第16話おっさん、育成を始める
「……なるほどねぇ、また竜を欲しがってるのね。あのエロオヤジ」
「それで人手が足らない、と。なるほど。理解しました」
「あぁ、だからお前らの力を借りたい。頼めるか? ミレーナ様には許可は取ってある。……頼む」
ドルトの頼みに、二人は顔を見合わせる。
「ふーむ、どうする? ローラ」
「どうしようかしら? セーラ」
互いにそう問う二人だったが、既に結論は出ていたようだ。
やれやれと首を振ると、ドルトにウインクをした。
「まぁミレーナ様の頼みでは、断るわけにはいかないかしら?」
「そうね。でもお礼に甘いものくらいは奢ってもらえるのでしょう? 女子へのお礼は甘いものと相場が決まっているわ。この『女子に好かれる100の方法』にも書いてあるわ」
どこから取り出したのか、分厚い本をめくりながらローラは言った。
「ま、おっさんの言うこと聞くのはちょっと癪だけどねー」
「ありがたい……が、おっさんというのはやめてくれ、地味に傷つく」
「あはは、まぁ気にしない気にしない」
ばしばしと背中を叩かれながら、ドルトはやはり地味に傷ついていた。
ともあれ竜舎へ行くことになった四人だが……歩いていたドルトの肘を、ケイトがちょいちょいとつつく。
「ドルトくんてば、いつの間に若い美少女と仲良くなってたわけ? いいなぁうらやましいなぁ。私も若い美少年といちゃいちゃしたいなぁ」
「おばさん呼ばわりされてもいいのか?」
「そこはあーた、お姉さん♪ と呼ばせますよ?」
「呼んでくれるといいけどな」
ちらりとセーラを見やると、すでに竜舎へとついていた。
扉をバタバタと動かしながら、「はやくしなよ、おっさん」と言っている。
「あんな感じなわけだが……」
ドルトの言葉に、ケイトはいやいやわかってないなとばかりに首を振る。
「そこは拒否権ないんで。絶対お姉さん♪ って呼ばせますよー」
「だったらいいけど」
「調教は得意なので」
「竜の?」
「さてどうかしら? ふふふのふ」
ドルトは突っ込みに、ケイトはあえて何も言わず、笑うのみだ。
底知れぬ不気味さを感じたドルトは、それ以上突っ込むのはやめにした。
「まぁ、お手並み拝見といきますか」
「おうとも。見ておきな。ドルトくん」
ドルトは女子特有の強さというものを感じるのだった。
竜舎に着くと、出荷用の竜二頭をセーラとローラに紹介する。
「セーラ、ローラ、お前たちはこの竜に、朝夕の二回乗ってくれ。こいつらは殆ど仕上がってるから、早駆けと戦闘訓練、悪路の走行辺りをバランスよく。……言うまでもないが、怪我だけはさせないように」
「そうね。気をつけようね。セーラ」
「わ、わかってるわよ! ローラ」
先日のことをローラにからかわれ、セーラはむすっとした。
それを聞いて思い出したドルトが尋ねる。
「そういえばあの時の怪我した竜は大丈夫だったか?」
「うん、道中の街で治療して貰ったから。包帯も巻いて貰ってる」
「わかった。あとで一応見ておく……で、問題は俺たちの方だな。ケイト」
「ですなぁ。とりあえず、幼竜のいる離れに行ってみるかい?」
ドルトとケイトは竜舎を出ると、中庭をぐるりと回り裏手に行く。
そして竜舎から大きく離れた城の外側、小屋の中に幼竜と親竜が二頭ずついた。
まだ子離れ出来ていない親竜は、あまり刺激を与えぬよう、幼竜と共に少し離れた場所で飼育しているのだ。
遠目から幼竜を見つけると、ドルトは頷く。
「うん、もう鱗も生えそろっているな。一歳三ヶ月ってところか?」
「おー正解! ぴたり賞をあげよう。でも、親離れはまだだよ」
竜は生まれた時は人間の子供くらいの大きさだ。
数時間ほどで歩けるようになり、どんどん食べてどんどん大きくなる。
そして一年かけて、今と同じくらいの大きさになるのだ。
竜は比較的親子の絆が強く、親竜は幼竜が一人で生きていけると判断するまでは決してそばを離れない。
餌も親が一度噛み、食べやすくして子供に与え、寝る時は全身で抱きかかえるようにして眠る。
そうしてすくすく育った幼竜は、やがて親から離れ一人で生きて行くのだ。
こうして独り立ちした竜は、幼竜ではなく成竜と呼ばれ、ようやく一人前として扱われる。
親離れ間近とはいえ、幼竜は幼竜だ。親竜が警戒するラインを確認する必要があった。
「というわけで、ちょっと行ってくる」
「はいよー気を付けて」
ドルトが近づくと、親竜は幼竜を守るように立ち塞がった。
この時期の親竜は非常に気が立っており、危険だ。
野生の獣などはこの時の竜には決して近づかず、縄張りを示す鳴き声を聞いた途端、隣山まで飛んで逃げる程だ。
親竜は警戒するように、ドルトを睨み付ける。
「……まだべったりって感じだな。ちなみにケイトはいつも親離れはどうしてる?」
「特に何も。親竜にお任せかなー。時々顔見せして、撫でさせてもらうくらい。普段はそれでいいけど、今回は時間がないんだよねー」
「あぁ、だから一緒に子育てするしかない。さーて、どの辺りまで近づけるかね」
そう言ってドルトは更に親竜に近づいていく。
数歩、近づくと唸り声を上げてきたのでそこで止まった。
これ以上近づくと攻撃される恐れがあった。
「……ここまでか。意外と警戒されてないか。ケイトの育て方が良かったんだろうな」
「全く、命知らずだなぁドルトくんは。文字通り一歩間違えれば死ぬよ?」
「そこまでギリギリは探ってねぇよ。あと五歩はいけるって。それよりケイトは触れるのか?」
「多分ねー。……ごめんよ、ちょっと触らせて貰ってもいいかなー?」
声をかけながら近づくケイト。
ドルトが離れると親竜は座り、ケイトは無事に幼竜を撫でる。
「おーよしよし、ありがとね。かわいいかわいい」
「きゅーん」
生まれた時から世話をしていたケイトなら、近づけるようだ。
ドルトはふむと頷く。どうやら方針が決まったようだった。
「……こんな感じでいいのかな?」
「あぁ、ぐるっと城を一周したら、親子を替えてもう一周だ」
ケイトが幼竜を抱えるようにして支え、そのすぐ横を親竜が歩く。
数歩遅れて、ドルトが続く。
ここまで育った幼竜は大人より少し小さいくらいだが、まだ脚も十分には発達しておらず、少しの事で転びやすい。
だが人が抱える事で安定し、転びにくくなるのだ。
加えて人に慣れさせる効果もある。
「よーしよし、どうどうー」
ケイトが幼竜の首を撫で、止めさせる。
ちゃんと城を一周出来たのだ。
ご褒美に、竜の実の匂いを軽く塗布した果物を食べさせると、幼竜はごろごろと喉を鳴らした。
「いい子だねー頑張ったねー」
「うんうん。
ドルトは離れた場所で手を叩く。
竜との距離は、散歩の前より近くなっていた。
「ケイト。この調子で次、行くぞ」
「おっけーい」
その日、二人はくるくると城の周りを回っていた。
一日目が終了した。
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