第8話 ラブコメ主人公の適正
突然ですが、僕、神無月 紅はここに宣言します。
もう絶対に香月さんとは関わらない、と!
香月さんと関わってからの人生は本当に、不幸続きだ。
学校では常に変な目で見られるし、皆から怖れられている不良少女には二度も殴られるし……。
だから僕はもう二度と香月 遥歌とは関わらない!
そう決めたのに……
なんで今僕は香月さんの家に再び上がっているのだろうか。
「香月さん!いい加減帰らせてくださいよぅ!そもそもさっきからずっとライトノベル読んでるだけじゃないですか!僕いる意味なくないですか!?」
「うるさいわね。いいから黙ってそこに座ってなさい。包茎(ほーけー)?」
「なに、オーケーみたいに言ってるんですか!僕にだって帰ってからやりたいことがあるんですよ!」
「何言ってるの。どうせ右手の上下運動くらいしか、することないでしょ。」
「そんなことないですよ!録画してあるアニメ、溜まってるから見たいんですよ!」
「溜まってるですって!?まさか、二人きりなのを良いことに私を亀甲縛りする気ね!?」
「しませんよ!!!」
はぁ…香月さんと話してると本当に疲れる…。
「分かったわよ。じゃあとりあえず今ここで、服を脱いでくれる?そしたら帰ってもいいわよ。」
「い、嫌ですよ!!何言ってるんですか!」
「ふふ、冗談よ。」
この人が言うと冗談に聞こえない。
(はぁ…なんか昨日夢森さんからめっちゃ話しかけられたし…本当最悪だ…。)
「あら。ちゃんと進展があったのね。それで一体どんな会話をしたのかしら?」
「それがですね…ってあれ?今、僕口に出してました?」
「いいえ。忘れたの?私は人の心が読める力があるって言ったでしょ。まぁ疲れるから普段はあまり使わないけれど。」
「あぁ、そうでしたね…。」
(人の心が読める力か…。いいな…僕も欲しいなあ…。)
「っ!」
そんなことを考えてると香月さんが突然僕を鋭い目つきで睨みつけてきた。
「え、ぼ、僕なにかしました!?」
「いいえ。ただ、貴方からイカ臭い臭いがしてきたから、妄想だけでイケるなんて本当に汚らしい獣ねって思ってただけよ。」
「えぇ!?僕、そんな臭いします!?」
「冗談よ。」
「だから冗談に聞こえないんですよ!」
「そんなことより、夢森さんとは一体どんな会話してるの?」
さっき睨まれたとき香月さんの様子がちょっといつもと違かったような…。
まぁ今はいつも通りだし気にしなくていいか。
「実はですね………。」
僕は夢森さんとの昨日の会話を思い出す。
授業が終わり、帰ろうとしていた僕。
すると夢森さんが突然僕に近付いてきた。
「神無月!ちょっと放課後、面貸せよ!」
「ええええ!?ぼ、僕なんかしましたか!?ごめんなさい!謝ります!許してくださいぃい!」
「は、はぁ!?ちげーよ!放課後、暇ならあたしと一緒に…。じゃなくて!いいから付いてこいって!どうせ暇だろ!」
「い、いや…、でも…。」
「なんだよ、ハッキリしねぇなー。というかお前、最近顔色悪いぞ?ちゃんと飯とか食べて…。じゃない!ふ、普段から辛気臭い顔してんのにそれ以上悪化したらぶん殴りたくなるからなんとかしろって言ってんだ!」
「わ、分かりましたぁ!今すぐ家に帰って養生いたします!だからこれで失礼します!」
「あ、ちょっと待て!!!」
「は、はい…?」
「昨日のあれ誰にも言うんじゃねぇぞ…。あたしが、その、オタクっぽい音楽聴いてたってこと!」
「言わないですよ!そもそも僕、友達いないんで、僕の口から噂が広まる、なんてことはまずあり得ませんよ!」
「友達がいない?そ、そうか…。じゃあ私が、その…と…と…友達になってやっても…」
「え?なんて?」
最後の方が声が小さすぎて聞こえなかった僕は夢森さんに顔を近付けて聞き返す。
「!?と、飛んでけ馬鹿野郎ー!」
「ぐはぁ!?」
2日連続で強烈なアッパーカットを食らった僕はそのまま意識を失った。
「と、まぁこんな感じです。」
事の顛末を全て話し終えた僕はまだ痛みが取れない顎をさすりながら、香月さんに目を向ける。
香月さんはしばらく、聞き入っていたが、僕が話し終えると
「それは本当に災難ね。」
と、興味なさそうに告げた。
「誰のせいだと思ってるんですか!」
「でも貴方、ラブコメ主人公としてはなかなか優秀ね。」
「な、なにがですか。」
「貴方の夢森さんに対する印象は怖い、よね?」
「え?はい、もちろんです。」
突然の質問に面食らいながらも何とか答える。
「じゃあ夢森さんの貴方への印象はなんだと思う?」
「うーん、きっと陰湿とか暗いとかじゃないですか?というか昨日実際そう言われましたし。」
「なるほど。ちなみに私の貴方への印象は、リストラされて死にそうになってるサラリーマン、よ。」
「意味分かりませんけど!なんでそんなに具体的なんですか!」
「あぁ、ごめんなさい。貴方をひと目見た時、私の父の過去の姿と重なって見えてしまったのよ。」
「さらっと重いこと言わないでくださいよ…。」
「まぁ今では社会復帰して、会社を自ら経営して、大成功したけどね。」
なるほど…だからこんなに豪華な家なのか…。
というか一体なんの会社なんだろう?
ここまで豪華な家に住めるくらいなんだからきっと相当有名なんだろう。
「夢森さんは貴方のことを嫌っていると思う?それとも好いていると思う?」
「好いているはあり得ないですよ…。まぁその二択なら嫌われていると思います。」
まぁそんなめっちゃ嫌われているとは思わないが…あれ?でも待てよ。普通、嫌ってもない相手を3度も殴るか?
まさか、僕…夢森さんに…恨まれてる!?
「はぁ…貴方、呆れるくらいにラブコメの主人公ね。まぁそれを見越して貴方をモデルに選んだのだけれど。」
一人であたふたする僕に香月さんは呆れたように言った。
「まぁいいわ。とりあえず神無月君。服、脱いでくれる?」
「だから嫌ですよ!!」
僕の学校生活はこれからどうなってしまうんだろうか…。
言いようのない不安と憂鬱に駆られながらも、僕はその後、香月さんと別れ、自宅への帰途につくのだった。
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