アトランティス編

第29話 水龍人の少女

【水の惑星・アーウォース】


「ほらどうした。 はよ行かんと突き落とすぞ!」


 綸先輩が槍をぐいぐいと向け、催促する。だが、この崖の高さだ。落ちたらタダじゃすまないだろう。

 すると、梨花が崖の端に立ち、下を確認する。


「お先失礼します」

「ちょっ! 梨花ちゃん、まっ……」


 美大が止めようとするも、梨花は躊躇する事なく飛び込んだ。綺麗な半円を描きつつ飛びこむその姿は、まるで飛び込みの選手の様だった。


「お~、あいつ度胸あるじゃねぇ~か」


 綸先輩は全く驚く様子もなく悠々としている。残された第三期生たちは、梨花が飛び込んだ後のことが気になり、崖の端から下を眺めていると背中に何かが当たる感触がした。


「あれ?」


 気づいた時には崖から足が離れ、宙を舞っていた。そう、綸先輩が全員を突き落としたのだ。


「んじゃ、頑張れよ。 ヒヨッコ共」


 ニヤッとしたその楽しそうな笑顔は一生頭から離れないであろう。悪魔の笑顔だった。


「キャ―――――!!」

「おいおい冗談だろぉぉぉおおお!!」


 美大と怜雄が盛大に叫ぶ中、槐と玲一は絶句し声も出なかった。玲一に至っては指を重ねお祈りしている様だ。水面とぶつかるその瞬間、残された第三期生たちは全力で体を垂直にし、衝撃に備える。

 

ズシャーーーンッ!!!


 かなりの衝撃が来ると思っていた槐は目を閉じていたが、あまり痛くも痒くもないことに気づく。


「思っていたより痛くないな」

「ですね。 新しい機体のおかげでしょうか」


 玲一も隣にいて、共に無事であることを確認する。そして、機体は浮くことなく、その場に静止し続ける。どうやら機体のモーターが作動し、スクリューの役を果たしているようだ。


「あら、案外早い飛び込みだったのですね」

「皮肉か?!」


 少し下を見ると先に飛び込んだ梨花の姿もあり、その隣には怜雄と美大がいた。すると、梨花の鋭い両腕が光りだし、前方を向いて構え始めた。久しぶりに見る光源の能力だ。


「この状況どうすればいいのかしら」


 梨花が見つめる方向を急いで確認する。


「「「「!!?」」」」


 そこには大量の人の姿をした少女が裸の状態で、局部を手や腕で隠しながらこちらを睨んでいた。だが、その少女たちには人と違うところがあった。それは、頭にことと、一人一人色は違うが所々にことだ。

 まじまじと少女たちを見ていると、淡い水色の髪をした長髪の少女が、その髪色と真反対の色をした赤面顔で、こちらに指を差してくる。


「じ、じろじろ見ない! 特に男共! 向こうを向きなさい! 向こう!!」

「はいっ!」


 男三人は少女の怒鳴り声にすぐさま反応し、先ほど落ちてきた崖の方を向く。すると、美大が自分と梨花を交互に指を差し、その長髪少女に質問をする。


「私たちはいいの?」

「あなたたちは女性でしょ。 なら構わないですよ」


 そして、長髪の少女は続けて梨花の方を指差す。


「ていうかそこのあなた! を解いてください……。 怖いです……」


 また命令口調で怒鳴るのかと思えば、急にシュンとし震え始める。


「あら、ごめんなさい」


 梨花も戦意のない相手には、闘争本能をむき出しにすることは出来ずに素直に光源の能力を解いた。能力を解いたのを確認すると、今度は長髪少女が手のひらをこちらに向ける。


「す、少しここで待っていてください! すぐ着替えてきますから!」


 そう言い残すと、周りにいた者たちに指示のようなものを出した。そして、少女たちの髪が急に一つにまとまり、魚のような尾の形になる。少女らはそのまま、その尾の形になった髪を巧みに使い、海の奥へと消えていった。

 会話を聞いていた怜雄が、女性陣に確認をとる。


「もう振り向いてもいいのか?」

「多分いいよ~」


 振り向いた男性陣は緊張から解放され、ホッと胸をなでおろす。すると、玲一が観察者の能力を展開させる。

 そこに映し出されていたのは、いつの間にか撮ったのであろう先ほどの長髪の少女が静止画で映し出されていた。


「さっきの人たちって、おそらく“”ですよね」

「正解。 よくできました」


 スッと第三期生の前に現れた綸先輩に槐がいち早く反応した。


「綸先輩! いつの間にいたんですか」

 

 槐は下の方から圧を感じ、ゆっくりと見下ろす。その圧を放っていたのは怜雄だった。見るからに綸先輩に対し、怒り絶頂っていうところだろう。


「おいチビ。 よくも俺らを突き落としやがったな……」

「さ~て何のことやら」

 

 怜雄はしらばっくれる綸先輩に今でも襲い掛かりそうな漢字だったが、拳を固く握りしめて必死に我慢する。

 綸先輩はそんな怜雄に対し、口元をやや隠すように手を当てニヤニヤする。


「でも良かっただろ~。 女の花園を堪能出来て……プフッ」

「絶対いつかブチノメス」


 慌てて美大が怜雄を落ち着かせに入る。そして槐は、綸先輩の言葉から間違いなくここがどこだか分かって、突き落としたのが分かると質問をする。


「綸先輩、つまりここってどこなんですか?」

「聞いて驚け! ここは水龍人にとっての風呂場だ!」

「「「「「……。」」」」」

「あれ、ここは男性陣盛り上がるところだぞ」


 聞いて呆れることに、とんでもない所に落としてくれたなと思う第三期生達。その沈黙具合は、初めて綸先輩を困惑させるほどだった。水龍人達も、まさか侵略者が風呂場からやってくるとは思わないだろうに……。

 すると、奥の方からこちらに手を振る影が見えた。あの長髪の少女だ。長髪の少女は、着物姿になっていた。


「お待たせしました~……ってあれ! もう一人増えてる!!?」

 

 当然の反応をする。その少女の後ろからは、長髪の少女と同じく着替えてきた者たちがやってきた。そして、驚いた様子で綸先輩を凝視し始めた。

 綸先輩は軽く右手を挙げ、長髪の少女へ挨拶をする。


「よっ! ちゃん」

「綸さん!!」

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