神域者と方針
神域者・ミカ編
第22話 美大の母親
【地球:中央都市軍基地:訓練施設】
《戦闘訓練後》
槐が同期を解除され初めに目にしたのが研究員らしい人と、起き上がるのに苦労している第三期生の姿だった。
「クソっ!! 体が動かねぇ!!」
あのガタイの良い怜雄さえ起き上がれないほどの硬直具合。近衛先輩が初めの挨拶の時言っていたことを思い出す。
「(疲れるから負担のかかる能力はあまり使わないっていうのはこういうことか……。 本当に動かないな……)」
その中、普段とあまり変わらない姿で会話をしている2人がいた。梨花と美大だ。彼女らは何やら楽し気に話をしていた。
「梨花ちゃんすごいね!! めちゃめちゃ倒してたじゃん!!」
「普段から能力を使って稽古していましたからね」
先ほどの戦闘訓練や能力のことで盛り上がっているらしい。すると、訓練施設の入り口から1人の美しい女性がやってきた。その女性は、見た目は20代前のように見え、緑色の髪を胸にかかるぐらいまで伸ばし、目は青と緑色のオッドアイ。
そして、何より気になったのは服だ。ほぼビキニに近い格好に、腰にチャイナドレスの様に脚が横から見えるスカートのようなものを履いているだけ。明らかに場違いだ。
すると、美大が驚いたような声を出し、その女性に抱き着いた。
「あれっ、ママッ!! え、なんでママがここにいるの?!!」
「さ~、なぜでしょう??」
その女性は美大の母親らしく、美大と抱き着いたまま離そうとしなかった。とても溺愛しているご様子だ。
そして、その美大の母親の後ろからまた人が2人入ってくる。今度は今回の訓練の監視役で先輩の藤林先輩と近衛先輩だった。
「
「少しぐらいいいじゃない。 我が子が命がけの戦いから帰ってきたのよ~。 八ッ!! そういえば美大、腕は大丈夫なの??」
「(近衛先輩と話しているときはゆったりだったり、美大の心配をするときは顔を真っ青にしたりと表情豊かな人だな...)」
美大は自分の右腕を確認する。特に何も支障がないらしく腕を何回か回し、痛みがないことを知る。
「大丈夫みたい。 これもママの血のおかげかな??」
「そう、よかったわ。 ずっと見ていて心配したのよ」
またいちゃつき始めた美大とその母親の側にいた近衛先輩が、美大母の肩を叩き、平らにした手に光源を展開する。
「だめよ撫子ちゃん……。 施設内は能力きn---」
真っすぐ振り下ろされた光速のチョップは、美大母の脳天を直撃した。さすがに手加減はしていたようで、血が流れることはなかったが、相当悶えている。
すると、今まで後ろで様子を見守っていた藤林先輩が前に出て、説明を始めた。
「この女性は、鴻崎ミカ。皆も今知った通り美大ちゃんの母親だ。 そしてこの侵略軍のトップでもあり、一応偉い人でもある。 今回の戦闘訓練の管理もしていて、君やら今回戦った成長する獣型を作ったのもこの人だ」
先ほどまで悶えていた美大母が笑顔満点で起き上がり、美大を抱き挨拶をする。
「美大の母のミカで~す☆ よろしくね~!!」
「(一同)…………。」
「え、それだけですか!!」
近衛先輩がこれまでにないほど驚いた顔をする。第三期生のみんなも近衛先輩と同じ反応をしたがそこまでだった。
「(美大がちょっとテンションが高いのはこの人のせいだな)」
今まで動けずにジッとしていた玲一が、首だけをこちらに向け、力を振り絞りミカに質問をする。
「神域……者…のか……たですよ……ね??」
「正解!! よくわかったわね」
すると、ミカは何かに気づいたのか玲一に近寄り、彼の視線の先を追った。そこには、研究員が使うPCのモニターがあった。
「あなた、能力が展開しきったままになっているのね。 危険な状態だわ。
すぐ医務室へ運んで頂戴!!」
玲一はそのまま研究員たちが担架に乗せ、医務室に運ばれた。能力者は疲労やストレスが溜まると、能力の制御が難しくなり暴走を起こす場合がある。玲一はまだ初期症状の段階で、能力の収束ができない状態だった。
ミカは玲一がちゃんと運ばれるのを訓練施設の入り口まで見送ると、第三期生1人1人を間近で確認し回った。
「美大と梨花ちゃん以外は結構疲労しているわね。 これじゃあ今後についての説明は無理ね。
みんな今日の所は休むと良いわ。 撫子ちゃんもそれでいいわね??」
「ミカさんがそういうなら……」
槐たちはようやく忙しい一日が終わることに安堵する。そして、ミカは何かを思い出したようで、近衛先輩に迫り、ニッコリ笑いながら重い声で話す。
「撫子ちゃん。 あとで反省文を書いて提出してね~。 上司への暴行並びに施設内の能力使用。 これで何度目かしら……フフフッ」
「ヒッ!!?」
近衛先輩がミカにネチネチと叱られているのを最後に、槐は溜まっていた疲労に襲われ眠りについた。
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