を上から覗くと、結構な高さがあるのがわかる。
傾斜を登り終えると、今度は平坦な道が続く。
「モンスター、出ませんね」
「来る途中でほとんど狩り尽くしてしまったから、当分は出ないはず」
「そ、そうなんですか」
この人が勇者であることと、身に着けている装備の数々がどれも高級感を漂わせていて、僕が持っているものよりもはるかにすごいものだと言うことはわかる。
「ところであなた」
「は、はい」
「あなたは中学生?」
「はい。三年です」
「そう。卒業したら正式に勇者になるつもりなの?」
僕は、はいと頷く。
それからしばらく出口に向けて歩いて行く。途中、何体かのモンスターと出くわすけど、この女性がすぐさま倒してしまう。
「もうすぐで地上に出るわ。あなたの集合場所に行ってみましょう。まだ待ってくれているかもしれないから」
地上に出た僕は、眩しさに目を瞬かせる。
「あ、あの、どこに行くんですか?」
スタスタと歩いて行こうとする女性を僕は引き止める。
「え、だって仮登録をするのだから協会に集合でしょ」
「あ、いや、それが・・・・・ここなんです」
「ここ?ダンジョンの入り口だけど・・・・・」
事実だと女性にメールを見せる。
「――お待ちしております ステア様。」
女性はメールの内容を読み上げて、
「確かに、そのようね」
と、呟いた。
「でも、変だわ。ルーキーならともかくまだ仮登録も済ませていない子をダンジョンの入り口に集合させるなんて」
「同じようなこと、おじいちゃんにも言われました」
「まあ、でもそんなに気を落とす必要はないわ。ステア君」
と、女性は励ましてくれる。
「って、あれ、僕の名前・・・・・?」
「さっき見せてもらったメールに書いてた『ステア』があなたの名前でしょ。違った?」
「い、いえ、僕の名前はステアです」
「いい名前ね」
名前を褒められたのは初めてだ。学校のみんなには女っぽい名前だとからかわれてきた。お父さんとお母さんは、どうして僕にこんな名前を付けたのだろうと何度も思ってきた。
「あなたの名前だけ訊いておいて、私はまだ教えてなかったわね」
女性は、僕が考え事をしているのを名前を教えていないことに対してだと勘違いしたのか慌てて自分の名前を述べる。
「私は、エトナ。よろしくね、ステア君」
「は、はい!よろしくお願いします、エトナさん」
エトナさんは、僕に付いて来るよう指示して、先を行く。
「ど、どこ行くんですか?」
「協会よ」
「協会って、でも僕は遅刻して、もう・・・・・」
「でも仮登録をするなら協会に行かないと」
「いや、だから僕は遅刻したからもう出来ないですよね?」
エトナさんは、はてなと首を傾げる。
「あなた、もしかして仮登録の仕組みについて知らないの?」
「仕組み、ですか?採用試験に合格して、協会で登録してもらうんじゃ・・・・・?」
「確かにそうね」
でも、とエトナさんは続ける。
「それはあくまで一つの手段。登録をする方法は他にもあるわ」
「どんな方法なんですか?」
「その前に、なぜ『採用試験』なのかわかる?」
質問の意図が汲み取れず、僕は首を傾げる。
「勇者になるのに、どうして採用なんて、まるで雇うような言葉を使っているのか」
腕を組んでしばらく考える。
「えーっと、実際に勇者も一つの職業だから?」
「まあ、そうね。でも、そこにはまさに協会から『雇用』されるって意味もあるのよ」
――雇用。つまり、雇われて働くということだけど、それが職業としての勇者なのでは無いだろうか。
そんな僕の疑問をエトナさんが解決する。
「協会から雇われる以上、協会、つまり国から成果に見合うだけの給料が振り込まれるわけだけど、それは国から指示されたらどんな無理難題でも熟(こな)さないといけないということなの」
その分、報酬はたんまりと出るけどね。と付け足す。
「つまり、採用試験を得て勇者になった人は、それだけ死と隣合わせと言うわけなの」
こんな事言われると勇者になることを躊躇ってしまいそうだけど、その先を尋ねる。
「採用試験以外で勇者になる方法ってあるんですか?」
「勇者に雇われること」
「勇者に、雇われる・・・・・?」
「採用試験で勇者になった人は直接協会が雇用するのだけど、許可さえ降りれば既に勇者の人に雇われると言う形で勇者にもなれるの」
「・・・・・初めて聞きました」
「でしょうね。学生には基本このことは教えない方針のはずだし、採用試験経由でなる人の方が断然多いから知らなくても無理ないわ」
なんか色々で頭が混乱しそうだけど、要は協会に雇われるか、勇者に雇われるかのどちらかの方法で勇者になることが出来るということか。
「勇者に雇われた場合、その勇者のギルドに籍を置かなくてはいけないって誓約があるのだけどね」
「でも、僕を勇者として雇ってくれる人なんか・・・・・」
「いるじゃない。ここに」
「へ?」
「私があなたを勇者にする」
「い、良いんですか!?」
「ええ。あなたの実力がどれほどのものかまだわからないけど、さっきモンスターと戦っている姿を見て感じたの。君なら勇者になれるって」
この人は僕のことをからかっているのだろうか。そんなことをするような人にも見えないけど・・・・・
「さあ着いたわ」
「あ、あのえーっと・・・・・」
僕の目の前には黒ずんだレンガの壁とその中央に今にも壊れそうな木枠の扉がそこにはあった。
「ギルド・シシリーよ」
シシリー・・・・・あまり聞き覚えがないけど。
「ギルド?でも、さっき協会って・・・・・」
「協会へ行く前に一度ここへ寄っておきたかったのよ」
エトナさんに促されて扉をくぐると、どこか嗅いだことのある香りが鼻孔をくすぐる。
そう、確かこれはおじいちゃんがよく飲んでいるコーヒーの匂いだ。
昔、おじいちゃんと行ったことのある喫茶店と似た雰囲気の内装で全体的に古臭い感じがする。
「ここはお店ですか?」
「うん。まあ、表向きはね」
そう言うとエトナさんは、勝手知ったる様子でお店の奥へと進んでいく。僕に後をついてくるよう促してくる。
「あの、お店の人はいないんですか?」
「今はみんなギルドハウスにいるんじゃないかしら」
厨房へと足を踏み入れるとエトナさんは何かの模様が描かれた丸いプレートのようなものに手をかざした。
すると、足許が震えだし――なんと床の一部がスライドしてそこに階段が出現した。
「こ、これは?」
「これがギルドの本当の入り口」
階段を降りていくエトナさんの後を付いて行くと、そこには――僕の知らない空間(せかい)が広がっていた。
「よお、エトナ」
スキンヘッドで強面の筋骨隆々な男が軽快な挨拶をする。
「いつもより帰りが遅かった。何かあった?」
単調的な口調で話すこの女性は、エトナさんのことをまっすぐ見つめ首を傾げる。
「ちょっと色々あって・・・・・それより紹介したい人がいる」
エトナさんがそう言うと、ギルドハウスにいる人全員がこちらに注目する。
「なんだ、男か?いや、男っ気のないエトナだ。それはないか」
スキンヘッドがガハガハ笑うのを他所に、エトナさんは話を続ける。
「新しくギルドに加入して欲しい人がいるの。ほら、みんなに挨拶して」
エトナさんに背中を押され一歩前に出ると、二人が僕に注目する。
「あ、その・・・・・ステアです。まだ色々とよくわかっていないんですけど、よろしくお願いします」
数秒の静寂が訪れる。
やっぱりいきなり来て、こんな強そうな人たちに僕なんかが受け入れてもらえるはずなんてないんだ・・・・・
すると突然、部屋中に歓声が沸き起こる。
「エトナが見込んだやつだ。大歓迎さ」
スキンヘッドは何が面白いのかガハガハ笑いながら僕の背中はバシバシ叩いてくる。
「ステアって言ったな?俺はボルスだ。よろしくな」
「ボルスさん・・・・・」
「呼び捨てで構わねぇよ」
「はい。ボルスさん」
「あはは。これは面白いやつが来たぜ」
続いて口調が単調な女性。
「私はベリオール。エトナとボルスからはベリって呼ばれてる」
「ベリさん・・・・・」
二人とも個性が強そうな人だけど、エトナさん同様強いことは見ただけでわかるほどにオーラのようなものが漂っている気がする。
「ボルスさん、ベリさん。そしてエトナさん。急なことで色々とわかっていないことも多いですが頑張りますのでよろしくお願いします」
「おう!このギルドへ入った以上、泣き言は許されねえからな」
「はい!」
「ボルスはこう言ってるけど、あまり肩に力を入れず気楽に」
「おじいちゃん!僕、ギルドに入ることになったよ」
「勇者にもなっておらんのに何を言っとるか」」
勇者として登録する前に一度家に帰った方が良いのではないかと言われ、おじいちゃんに許可をもらうために帰宅した。
おじいちゃんに事の経緯をかいつまんで説明すると、
「お主、それは騙されたのではないか?」
「騙された?」
「よく考えてみるのじゃ。出会ってすぐの人間がいきなり勇者としてお主を雇うと思わんじゃろ?」
「そ、それは・・・・・」
おじいちゃんの言っていることは正しい。普通なら僕を勇者として迎え入れようなんて人がいるはずないんだ。だけど・・・・・
「それでも僕に可能性を見出してくれたのかもしれないじゃない」
「その女性に助けてもらったのじゃろ?本来なら礼として何か金銭になりそうなものを渡すのが筋じゃ。それなのにいきなり勇者として雇おうなんて話が出来過ぎではないかの?」
「じゃ、じゃあ、ギルドの人たちは僕を騙したってこと?」
「そうかも知れんの。結局、採用試験の件も嘘だったのだろ?」
採用試験については真偽がわからないままだ。だけど、エトナさんと地上に出た時そこには採用試験の合格者は見受けられなかった。
「もしかしたら、あのメールもその人たちの仕業かも知れんぞ」
「そ、そんなはずは・・・・・」
でも、虫の良すぎる話であることは事実で、疑えば疑うほど怪しく思えてしまう。
「まあ、そう気を落とすでない。明日、また来るように言われているのじゃろ?嘘か誠か判断するのはその後でも遅くなかろう」
「うん・・・・・」
「一応、念のため訊いておくが、その誘われたギルドの名はなんじゃ?」
「えーと・・・・・『シシリー』だったと思うよ?」
するとおじいちゃんは目を見開いてすごい形相になる。
「ど、どうしたの?」
「いや、似たような名前のギルドを聞いたことがあっただけじゃよ。勘違いじゃ」
自室に戻った僕はエトナさんたちのことを考えていた。
おじいちゃんが疑うのも無理はないけど、あの人たちがそんな嘘を吐いて人を騙すようなことをするかな?
考えれば考えるほどにモヤモヤが増して行く気がして、僕はおもむろにマンガを手に取る。
戦ったりするシーンが多いマンガが好きだけど、日常の中の非日常を描いたマンガもたくさんあり、その中でも特に好きなマンガ。
――ある日、両親に捨てられた少年は世界の何もかもに絶望する。だけど、そんな彼に手を差し伸べてくれる人がいた。その人に恩を返そうとひたむきに頑張る少年の物語。
境遇は全く違うけど、僕にも両親がいないからどこか共感出来る部分があって、このマンガの主人公の様に頑張ろうと思わせてくれた作品の一つ。
そうだ。もし今すぐに勇者になれなくても頑張ればいつかきっと勇者になれるはず。だから、僕もひたむきに頑張ってみよう。
どれだけ頑張っても誰も認めてくれないかもしれない。でも、今日のエトナさんのようにどこかに僕を認めてくれる人がいるはず。
翌日、学校では剣術の授業があった。
相変わらず実践練習で、今日の相手は僕の親友・ダイちゃん。
「ダイちゃん。よろしく」
「どうせ俺が勝つんだ。お前と練習する価値なんてない」
ダイちゃんは口がちょっと悪いけど、根はすごく優しくて昔は困った僕をよく助けてくれたりもした。最近はダイちゃんも忙しいみたいであまり遊んだりする機会がないけど。
昨日、僕はモンスターと戦ったんだ。最後はエトナさんが助けてくれたけどあんな大きなモンスターに立ち向かったんだから、勝てなくてもダイちゃんといい勝負が出来るはず。
「始めっ!」
先生の合図とともに模擬戦が始まる。
木剣を握り、お互いに間合いを計るが、なかなか動けない。
「ステア。俺はこの場から一歩も動かねえから、お前からかかってきていいぞ」
これは罠だ。ダイちゃんが得意とする心理戦に持ち込み、僕が油断したところを一気に方を付けようとしている。
僕がこのまま攻撃に出れば、それに応じてダイちゃんは攻撃を仕掛けてくるだろう。だから、その前に攻撃を成功させるしかない。
行くぞっ!
と、心の中で叫びながら前へ飛び出す――
あれ、足が動かない・・・・・どうして?なんで!?
「なんだよ、いつ来るんだ?」
「・・・・・」
「そっちがその気なら、こっちから行くぞ」
ダイちゃんは足に力を入れ、地面を蹴る。一気に僕との間合いを詰めたダイちゃんは木剣を振りかぶる。
――僕は負けだ。
手も足も動かず何もできなかった。
どうしてだ!?前は避けたり、攻撃を剣で受け止めるくらいは出来たはずじゃないか。なのに今日は一歩も動けなかった。
「おい、ステア。なめてんのか?」
「そ、そんなつもりは・・・・・」
「練習だろうとなんだろうと俺は真剣なんだ!お前みたいなやつが勇者を目指す資格はない」
そう言い切られ、僕は泣いてしまいそうになる。でも、こんなことで泣いている場合じゃない。泣くのはあの日(、、、)を最後にするって決めたんだから。
「そんなことないよ。確かに僕は弱いかもしれないけど、それでも努力してるんだ」
僕がそう言うと、ダイちゃんは驚いた顔をする。しかしそれは一瞬だけだった。
「いいか。この際だからはっきり言っておいてやる。お前じゃ勇者になれない。だからそんな努力は無駄だ」
そう言い残してダイちゃんは他の人と練習を始めてしまった。
ここ数年でダイちゃんの僕への当たりが強くなったけどなんでだろう?弱い僕が嫌いだからかな・・・・・
「ステアくんってさ、剣筋は凄く良いのになんで試合になるといつも負けちゃうの?」
「ベルちゃん・・・・・」
この娘はクラスメイトのベルちゃん。友だちが多くない僕にとって気兼ねなく話すことが出来る数少ない存在。
「先生もこの前、太刀筋はきれいだって言ってたし」
「あはは」
それって褒められてるのかな・・・・・
「ステアくん。私と練習しよ」
「うん!」
さっきは一歩も動けなかったけど今度こそは!
先生の合図を待って試合を始める。
合図とともにベルちゃんは僕目掛けてダッシュする。
だが、僕はそれに合わせて後ろに下がる。
よしっ!今度はちゃんと動けた。
そんな風に喜んでいるのも束の間、ベルちゃんは剣を振る腕を休めない。
僕はそれをどうにか剣で受け流し、体制を整える。
「なかなかやるじゃん」
「・・・・・ベルちゃんこそ」
今度は僕の反撃だ。
僕が前へ踏み出そうとした時、ベルちゃんが口角を上げ少し不敵な笑みを見せた。
「えっ!?」
その隙きにベルちゃんは僕の懐に入り込み、木剣を叩きつけた。
「痛っ・・・・・!」
「あ、ごめん!つい力を入れすぎちゃった」
「こ、これくらい大丈夫だよ」
軽くお腹を擦り、なんともないと服をめくり自分のお腹を見せる。
「ありゃー、ちょっと赤くなってるね」
「いつものことだからこれくらい平気だよ」
「いつも練習の時、みんなに剣で叩かれてるもんね」
ベルちゃんは決して悪気はないのだ。事実なだけにベルちゃんの言葉はいつもグサッとと来るけど。もしかしたら練習中に木剣で叩かれるよりも痛みが強いかもしれない。
僕は学校が終わるとすぐにギルド・シシリーへと向かった。
* * * * *
――五月二十八日 都内某所。
「それではただいまより会議を始めさせていただきます」
司会の挨拶から始まったいつも通りつまらない報告が続く。
ただ、VRやMRが普及した世の中でこうして皆が集まる会議は今どき珍しい。会議の内容上しかたなくリアルに集まるしかないのだが・・・・・
この場の大半が早く終わらないかと思っている中、1つだけ全員が注目をする報告があった。
「こちらの映像を見てもらいたいのですが」
映し出されたのはどこにでもいそうな少年が一人どこか暗闇を歩く様子だ。
「えー、この少年・・・・・No.1581の挙動で幾つか気になる点がありまして」
会議でこの少年が登場するのは初めてだ。なにか問題点でも見つかったのだろうか。
「ここです。ここで本来あり得ない挙動をしています。どう思いますか?」
「明らかにバグだろ。すぐに直さないとパワーバランスが崩れることも考えられるぞ」
「わかりました。会議後、すぐに修正作業に入ります」
そう決定しそうになった時だった。一人の男が声を上げた。
「いや、待て。このままにしておけ」
「しかし、これはバグですよ?」
「構わん。全責任は私が負う」
「わ、わかりました」
現在我々が動いているプロジェクトの立案者であるこの男が何を企んでいるのかはわからないが、見れば誰でもバグだとわかるようなバグをそのままにして置くには何か理由があるはずだ。この人の考える事は我々が想像するよりも遥か上を行っている。
この先、どんな結末が待ち受けているのか楽しみで仕方がない。だから皆、会議に参加するのだろう。
閉ざされし世界の勇者 工藤部長 @alfild
★で称える
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