第11話 二股なんて切腹ものですよ。

「あ……えっと……。」


「……………。」


無言で黙り込む夢森さんと目が合う。

そして直ぐに俯いてしまった。


夢森さんの呟きがもし本当なら、僕は嫌われているどころか好意を抱かれているということになる。

でも何故!?

僕は夢森さんに嫌われるようなことはしたかもしれないけど好かれるようなことなんて何もしていないはず…。

いや、やっぱりきっとこれは僕の耳が腐っただけで本当は

「神無月君のこと頭突きしたいのになぁ…。」

と言ったに違いない!

そうだきっとそうだ!

だからいつものように肩を落としながら何も言わずにここから去るのが正解に決まって―


「今の…聞いたのか?」


……あっれー、おかしいな。

夢森さんが恋する乙女みたいな顔してるよー。

しかも上目遣いなんてしてるよー。

アレーオカシイナー。


「…えっと、あれだよね。僕のことを頭突きしたいっていう!大丈夫だよ!もう言われ慣れてるし!」


…本当は頭突きしたいなんて一度も言われたことないけど。


「……は?頭突き?」


「そうそう!そのくらい僕を見てると苛々するってことだよね!分かってるよ!大丈夫!」


「………。」


なんで黙ってしまうのだろう…。

ここは

「そうだよ!お前見てると苛々すんだよ!」

と言ったような返しが来ると思っていたのだけど…。


「……そんなこと言ってない。」


…………これは本格的におかしなことになってきたぞ……。

だってあの夢森さんだよ?

いつも僕を睨みつけて、まるでゴミムシを見るように蔑んだ目で見てくるあの夢森さんが、なんでこんな

「もうっ!しらない!」

みたいに頬を膨らませているんだろうか。

僕は夢でも見ているのだろうか…。


「……もういい。」


夢森さんは悲しそうにそれだけ言って走り去ってしまった。


………まさか本当に僕のことを………?




次の日の朝。

僕は憂鬱な気持ちを引っさげながら教室でラノベを読んでいた。

昨日の夢森さんとの衝撃的な事件が頭から離れない。


「はぁぁぁぁぁぁ……。」


自分でも驚くくらいの大きなため息が出てしまった。


「朝から凄い大きなため息ついてどうしたの〜?」


「っ!!!……びっくりしたー、驚かさないでよ、桜花。」


「ふふっ。相変わらずリアクションがオーバーだね〜紅は〜。」


今の僕の気持ちとは正反対な落ち着いていて間延びした口調で話す幼馴染――櫻 桜花。

その容姿は香月さんや夢森さんにも劣らないくらいの美少女。

でもクールビューティーな香月さんや、ギャルな夢森さんとは違い、いかにも清純派といった感じの可愛さだ。

僕みたいなぼっち野郎を見放さないでいてくれるくらい良い子だし。


「ねぇねぇそれよりさ〜。今週の土曜日、空いてる〜?」


「もーわかってて聞いてるでしょ?僕は基本的に休日忙しいなんてことはないんだって――。」


………しまった。

土曜日は夢森さんとの約束があったんだった……。


「あ、えっとでも今週の土曜日は―」


「じゃあ久しぶりにカラオケでも行こ〜!私予約しとくね!じゃあ授業始まるからまた後でね〜!」


「あ!ちょっと!!」


まるで脱兎のごとく凄まじい速度で走り去っていく桜花。


………どうしよう…………。

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