第7話 アッパーカットは恋の味

「そう。じゃあとりあえず夢森雪愛と話すことはできたのね。」


授業が終わり、殆どの生徒が帰宅した放課後の教室。


僕は何故か香月さんの目の前で正座させられていた。


「はい、屋上に呼ばれて…。っていうか、あの、そろそろ足崩していいですか?痺れて…」


「駄目に決まってるでしょ、このグズ。」


夢森さんにも劣らない鋭い目つきで睨みつけてくる香月さん。


怖い……怖いよこの人…まるで鬼だ…。


「それで、夢森雪愛と会話してから今日で一体どのくらい経つのかしら?」


「えっと…一週間ですね。」


香月さんは僕のその言葉を聞くと呆れたように肩をすくめた。


「どうしてそこから発展しないの!そんなんじゃいつになってもラブコメが書けないでしょ!」


「ぼ…僕に言われても…」


「はぁ…しょうがないわね。じゃあ最後のチャンスをあげるわ。明日の放課後までに夢森雪愛との間に少しでも進展があれば、貴方が授業中にクラスメイトの女子の裸を妄想してムスコを起立、礼、着席させていることは黙っといてあげる。」


「してませんよそんなこと!というか意味が分かりませんよ!」


「そんなことも分からないの?起立は勃起状態。礼は絶頂を迎えた直後。着席は…」


「もういいです!!」


女子高生が言っていい台詞じゃないぞ……。

本当にどうなってるんだこの人の頭は……。


「それじゃあ期待してるわね、ガン突き濃厚君。 」



……もう僕の名前、原型を留めてないや…。




そして次の日。


僕は、香月さんの迫力に負けて、仕方なく夢森さんに話しかけるタイミングを伺っていた。


が、しかし、夢森さんは二時間目に顔を出したかと思うと、そのまま姿を消してしまった。

まぁいつものことだが。


だが僕は夢森さんがその後、屋上で時間を潰しているということを知っていた。

香月さんが調べていたのだ。

しかし、昼休みの時間には帰ってしまうらしい。


僕は三時間目が始まると直ぐに先生に、お腹が痛いと言ってトイレに行くふりをして屋上に向かった。


「はぁぁぁ…。なんで僕がこんな目に…。」


屋上に到着し、扉を開ける。


するとそこにはイヤホンをつけ音楽を聴きながら目を閉じて横になっている夢森さんがいた。


「あ、あのぉ…。」


後ろからそろ〜っと近づき声をかける。

が、聞こえていないのか眠っているのか、夢森さんは微動だにしない。


「あ、あの!」


今度はもう少し大きな声を出すが、反応無し。


「どうしろって言うんだよ…。」


するとそこでイヤホンから漏れて、微かに聴こえてくる音楽に僕の意識は吸い込まれた。


これ……僕が一番好きなアニメのOPじゃん!!


なんで!なんで夢森さんが!?

この曲はそこまで有名じゃない為、アニメを見ていなければ、もっと具体的に言うとオタクじゃなければあんまり知っている人はいないだろう。


ちなみに僕は割とオタクの部類に入る人間だ。

常日頃からラノベ、アニメ、漫画、ゲームの情報はチェックしているほどだ。


気付けば僕は大好きなOP曲をもっとちゃんと聴くために顔を夢森さんにかなり近付けていた。


(あれ?夢森さんってこんなに可愛い顔してたっけ…。)


いつもとは違う無防備な寝顔に少し胸が高鳴る。


(とか言ってる場合じゃないや、早く顔を離さないと…。)


焦って、顔を離そうとしたその時だった。


最悪なことがおきた。


夢森さんがそのタイミングで目を覚ましてしまったのだ。


超至近距離で目が合う僕と夢森さん。


「……なっ……ななな、なっ…なんで…。」


「あ、ち、違うんです!僕はただ、イヤホンから漏れてる音楽に…」


「き、きききき、聴いたの!?」


「あ、はい聴こえました!あの曲好きだったんですね!なんか意外な感じしますけど、すっごく嬉し…ぐはぁぁっ!!?」


凄まじい衝撃が下から襲ってきて身体が宙に浮く僕。


あれ…僕、また殴られた…?

しかもあの時より全然パワーが違う……。


「べ、別にあんたの為に聴いてたわけじゃないんだからね!」


凄くテンプレなツンデレ的台詞が聞こえたところで、僕は生まれて初めて意識を失ったのだった。



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