第6話 凄くベタな展開とか言ったやつ出てこい
「はぁ……学校行きたくない……」
最近定番となってきている朝起きてすぐのため息を繰り返した僕は、以前とは比べようもないくらいに憂鬱な日々に辟易としていた。
ケンカハヤメルンダー事件(香月さん命名)から一週間が経った今でも学校は僕の噂話で持ちきりだ。もちろん悪い意味で。
まぁ、そりゃあそうだろう。
今まで全く目立たなかった「平凡」な僕がいきなりあんな目立つようなことをしてしまったんだ。しかもあの後恥ずかしさのあまり、授業をサボってトイレに引き篭もってしまったし。
更に最悪なことに、最近学校で夢森さんとすれ違うことが多くなった気がする。
それの何が最悪かというと、すれ違う度に物凄い鋭い目つきで僕を睨んでくるんだからたまったもんじゃない。
(はぁ……これも何もかも全て香月さんのせいだ……。)
あの時、あのファンレターを拾いさえしなければ、僕は今でも妄想世界に逃げ込んで平和な学校生活を送れていたのに…。
「はぁぁぁぁぁ………。」
本日既に十回目くらいの大きなため息をつきながら、僕は学校への道を急いだのだった。
学校に着くと、もはや日常となりつつあるヒソヒソ話が聞こえてきた。
にしてもよく飽きないな…。
耳を塞ぎながら小走りで教室へ向かう。
が、突然急激な腹痛が襲ってきた。
(くそ……またか……。)
度重なる注目の視線に耐えられずに最近は朝登校すると二日に一回くらいのペースで
必ず腹を壊す。
薬を買って飲んだりもしているが、ぶっちゃけあんまり効果はない。
急いでトイレに駆け込んだが、それと同時に予鈴が鳴ってしまった。
だが、腹痛が既に限界を越えていた僕は遅刻覚悟で個室へと駆け込む。
そして、できるだけ急いで用を足し、教室への道を走る。
(やばい!あと30秒で遅刻だ!!)
ただでさえ目立っているのにこれ以上目立ちたくない一心で僕は廊下を猛ダッシュで駆け抜ける。
そして、教室へと続く階段を駆けのぼった所で、
僕の意識は一瞬だけ、飛んだ。
そして直ぐに階段を駆け下りて来た女生徒と思いっ切りぶつかったのだと理解する。
「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」
頭を抑えて俯きがちに倒れる女生徒に急いで声をかける。
が、その女生徒は………
「っざけんじゃねぇぞテメェ!!!……って、お前、神無月!?」
「え……夢森さん?」
「…………。」
何故か、俯き黙ってしまう夢森さん。
「…………。」
そして、どうしようもできずに僕も黙ってしまう。
「………………………。」
「………………………………………。」
気まずい!!!なんだこれ!気まず過ぎる!!
キーンコーンカーンコーン
『あ………。』
お互いの顔を見合わせ、声を揃えて感嘆した僕らはとりあえず立ち上がったのだった。
「あの……すいません、何故こんなところに?」
そして結局1時間目に間に合わなかった僕は何故か夢森さんと一緒に授業をサボって屋上に来ていた。
「別に理由なんてねぇし。ただ、一人で黄昏れていてもつまんねぇから、暇潰しの為に呼んだだけだし。」
いやだったら授業受けましょうよ……。
「あ、あのー…。それなら僕、授業受けに行って良いですかね…。」
「あぁ!?駄目に決まってんだろ!」
……怖いこの人。まるで鬼だ。
「す、すいません…。」
「ったく…。つーか前から聞きたかったんだけど、お前なんであんなことしたんだ?」
「あ、あんなこととは…?」
「はぁ?分かるだろ。いきなり変な片言であたしと先公の間に入ってきたじゃんかよ。」
「あーーー……そのことですか…。」
遂にこの時が来てしまったか…。
いずれは、あんな突拍子もないことをした理由を聞かれるとは思っていたが、まさかこんなタイミングとは…。
まぁ二人きりになんてなることが、よっぽどのことがない限りまず無かっただろうけど。
僕は頭の中で必死に言い訳を考える。
「黙ってんじゃねぇよ、何か言えよ。」
苛々した様子の夢森さんが僕を睨みつけてくる。
だめだ……言い訳が見つからない…。
「えっと、あの、その…。」
「なんだよ?」
するとその時、何故か香月さんの言葉が浮かんだ。
「貴方私の次作のラブコメの主人公のモデルになりなさい。」
そうか…。ラブコメ主人公が言いそうなことを言えば切り抜けられるはずだ!!
後になって考えると、何故そんな発想になったのか今でも理解できない。
そして何故、その思いつきからあんな言葉が出たのかも……。
「僕が夢森さんを助けたのは、夢森さんのことが前から気になっていたからです!」
「………………え?」
………あれ、何言っちゃってるんだろう僕!?
馬鹿なの!?死ぬの!?
「えっと、その、あの……」
テンパり、言い淀む僕。
なんとか、誤解を解かないと…。
これじゃ僕が夢森さんに告白してるみたいじゃないか!!
「だからですね、これはその……ぐはっ!?」
次の言葉を探していた僕は突然、夢森さんに殴られ、不意をつかれ倒れた。
「あ、あのいきなり何を…。!?」
あれ…え、あの夢森さんが…
なんか顔を赤らめてめっちゃ女の子みたいな表情してる!?
「き、きもち…わるいんだよっ!ばかっ!」
夢森さんは吐き捨てるように告げると、猛烈な勢いで走り去っていった。
えっと……あの顔って…もしかして恋する乙女の表情とかってやつでは…
「って、そんなわけ無いか!きっと余りに僕が気持ち悪くて体調崩しちゃったんだろうな!そうに決まってる!!」
自虐的な台詞を、自らに言い聞かせるように叫んだ僕はそのまま屋上に寝っ転がったのだった。
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