第12話 そろそろいい加減に爆発しろ
金曜日の放課後。
僕はまた香月家を訪問をしていた。
と言っても今回は僕の方から香月さんに話があると言ったのだ。
だがいつものように、教室で話すのかと思っていたのに、半ば強制的に家に連れてこられてしまった。
「それで話って何かしら?」
「それがですね…。明日、夢森さんと本屋に行く約束をしていたんですけど、実は桜花とも遊ぶ約束をしてしまっていて…。夢森さんとの約束の方が先だったので、桜花の誘いは断ろうと思ったんですけど、全然見当たらないし、ラインも既読付かないんですよ…。このままだと当日ドタキャンになってしまうんですよね…。僕、どうしたらいいんでしょう……。」
もう既に何度も頭の中で自問自答している悩みだった。
しかし結局いつになっても答えが出ず、自分一人では処理しきれなくなった為、香月さんに相談することにしたのだ。
………まぁあまり期待はしていないが…。
「そう。それは災難だったわね。でもそれは貴方の責任よね?貴方が自分でなんとかしなさい。」
案の定、香月さんから返ってきたのはそんな辛辣な言葉だった。
「……でも僕、桜花の家知らないんですよ…。」
「幼馴染なのに?」
「本当に小さい頃はよく遊びに行ってたんですけど、妄想と現実の区別がつかなくなってからはなんとなくあまり行かなくなってしまったんですよ…。だから覚えてなくて…。」
「そう。まぁでも一つだけ良いこと教えといてあげるわ。櫻 桜花が土曜日にカラオケに行こうと誘ったのは私があることを彼女に教えたからよ。」
「え……?あることって?」
「普通の人なら気付いてしまうだろうから言わないけれど、貴方になら別に大丈夫そうね。私は櫻 桜花に『土曜日、神無月君は夢森 雪愛とデートするらしいわよ。』と言ったのよ。」
「ちょっと!なんでそんなこと言ったんですか!別にデートじゃないですよ!ただお勧めのライトノベルを教えてほしいと言われただけで!」
というか待てよ……?
なんで桜花は僕と夢森さんが土曜日に本屋に行く約束をしていることを知っていて、一緒にカラオケ行こうだなんて誘ってきたんだ?
それに香月さんと桜花って接点なんてあったのか……?
「前に言ったでしょ?貴方にはもう少し『刺激』が必要だって。」
「意味分かりませんよ!!!」
「まぁ頑張りなさい。応援してるわ。」
「そんな適当な……!」
あぁもうどうすればいいんだろう僕は…。
その日、結局何を言ってもいつものように躱され続け、なんの解決策も浮かばないまま僕は香月家を後にしたのだった――。
そして遂に土曜日。
昨日結局桜花からの返事はなかった。
桜花との待ち合わせは朝の十時。場所は近場のカラオケ。
夢森さんとの待ち合わせは午後一時。場所は駅の本屋。
とりあえず桜花との待ち合わせ場所であるカラオケに行って、事情を説明し謝るしかないだろう。
というか、桜花はその事情を知っているはずなんだけどな…。
一体どうしてわざわざ土曜日に僕を誘ったのだろう…。
分からないことだらけだが、急いで朝食を摂り桜花の待つカラオケへと自転車で向かった。
「ごめん!待った?」
一応十分前にはカラオケに着いたが、桜花は既に来ており、僕を見つけて頬をぷくーっと膨らませた。
「別に待ってないよ〜だ。」
これは完全に怒ってらっしゃる…。
でも待ち合わせは十時であってるよな?
「ごめんって!まさかこんなに早く着いてるなんて思わなくて…!」
「え、何言ってるの?待ち合わせ時間は九時だったでしょ?」
「え!?まじで!?」
「ふふっ、あははっ。嘘だよ〜!本当に面白いよね〜からかい甲斐があるよ〜!」
「……お前なぁ……。」
「ごめんごめん〜!それより早く歌お〜!」
「あ、いや、ちょっと待って!実は今日さ夢森さんと――」
「知ってるよ。夢森さんと一緒に本屋に行く約束をしてるんでしょ?」
「知ってたならなんで――」
「だってそれは午後からなんでしょ?私は午前中だけでいいよ〜。」
「え、でもそれじゃ全然時間少なくない?それなら別の日の方が――」
「ねぇ、紅。一つだけ、聞いてもいい?」
「ん?」
「夢森さんのこと……好きなの?」
「は!?いやそんなわけないよ!なんでそうなるの!?」
「本当……?」
物凄いジト目で睨んでくる桜花。
「本当だって!だって僕が好きなのは――」
ん?今僕は何を言おうと……?
僕が好きなのは――――
…………誰だ?
「好きなのは、なに?」
「えっと、いや、その…。」
急に胸の鼓動が早くなり、顔面の体温が急上昇していく。
好きな人なんて僕はいない。
そもそも僕みたいなぼっち野郎が誰かを好きになんてなったら好かれた方は凄く迷惑だろうし…。
だから僕は好きな人なんて作っちゃいけないんだ。
でも、なんで……
今までは、いや、ほんの数分前まではなんともなかったのに、なんで桜花を見てるとこんなに胸の鼓動が早くなるんだ!?
まさか僕は桜花のことが好――――
「神無月?」
突然後ろから聞いたことのある声で名前を呼ばれ、僕は瞬間的にその声の方へ振り向いた。
「…………夢森さん………?」
なんで、なんでここに夢森さんが!?
これが俗に言う「修羅場」と言うやつだなんて、この時の僕には皆目見当もついていなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます