第28話 侵略の方針

【水の惑星・アーウォース】

《数少ないとある大地》


「ヒヨッコ共、全員同期は済んだか?」


 目を開けるとそこには、青く澄んだ水が蔓延る惑星・アーウォースだった。第三期生の5人は横一線に並んでおり、それぞれ目の前に広がる水の大地を眺めている。

 

「ずっと眺めてると落ちちまうぞ」

「落ちる?」


 後ろから話しかけてきた第一期生の射通 綸いつう りんが言う落ちるとは何のことか下を見ると……。


「うわああぁぁああ!!」


 あまりの高さに驚き腰を突く槐。何と5人が立っていたのは陸の端。2,30mは軽くある崖の上だった。あまりの高さに梨花以外の4人がゆっくりと後ろに下がる。


「はははは!! ビビりすぎだろお前ら!!」


 陽気に笑う綸先輩。それを咎めるような視線を送る4人。


「何でこんな所に……」

「ちょっとしたサプライズだよ〜」


 笑いを堪えながら答える綸先輩だったが、すぐに切り替え仁王立ちをし堂々と構える。

 綸先輩の機体は、暗い紅の色をした機体で自分らみたいな特殊な加工を施されていないように見えた。少し変わった特徴があるとすれば、その背丈に合っていない槍が2本、背中に交わるように背負っていた。


「なんだよ。 ジロジロみやがって。 こいつがそんなに気になるのか?」


 綸先輩が背後の槍を親指を立て指差す。すると、武器や武術に敏感な怜雄が反応する。


「それがあんたの武器なのか?」

「見りゃ分かんだろー。 じゃなきゃ持ってこねぇよ」


 綸先輩が放った言葉に苛立ちを感じた怜雄だったが、先輩ということもあり抑える。

 その時、耳元からもううんざりするほど聞き慣れた声が聞こえてくる。


『あーあー、もしもーし。 聞こえてるかしら? あ・な・たのミカで〜す☆』


 ミカの声を聞いた瞬間、綸先輩の顔がひどく歪んだ。


「(どれだけミカさんのこと嫌いなんだよ……)」

「何だよミカ! 珍しく通信なんか入れやがって」

『実は嬉しいくせに~このこの~』

「うぜぇ。 要件はなんだよ?」

 

 ようやくミカも話す気になり、しっかりとした声質に変わった。


『分かっていると思うけど、侵略方法はで行いなさい。 恐怖で侵略、原住民との話し合い・交渉で侵略、それと個別で槐君には話したけど星の核を狙う方法などあるわ。

 あー、あと綸ちゃん! あまり手を出したらダメよっ☆』

「分かってる。 何年この仕事してると思ってんだ」


 綸先輩のその言葉を聞き、通信は途切れた。

 ミカの通信を聞いた第三期生それぞれが、考え始める。この作戦を行うにあたり考えはしてきたことだが、いざ“自分らの好きな方法で侵略してこい”なんて言われると困るものだ。


「ヒヨッコ共。 これからどうするだ? ミカの言っていた3択、恐怖・交渉っとそこのお前だけ知ってる侵略方法だっけか。 この中から選べ」

「答えを出す前に、槐君の知っている侵略方法を聞いてもいいかしら?」


 今まで静かだった梨花が槐に対し質問を投げかける。それに合わせ、皆槐の方に注目する。


「いいですよ。 俺がミカから聞いた話では、星の核。 すなわち星の中心を目指し、そこにあるを俺の侵略の能力を使い、侵す……というものです。」

「いまいちピンとこないわね」

「すみません。 これ以上は何も聞いていないので……。 ただ、これが成功すると元地球人達に対し、大きな一手をかけることができるそうです」

「……。」


 皆無言のまま考え込む。正直自分でさえ上手くは理解していない。例えこの侵略方法が上手くいったとして、その後どんな変化が起きるかもわからない。そもそも、侵略対象のとあるモノとは……。

 すると、静けさの残る中、梨花がそっと前に出て右手を軽く上げる。


「私は力尽くで侵略する方針で良いと思う。 このメンバーなら戦力はあるからできるはず」


 梨花の言葉にいち早く飛びついたのは美大だった。美大は前に出た梨花の右手を抑えた。


「ちょっ! 梨花ちゃん正気?!! それじゃ私たち悪者になるんだよ」

「私たちがやることは領土の侵略。 歴とした“悪”。 ここに来る前から分かってたでしょ」

「でも……」

 

 美大は何も言えないまま俯き、立ちすくむ。だが、すぐに顔を上げ梨花の隣に立ち、梨花と同じように宣言する。


「それでも私は話し合うべきだと思う! それでダメだったら梨花ちゃんの案に乗る! 他のみんなはどう?」


 美大に意見を問われた男3人は顔を見合わせ、それぞれ怜雄・玲一・槐の順に答える。


「俺は美大の案に乗るぜ」

「僕もそれでいいと思います」

「俺も話し合いたい。 その上で可能ならミカからの案を試してみたいと思う」


 安堵したような表情を見せる美大に対し、呆れた様子の梨花。方針が固まったところで、綸先輩が動き出す。


「決まったな」


 そして、背負っている槍を一本取り出すと、背後にある崖の方をその槍で指す。


「んじゃこっから飛び込め」

「はっ?」


 綸先輩から出た突然の一言に第三期生達は、唖然とするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る