第21話 2機の獣型の正体
【火星:訓練施設】
《戦闘訓練:第3期生》
空から降ってくるのは、二刀流と女形の獣型。槐の侵略者の能力で作った、侵入不可の円陣を破ってきたのだ。
これに第3期生一同は驚愕し、構えるのが遅れる。
梨花が立ち止まったままの4人に対し、急いで攻撃態勢になるよう声をかける。
「みんな何やってるの!! 構えてっ!!」
「……!!」
するとようやく事態を飲み込んだ4人が各々能力を展開し、準備を整える。それと同時に、2体の獣型はズシンッと大きな音をたて、第3期生の前に現れる。
だが様子がおかしい。2体の獣型は全く戦う様子がなく、腰に2本剣をぶら下げている二刀流に関しては、顎に手をやり、ぐるりと全員を観察している。
「あれが二刀流?? だけどなんだか雰囲気が……」
「そのはずなのですが……」
槐が梨花に話で聞いていた獣型かと確認を取ると、梨花は困惑している様子だった。
「とりあえず、先手必勝ですね」
梨花が、二刀流の獣型に対し光の剣を突き刺すように行動をとると、その獣型は意図も簡単に避け梨花の腕を掴む。
「また私の攻撃を……。 クソッ!!」
「話で聞いた通りか」
怜雄が攻撃態勢をとったまま、今起きたことに対し冷静に分析している。梨花は掴まれた腕をどうにか振りほどこうとしているが、離れそうな雰囲気ではなかった。
すると、観測者の能力を展開していた玲一から、衝撃的な言葉が飛ぶ。
「もしかしてこの名前先輩達??」
「えっ?!!」
観測者の能力が覚醒した玲一には、相手の情報が見える。そこには勿論名前なども確認することは可能。そして、そこに書かれていた名前は、“藤林士彦”と“近衛撫子”だった。
その言葉を発した途端、女形の獣型が耳元をいじり始めた。そして、第3期生達の通信に今まで何度も聞いた声が聞こえた。
「正解よ玲一君。 そこまで能力が研ぎ澄まされれば合格ね」
やはり近衛先輩だ。では、今までの通信は誰だったのか??
そんな疑問を覚えた槐だったが、今はそれどころではなかったので一時保留としておく。
「撫子せんぱ~い ギュッ☆」
美大は近衛先輩の言葉を聞いた途端、真っ先に女形の獣型に抱き着いた。そこからは、近衛先輩のであろう殺気を感じたが、最終的には諦めて少し頭を押さえて撫でているようにも見えた。
そして、二刀流の獣型基、藤林先輩も梨花を押さえている手とは逆の手で耳元をいじり、通信に入ってきた。
「諸君もなかなかやるねぇ~。 大変すばらしい!!」
藤林先輩は梨花の腕を離すと、近衛先輩のように梨花の頭を撫でようとしたが、光速で逃げられていた。
場が一旦落ち着きを取り戻すと、近衛先輩が今までの経緯、この訓練の本来の目的を話し始めた。
「とりあえず今回の訓練はここまで!!
本来は獣型・模擬戦闘兵器10機の破壊だったのだけれど、あなたたちじゃ倒せないことが分かったので切り上げよ。
あなたたちの戦闘能力は分かったし、能力の底上げもでき、成果は上々。満点とはいかないけど及第点レベルよ」
「それってギリギリなんじゃ……」
「ンンッ!!?」
玲一が及第点という言葉に反応すると、近衛先輩はもの凄い勢いで睨んだ。玲一もヤバいと思い、全力で目を逸らす。
そんな近衛先輩に藤林先輩が肩を叩き、少し前へ出る。
「諸君らのために、模擬戦闘機をできるだけ攻撃的な進化をしないよう設定したが少し物足りなかったかな??
俺らの世代だと、手も足も出なかったことを考えると、君たちは金の卵だ。今の実力に十分に誇りを持ちたまえ」
「やっぱりあれは進化するタイプだったのですね」
「その方が、効率的にレベルが上がるし楽しいだろ??」
さも当たり前のように言葉を返された梨花は首を横に振る。
「全然。 相手にもなりませんでしたよ」
「ははっ!! そりゃ結構!! 撫子、鍛え甲斐のある後輩ができてよかったな」
「とても手を焼きそうね」
場が少し和むと、近衛先輩が美大を連れたまま槐の方に近づいてきた。そして、見たことのある端末を開き色々とメモを開き始めた。
「槐君の能力は色々と調べ甲斐があったわ。 今後の研究のためにも話は帰ってから聞かせてね!!」
近衛先輩はそのまま誰かと連絡を取り、また元いた場所に戻り振り返る。
「それでは
するとすぐに眠気が襲ってくる感覚が第3期生を襲う。そして、気が遠くなりもうすぐで同期が切れるところで、近衛先輩が慌てた様子をしているのが見えた。
「言い忘れてた!! 同期解除後は使った能力分疲労するから気を抜かないでね!!」
「(え、今頃!!?)」
槐がその言葉を発しようとしたころには、同期が解除され研究員らしき人たちが自分を大勢で覗き込んでいた。
【補足】
なぜ、槐の侵略の円陣を近衛先輩や藤林先輩が、侵入できたかと言うと。
もともと槐が仲間だと認知していたため、獣型の姿になっていても入ることができた。
・槐の認知
近衛先輩&藤林先輩 → 仲間
女形&二刀流 → 敵
ここで矛盾が生じ、効果がなかった。
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