第9話 ラブコメあるある言ってみよう

僕は幼い頃から人と話すのが苦手だった。

人と目を合わせることが出来ず、会話するときはいつも下を向いていた。

だから会話している相手がどんな表情をしているのかなんて全く分からなかった。

僕はいつの間にか人と関わることを避けるようになっていた。

小学校にあがってもそれは直らず、女子はもちろん、男子の友達でさえ少なかった。

それでも特に目をつけられるわけでもなく、クラスにいじめっ子がいたとしても、いじめられるのは僕ではなかった。

良い意味でも悪い意味でも目立たない生徒。

それが僕だった。

でも、そんな僕にも一人だけ女子の友達がいた。

名前は思い出せない。

だが男っぽい口調で、女子よりも男子の友達の方が多い子だったことは覚えている。

その子はいつも僕をからかってきて、僕は毎回泣かされていた気がする。

それでも僕はその子と遊ぶのが凄く楽しかった。

でもその子と遊んだのは半年間だけだった。

その子は何も言わずに転校してしまった。

僕はショックを受け、今まで以上に人と接するのを避けるようになった。

あの子は、今どうしてるんだろう。

多分僕はあの子のことが―――


「おいっ!聞いてんのか?」


「あ!はい!聞いてます!」


前の席に座って僕を睨みつける夢森さん。

そうだった。

さっきいきなり僕の前の席(只今休み時間でその席の主は友達の所にいる)に夢森さんが座ってきて話しかけられたんだった。

なんで話しているときにあんな昔のことを思い出していたんだろう。


「お前さっきから完全上の空だったろ?なんか悩みでもあんのか?」


「い、いえ!大丈夫です!」


何故だが知らないが最近の夢森さんは話しかけてくる度にどんどん優しくなっている気がする。

とりあえず嫌われてなくて良かった…。


「そうか?それなら良いんだけど。それで、お前はどう思う?あの最終話。」


「え?最終話ってなんの?」


「何ってお前、昨日ついにラストを迎えた最高のファンタジーアニメ、『伝説の七宝』の最終話に決まってんだろ?」


「あ!!!夢森さんも見たんだ!!!あれは個人的には原作と違うパターンにして正解だったかなって気がするな〜。原作では主人公が七宝を見つけて生還するわけだけど、帰路の途中で過去に倒したはずのドラゴンと遭遇して戦う!そして何とか勝利するも自らも瀕死の重傷を負ってしまう!そこで七宝の一つ『治癒の聖杯』を使って半神として回復し、王宮へと残りの六宝を渡し、自らは天界へと!ってパターンだけど、アニメは…」


『主人公がドラゴンに圧勝して、七宝全てを王宮に渡す!そして自らが新たな王となる!』


夢森さんと僕の台詞が一致した。


「良いよな〜!あのラスト!主人公の無敵っぷりは本当爽快だよな〜!」


無邪気な笑顔で夢森さんが言う。

その表情を僕は見たことがあるような気がした。


「な…、なんだよ、人の顔見つめて。あんまりじろじろ見んじゃねぇよ、殴るぞ!」


「あ、ご、ごめんなさいぃ!」


やっぱり怖いです……。


「それにしても驚いたな〜。まさか夢森さんがアニメ好きだったなんて。周りにアニメのこと話せる人なんていないから、凄く嬉しいよ。」


「そ、そうか?で、でも勘違いすんなよ!別にお前の為にアニメを見まくってたなんて、そんなこと絶対ねぇからな!」


「うん!分かってるよ!僕なんかの為にそんなことするわけないもんね!」


「え…?あ、そ、そうだ!その通りだ!あっはっはっは!」


突然謎の笑い声をあげる夢森さん。


夢森さんにはたまにこういうことがある。


もしかして意外と天然なのかな?


「あ、ていうかさっき凄い大声でアニメの話しちゃってたけど、大丈夫?周りの人に聞かれちゃったと思うけど…。」


「は?まだそんなこと言ってんのかよ。別にもう周りとか関係ねぇよ。あたしはお前とアニメの話が出来るのが凄く楽しい。その楽しさをいちいち周りなんか気にして軽減させたくないからな!」


「そっか…!凄く嬉しい!僕も夢森さんと話すの楽しい!これからもたくさんアニメの話したいよ!」


たまに怖いけど…。


「な、なに気恥ずかしいこと言ってんだよ…!殴り飛ばすぞ!!」


僕の胸ぐらを掴んで睨んでくる夢森さん。

ちょっと顔が赤くなっているような…。

まさか僕のこと…!?


「だ、だからじろじろ見てくんじゃねぇよ!!」


夢森さんが嫌そうに顔を背ける。


……僕の事好きなんてまぁあり得るわけないよな。


と、その時だった。


夢森さんが突然、胸ぐらを掴んでいた手を離したせいで、僕はバランスを崩してしまった。


「うわっ!」


そのまま僕は後ろへと転んでしまいそうになる。


「神無月!」


しかし、咄嗟に僕に手を伸ばしてきた夢森さんの手を掴み、なんとか免れた。


「ありがと…わっ!!」


が、しかし。


いきなり前方に体重をかけすぎたせいで、今度は逆に僕は夢森さんの方へと倒れ込んでしまった。


そのまま倒れてしまう僕と夢森さん。


僕は夢森さんの上に乗っかる形になってしまった。


(は、早く退かないとまた殴られる…!)


「ご、ごめん!今退くから!……ん?」


……なんだろうこの柔らかい感触。


こんな感触は初めてだ。


これって………もしかして……。


「きゃーー!!!」


その時僕の真下でとんでもなく高い悲鳴が聞こえた。


「ど、どこ触ってんだよー!!!」


「ぐはぁぁぁっっ!!!!」


4度目のアッパーカット頂きました。


そして僕は……


生まれて初めて女の子の胸を触りました。


結構大きかったです、はい。


「この変態!!淫獣!!痴漢!!」


「がはぁっ!ぐはぁっ!あべしっ!」


アッパーカット3連発を食らい、薄れゆく意識の中、僕の瞳には顔を真っ赤にしてうずくまり、「女の子」の表情をしている夢森さんが映っていた。


(夢森さんって……こんなに可愛かった……んだ……。)


そして僕は意識を失ったのだった。








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