第12話王女様、激しく誤解する
「ふう、こんなもんかな。ふぁぁ……」
ざくりと、草を運ぶためのフォークを地面に突き刺し、ドルトは大あくびをした。
流石に眠いが日も昇ってきたし、そろそろ交代の時間だろう。
そんな事を考えていると、不意に竜舎の扉が開いた。
ケイトが起きてきたかと思いきや、入ってきたのはミレーナだった。
「お疲れ様です。ドルト殿」
「ミレーナ王女! いいのですがこんなところに来て。忙しそうでしたが」
「こっそり抜け出し……こほん、今はその、休憩時間ですので。それよりお水とお弁当をお持ちしました」
「それはありがたい! 丁度喉が渇いていたんですよ! 頂いてもよろしいですか?」
「いいですとも!」
ドルトは腰を下ろし、弁当の蓋を開けた。
そのすぐ横にミレーナも座る。
弁当の中にはサンドイッチとポテトサラダ、鳥肉を揚げたものが入っていた。
「おお、これは美味しそうですね」
「さっきお料理の授業で作ったばかりなんですよ」
「王女様がですか?」
「えぇこれからの時代、王女でも料理の一つくらいはできた方がいいと」
そう言って教育係を説得したのは当のミレーナ本人であるが。
今日は学問の授業だったのだが、ミレーナたっての希望で料理に変更されたのだ。
この弁当はその成果である。
「それではいただきます」
そう言って手を合わせるドルトをミレーナはじっと見ている。
ドルトは食べにくさを感じながらも食欲には勝てず、食べ始めた。
「……美味しいですか?」
「えぇとても」
「それは大変よろこばしいことです」
ドルトに褒められ、ミレーナは満面の笑みを浮かべるのだった。
(確かにまだ距離は感じるけれど、徐々に仲良くなっていけばいい。同じ屋根の下に寝泊まりしているのだから、機会はいくらでもありますわ)
ミレーナは今のところはそれでよしとすることにした。
いやまぁ、同じ屋根の下というには些か大きな屋根ではあるが……ともあれ、ミレーナは納得したのである。
「あー! ドルトくんってば何か食べてるー! ずるーい」
そこへ入ってきたのはケイトだ。
気づいたドルトは挨拶をする。
「ケイト、おはよう」
「おはよーん。あらミレーナ様まで。ごきげん麗しゅうです」
「お、おはようケイト?」
ミレーナは困惑しながらも何とか返事をした。
なんだかドルトに対し、妙に馴れ馴れしくなっている気がした。
「ドルトくん、私お腹空いたんだよねー。何か食べたいなー」
「物欲しそうな顔しやがって……やれやれミレーナ王女、ケイトに弁当あげても構いませんか?」
「はぁ」
思わず出た返事は別にイエスと言う意味ではなかったが、そんな意図をドルトが知るはずもない。
「だってよ。よかったな」
「手が汚れてるんだよねー。食べさせて。あーん」
「はいはい、ほらよ」
「んー♪ おいしー♪」
あーんと開けた口の中にサンドイッチを入れて貰い、ケイトは美味しそうに顔を綻ばせる。
幸せさそうなケイトとは反対に、ミレーナの顔は引きつっていた。
よろめきながらも何とかドルトに問う。
「ふ、二人は随分仲良くやっているようですね……?」
「えぇまぁ。ケイトはなんて言うか、取っつきやすい子ですよ。歳も近いし、話しやすいです」
「うんうん、ドルトくんは竜トーク出来るし、とっても絡みやすいんでー。昨日も飲みに行ったら盛り上がっちゃって、つい朝まで一緒だったんですよーあははー」
「あ、朝まで……?」
その言葉を聞いてミレーナはフラリと倒れた。
ドルトは慌てて抱き起す。
「大丈夫ですか!? ミレーナ王女!?」
「うぅ……私の事はミレーナと……ミレーナとぉぉ……」
「ミレーナ王女? ミレーナ王女ーっ!?」
ミレーナの気を失う前の一言は、ドルトには届く事はなかった。
その後、駆けつけたメイド隊により運ばれたミレーナはただの貧血と判断されたと、ドルトは後に聞くことになる。
「……私の何だか慌ただしいお姫様だな」
「いやぁ、いつもはしっかりした人なのだけれどねぇ」
「調子悪いのかね?」
「かもねぇ」
鈍感な二人がミレーナが気を失った理由に気づくはずもなかった。
「ふぁ……まぁいいや。もう寝る眠い」
「おー、おつかれー……って部屋はあるん? ないなら今日は私のベッド使ってもいいけどー?」
「いや流石にそれは……」
「ドルト様ですね」
「うおあっ!?」
突然出てきたメイドに、二人は驚き飛び退く。
全く気配を感じさせず、メイドは静かに口を開く。
「失礼。私はドルト様の世話を命じられましたメイドです。お部屋の準備は出来ておりますので、こちらへ」
「お、おう……じゃあケイト。あとよろしく」
「うんー。明日の朝までゆっくりお休みー」
ドルトはケイトに別れを告げ、メイドについていく。
長い廊下を歩く間、二人は無言であった。
「えーと? あんたが俺の世話をしてくれるのか? 何だか悪いな。そこまでしてもらって」
「アルトレオには来たばかりで、まだ不自由が多いでしょうとの事です。何か用があればなんなりと」
「まぁ特にはないと思うけど……ちなみになんて呼べばいい?」
「メイドと」
「それじゃあ他の人と区別がつかないじゃないか」
「ではメイドAとでも」
「……まぁいいや」
なんだか嫌われているようだと思い、ドルトはそれ以上何も聞かなかった。
そして城の二階、やたら豪勢な部屋へと通される。
「こちらがドルト様の部屋です」
「おいおい、一介の竜師にちょっと豪華すぎないか? 稼ぎから半分持っていくとかじゃないだろうな」
「使用料は特に必要ありません。空き部屋がありましたので、そこを改修しました。遠慮なくご使用ください」
「そう言うならありがたく使わせてもらうけど」
「食事は朝昼晩と鐘の鳴った時、他に何か用事があれば、こちらの呼び鈴を鳴らせばすぐに参ります。ただし夜伽は禁止されていますので、それ以外で」
「しねーよ!」
いきなりの爆弾発言に、ドルトは思わず声を上げる。
では、とメイドAは扉を閉めて出て行った。
ドルトは顔だけ洗うと、ベッドへと身体を沈ませるのだった。
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