第4話 急展開から始まるラブコメ模様
「おい…お前んち…金持ちだったのかよ…。」
香月の家を見た俺はあまりの大きさにしばらく呆けてしまった。
「別にそんなことないわ。それより、早く上がって。」
「あ、あぁ…。」
俺は香月が香響院先生だという証拠が気になってしまい、結局、香月の家に上がることとなってしまった。
「うお…本当にすげぇな…。」
俺は見たことない圧倒的な景観に玄関で立ち尽くしてしまった。
(おいおい…シャンデリアなんて初めて見たぞ…。それに広いなんてもんじゃねぇ…。こいつの親は一体何者なんだ?)
「神無月君。私の部屋はここよ。」
案内された部屋はいかにも女の子らしい雰囲気の部屋だった。
ただ、普通の女の子らしい部屋ではない。明らかに広すぎる。
(そもそも部屋の中に大浴場がついてるってどういうことだよ…。)
「神無月君。さっきから何も喋らないわね。緊張してるの?それともチンポジが気になって落ち着かないの?」
「チンポジじゃねぇし!下ネタやめろし!」
俺は本日何度目かも分からない突っ込みをし、とりあえず一旦深呼吸をして落ち着くことにした。
「で、証拠って一体なんなんだ?」
俺は香月とある程度の距離を開け、椅子に座りつつ、問いかける。
「もう本題に入るなんて、本当にせっかちね。貴方のムスコもせっかちね。」
「なんの話してんだ!」
「貴方が早漏だという話をしているで候。」
「いや、そんなドヤ顔で言われても全くうまくないからな…。」
フフン、とドヤ顔している香月。
その顔はやはり綺麗で可愛かった。
幼馴染の桜花もかなりの美少女だが、香月の場合は大人の魅力というものも後押しして、また桜花とは別な感じの美少女だ。
「そんなに私の顔を見つめてどうしたの?もしかして惚れた?」
「ほ、惚れてねぇよ…!」
「動揺しているわね。」
香月は俺を見つめながらただそれだけ言った後、口を俺の耳に近づけ、
「ねぇ、神無月君。貴方、友達いないでしょ?」
と囁いた。
…………こいつは、この女は何を言ってる?
俺に友達がいない?そんな事あるわけがない。俺は何もかも完璧な天才なんだぞ?俺は勝ち組なんだ。友達がいないぼっちだなんて、逆に俺がいつも見下している雑魚で……
「それは貴方の妄想よ、神無月 紅君。」
「!?」
なんだ?俺は何も言っていない。なのに、何だ今の台詞は。
「知りたい?」
香月が極限まで顔を近付けてくる。
「一体なんの話だ?」
俺は香月の顔を直視できず俯きながらもなんとか答える。
「もう分かっているんでしょ?」
香月はそれだけ言うと更に俺に顔を近付けてくる。
もう唇が触れ合いそうなくらい近い。
顔面の体温が上昇していくのが分かる。いくら毒舌下ネタ女だろうが、ここまでの美少女にここまで、近付かれれば男なら誰でも動揺するだろう。
……いや、待て。違う、俺は女慣れしているんだ。学校一のモテ男なんだぞ?俺はそこらの草食系男子とは違う。だからこんなことくらいで動揺するなんてことは…、緊張して言葉が出てこないなんてこと……あるわけが…。
「神無月 紅君。ずばり言うわ。貴方は妄想と現実の区別がつかなくなっている。」
「なに……言ってんだよ…?俺は妄想癖なんて…ねぇぞ…?」
ハッキリ話しているつもりが声が震えて、途切れ途切れになる。
なんだこれ…。何が起こって…。
「貴方に私が香響院 春姫だという証拠は見せるわ。その代わり、貴方もいい加減、夢から醒めて現実を見て。」
違う…。俺は夢なんて見ていない。俺は学校一モテていて、天才で、何もかも完璧にこなす優等生で………そして、友達もたくさん……
………あれ?
おかしいな。友達の名前が一人も出てこない。
あぁ、そうか…。きっと、一昨日からの寝不足で頭がボーッとしているんだな。きっとそうだ。
だってあるわけがない、俺に友達が一人もいないなんて、そんなことあるわけがない。俺はいつだって完璧で……
一瞬、激しく何かを叩くような音が響いて、俺の意識は現実に戻された。
そして、俺の頬に、鋭い痛みが走った。
俺は今……香月に殴られた……?
しかも、グーで……?
「いい加減、目を醒ませって言ってんのよ!このぼっち野郎!!」
香月のその怒声で、その言葉で俺は思い出した。
そうだ、俺には友達が…一人もいない。
そして、女になんてモテたこともない。
頭も平均レベル。運動神経も平均レベル。
ただ、友達がいないとはいえ、苛められたことや悪い意味で目立ったこともない。
なんの特徴もない「平凡」な高校生。
それが「僕」……神無月 紅だったんだ。
「やっと目を醒ましたのね、神無月 紅君。じゃあ、次は私が貴方に秘密を告白するわ。」
香月は、呆然とする僕を見つめ、そう告げた。
そして、次の瞬間
いきなり僕の手を握ってきた。
「な、なにするんですか……こ、香月…さん。」
妄想世界から現実へと引き戻された僕は人が変わったように弱々しく、顔を紅潮させ身を引いた。
「私ね、実は……」
香月…さんは、僕のその言葉を無視して目を見つめながら、小さな声で囁くように言った。
「人の心が読めるの。」
僕はその言葉を理解するのに約1分程の時間を要した。
「ほ、本当…ですか?」
「本当よ。だから貴方が妄想世界と現実の区別がつかなくなってしまっていることも分かったの。」
「そ、そうなんですね…。」
にわかには信じがたい話だが、僕はとりあえず香月さんの言葉に耳を傾ける。
「あ、まずはその前に私が香響院 春姫だという、証拠を見せるわね。」
そう言って香月さんが机の引き出しから取り出したのは、大量のファンレター。
「ごめんなさい、あれだけ偉そうに言っておいて、証拠になるものはこれしかないの。でも、本当はもう私が香響院 春姫だって納得してるのよね?」
「はい。おっしゃるとおりです。」
その通りだった。こんな大量のファンレターを見なくても香月さんが香響院先生だということは既に納得している。
妄想世界の「俺」が意地を張って認めなかっただけだ。
「ありがとう。じゃあ、私が貴方をラブコメの主人公のモデルにしたい理由を説明するわね。」
「は、はい。」
「私は、実は文才なんて全然無いの。私がデビュー作で売れることができたのはこの能力、人の心を読むことができる力のおかげ。具体的にはまだ話せないけど、ある人の心を読むことで、デビュー作『黄昏れ狂月の迷宮探索』を書いたの。でももうその人はいない。だから、今は次作のプロットも何も浮かばないの。」
この話が本当だとするなら、一体その心を読んでいた人物とは何者なんだろう。そして、心を読むだけであそこまで繊細で緻密な文が書けるものなのだろうか。
「だからね、神無月君。次作はラブコメにしようと思っているの。黄昏れ狂月の迷宮探索みたいな設定が細かくて戦闘描写が多いのはもう書けそうにないから。だから、その為にも貴方に協力してほしいの。駄目かなぁ?」
今までとは雰囲気が一気に変わって清純派アイドルのような口調になった香月さんが僕を上目遣いで見つめてくる。
駄目だ……そんな目で見つめられたら…
「わ、わわ、分かりました!!僕なんかで良ければ協力します!!」
ほらー!!勢いでOKしちゃった!!
「ありがとうっ!神無月君!じゃあ早速明日から学校中の美少女達に声かけまくろうか!」
その言葉を聞いた香月さんはニコリと笑って僕にそんな衝撃的なことを告げた。
「……は、はい……。」
涙目になりながらなんとかそう返す僕。
(あぁ、一体僕の「平凡」な学校生活はどうなってしまうんだろう。)
僕は頭をガックリと垂れ下げ、明日からの壮絶になるだろう日々に、覚悟を決めるのだった。
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