第13話 ちょっと男らしい所を見せたと思ったら…

僕はテンパりながらも急いで記憶を辿る。

待ち合わせは午後の一時、場所は駅前の本屋。

夢森さんは僕にこう告げたはずだ。

スマホにもメモしてちゃんと朝確認したし、間違っているわけがない。

なのに、なんでここに夢森さんが!?


「お前…今日は私と10時から本屋に行く約束してただろ。何やってんだよこんな所で。」


10時!?そんな馬鹿な!?

ま、まさか……またあの人がなにかしたのか!?

夢森さんが思いっきり睨んでくる。

ヒィィィィコワイィィィィ

今すぐ逃げ出したい気持ちとこの訳のわからない現状をなんとかしなきゃいけないという気持ちで板挟みになる。

ど、どうすればいいんだ!


「……ごめんね。私、帰るね。」


桜花がか細い声で言って、背中を向けた。


「えっ!ま、待って!」


「じゃあね。夢森さんと楽しんでね!」


「ちょっ…」


桜花の姿が遠ざかっていく。

夢森さんの方を見るとまだ僕を睨みつけ、怒りに肩を震わせている。

ここで桜花を追えばきっと夢森さんはいつものようにアッパーカットを放ってくると思う。

でも、それでも……

あんな悲しそうな顔で笑った桜花をこのままにはできない!


「待って!桜花!」


桜花の方へ駆け出し、腕をつかむ。


「駄目だよ、夢森さん怒っちゃうよ?」


「で、でも!」


「また違う日に遊ぼう?今日は夢森さんと楽しんで!」


そう言って笑う桜花。

だから……なんでそんな悲しそうに笑うんだ!

そう言いたい気持ちはあるが、上手く言葉が出てこない。


そして結局そのまま桜花は去っていってしまった。


くっそ……何も言えないなんて…あんな悲しそうな顔、初めて見たのに…。

そこでハッと思い出す。

やばい!夢森さんのこと忘れてた!

急いでカラオケの前へと戻るが、そこに夢森さんの姿は無かった。

そしてタイミングよく鳴るスマホ。

画面には

…………香月遥歌の名前があった。


「ちょっと!!!夢森さんが十時にカラオケに来たんですけど!!僕は絶対に一時って聞いたんですよ!香月さんまた何かしましたね!?」


電話に出た瞬間に声を張り上げる僕。


「えぇ。第二弾よ。」


しかし香月さんの声のトーンは僕とは正反対でいつも通り落ち着いたものだった。


「はぁ!?なんですかそれ!!意味分かんないですよ!」


ここまで大声を出したのは久しぶりだ。

多分子供の時以来だ。


「それより一ついいかしら?」


「なっ!今は僕の質問が先で――」


「夢森雪愛と今一緒に居るわ。今すぐ私の家に来なさい。以上。」


「は!?ちょっと!香月さん!」


電話が切れた……。

一体何がしたいんだ香月さんは!


僕は香月さんに直接話を聞く為、そこにいるかもしれない夢森さんのアッパーカットを受ける覚悟をしながら、香月家へと向かったのだった。

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凡人少年と天災少女 高岡 望 @archemikillsm

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