巫女の実力と異国の剣豪
「さあやってきました‼皆さんお待ちかねの、ワルミエル国際闘技場第32回、シングルマッチ~‼」
実況の声に反応して観衆が声をあげる。
『WOW ー‼やれー‼』
「それではルールの説明にうつります。これは一対一のタイマン勝負。武器あり魔法ありの自由なバトルです。今日は二組の戦いをお送りします‼」
『おおおー‼』
「それでは一回戦目、[封印の巫女]フウVS ケンゴウー‼」
一回戦目の組が発表される。有名な封印の巫女と、どこか風格のある剣士の戦いだ。巫女は黒髪をたなびかせ、武器を何も持っていない。対してケンゴウの方は、赤い髪を短くまとめ、白いさやにつばが小判のような形の異形の剣を携えている。二人は戦闘体制に入り、巫女はケンゴウをしっかりと見据え、ケンゴウは集中しているのか目をつぶり、右手で剣をつかむ。
「それでは~......。試合開始~‼」
派手なゴングが鳴った刹那、ケンゴウが動いた。
「おおっと、先に動いたのはケンゴウだー‼」
ケンゴウは十分な間合いに入ると、薄い剣を素早く抜いた。そして無言で切りかかる。
「そうはいきませんよ。......固定」
そう彼女が言うと、ケンゴウの持っていた剣が空中でかたまり、ケンゴウが驚く。そのすきを見逃さなかった彼女は、何かを呟き攻撃体制にはいる。
「......束縛」
その刹那、ケンゴウの動きが止まる。これが彼女の魔力、[封印]である。
それでもケンゴウは無言のままで、手をあげる。
「ここでケンゴウ、なす術なくリタイア~‼よって勝者は[封印の巫女]フウ~‼」
『Year ‼やったぜー‼』
観衆はフウの勝利を喜ぶ。だが、当の本人はさほど喜んでいないようだ。
「それでは続きまして、二回戦トムVS [凍結の巫女]トウ~‼」
『トウちゃんも頑張れー‼』
観衆から熱い声援が送られる。トウはその期待に応えたいと心のなかで念じる。
「トウ、頑張れ」
閲覧席から見ていたフウはそう呟いた。
トムという男は身長が高く、少し黒ずんだ茶色い髪で、始終笑顔だ。一方トウの方は、緊張し、少しオドオドしている。彼女はフウとは真反対に、銀色に輝く髪を短くまとめている。先程の試合とは違い、それほど殺気は感じられない。だがトウは魔力をあらわにし、辺りの温度が急激に下がる。
「試合開始‼」
実況の声とゴングが重なり、二人はじっとみつめあう。先にトムが動く。
「それではいかせてもらいますよ。落とし
トムがそう叫んだ瞬間、トウの足元に大穴が空く。狙いはトウの気絶のようだ。だが。
「冷却」
彼女がそう言うと、地面の温度が低下し、大気中の水蒸気が一気に凍り、穴を埋め尽くすほどの氷が生まれ、ダメージを軽減する。
「ごめんなさい。あまり痛くないようにしますので」
そう言って彼女は背中に隠していた左手から魔力を解き放つ。
「
闘技場の上空から巨大な雲が出現し、トムの頭上にだけ吹雪を降らせる。名前の通り、舞っているのは雪ではなく、魔力のこもった雹だった。
「グワアアア‼」
トムは叫び声を上げて倒れ込む。
「ノックダウ~ン‼[凍結の巫女]トウの勝利だ~‼」
『Year ~‼』
「それでは明日は3,4回戦を行います。皆さんまたご来場お願いします」
闘技場でのシングルマッチ1日目が終了した。結果は、1回戦目[封印の巫女]フウVS ケンゴウでフウの勝利。2回戦目[凍結の巫女]フウVS トムでトウの勝利。
「凄かったですね、エリック」
ガーネットが闘技場の観客席で隣に座っていたエリックにそっと呟いた。彼女は
「ん? そうだな。明日は俺かー。めんどくせーなー」
エリックは伸びをしながら言う。エリックの魔力は
「めんどくさいって言わないの‼ったくもう」
ガーネットの膝の上に乗っていたウィルがエリックを叱る。ウィルの魔力はライフスタイル。対象にかけられたバフ、デバフ効果を消し去るモノだ。ウィルの魔力は二人の魔力とは違い、シンプル系魔力という魔力で、いくら時間が経っても1種類の魔法しか使えない。逆に二人の持つような魔力をコンプレックス系魔力といって、数種類の魔法を扱える魔力だ。
「ハイハイわかりましたよ。わかったからさっさと宿に戻ろうぜ」
エリックが立ち上がって出口へ向かう。それに応じるようにガーネット、ウィル、ガルジュがエリックの方に走った。
「で、どうするよ」
「どうするって、何をだ?」
「そりゃ決まってんだろ。もし俺達同士で当たったらってことだよ」
彼らはこの国で行われている闘技大会に出場している。ウィルを除いては。
「う~ん、まあ本気でやっちゃえば?この際」
「まあそれもアリだな。俺達同士でやったことはねえわけだし」
「そうですか?私は反対ですよ」
「どうしてだ?」
「いや、その~、仲間同士では闘いたくないです」
「じゃあどうするんだ?」
「そ、それは......ッ‼」
「まあこっちも死なない程度にしとくさ」
「じゃあ明日に備えましょ」
私にはどうしても本気を出せない事情がある。この人たちは優しい。でも教えられない。これがばれたら、私は......。
「それでは闘技大会二日目、第一試合エリックVSコルト~‼ 」
試合場に二人は上がる。そして互いに笑みをこぼして握手する。そして距離を取る。
「試合開始‼」
二人はじっと見つめ、相手の出方を見ている。だが両者ともに動く気配がない。風が吹き、砂煙が舞った瞬間、コルトが動いた。
コルトは走り出すと、何もなかったその右手から、紅い剣をうみだす。
「無詠唱魔法⁉」
無詠唱魔法とは、その名の通り詠唱をせずに発動できる魔法だ。
コルトはその紅い剣を細い腕でふるい、襲いかかる。だが、エリックは軽い身のこなしで、それらをかわしていく。
「なぜ魔法を使わない?」
「決まってるだろ。今放つんだよ」
そう言ったエリックは背に隠していた左手から銀に輝くたまをとりだす。
「まさかお前も......⁉」
「いや、聴こえなかったか?俺はずっと小声で詠唱してたんだぜ」
会場全体が沸き上がる。小声での詠唱など誰も思い付かない。
「さーてと、喰らいな。ラン・クラスター‼」
まともに喰らったコルトはほぼ瀕死状態で砂煙から見つかった。
僕と歯車と賢者の石 @kamishiroyaiba
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