第11話おっさん、同年代と語り明かす

「さてさて、取り敢えずどうするかね? ドルトくん。今日は私の仕事を見て回る?」

「そうだな。何かあれば手伝うよ」

「おっけーそれじゃあまずは餌やりいってみよー。ドルトくんバケツ持って持って」

「はいよ」


 バケツを投げ渡されたドルトは、それを手に持ちケイトについていく。


「ちなみに餌は何を?」

「乾燥肉、乾草、豆、キャベツニンジンかぼちゃとか。機嫌を取る時は竜の実とか、かな?」

「おー、結構いいもの食べさせてんだ?」

「ミレーナ様が竜をお好きだからねー。結構資金はもらえています。えぇ」

「なるほどなぁ。うちはあまり金貰ってないから殆ど乾草。たまに肉屋で貰ったくず肉をやってるくらいだな。味を覚えさせるために竜の実は食わすけど」

「えー!? そんなんで大きくなるのー!?」

「なるなる。野生の竜とかは草食寄りの雑食だし、それ以外は大抵虫や小動物が主食だからな。栄養価とかそんなに気にしなくていいよ。むしろ少々偏食させた方が楽に育てられる」

「わーきびしー」

「効率化と言って欲しいところだ。まぁそっちのやり方に従うさ」

「じゃあそうしてもらいましょうかねー」


 連れていかれた先は食糧庫。

 中には野菜や果物、乾燥肉が山と積まれていた。


「じゃーバケツの中に餌を一杯入れてね。描かれてる通りにね」

「なるほど、了解」


 バケツには人参やらキャベツやらの絵が描かれており、ドルトはその通りに餌を入れた。

 乾草は台車に山と積まれており、それをバケツに入れて運ぶ。

 運んだ先は竜舎の奥、そこには陸竜がずらりと並んでいた。


「グルルルオ!」

「ギゴガガガ!」


 歯ぎしりと竜の鳴き声が鳴り響く。

 餌を欲しがる声に、ケイトは答える。


「おーい、餌だよー」


 ぎゃうぎゃうと騒ぐ竜にケイトはてきぱきと餌を用意していく。

 まずは乾草を一束。その上に野菜と干し肉を幾つか吊るす。


「おんなじ要領でよろしくー」

「あいよ。じゃあ俺は乾草をやるぜ」


 台車を押しながらばっさばっさと竜の前に乾草を積んでいくドルト。

 ケイトは野菜と干し肉を吊り下げていった。

 それが半分ほど終わった時である。


「ん?」


 ふと、ケイトはドルトがやる乾草の量に、かなりの偏りがあるのに気づいた。


(んードルトくんてば、ちょっと適当な性格なんだなー……注意した方がいいかな?)


 そう思い声をかけようとしたケイトは気づく。

 偏りがあるのは新しい方で、最初の方に入れた乾草は全て均等なのである。

 よくよく観察してみると、各竜ごとの食べる速度に合わせた量が与えられているではないか。


「ちょっとドルトくん、なんで竜に与える乾草の量が違うの?」


 ケイトはドルトに声をかけたが、その理由は先刻とは違う意味で、であった。


「あぁ、よく食べそうな竜には大目に上げているんだ。まずいか?」

「いや、まずくはないよ。なんでわかったのかなーってこと」

「んー……竜の目を見れば分かると思うが。欲しがってるかどうか」


 逆に、不思議そうなドルトだが、ケイトには竜の感情を細かく把握するのは無理である。

 それに区別もあまりついていなかった。

 爪の欠け具合や皮膚の色、性格で何とか区分けしているレベルである。

 竜舎の竜、50頭中5体ほどは見分けが怪しい。

 それを一瞬、見ただけで、その胃袋具合まで……


(どんだけ竜ラブなのよ……!)


 ケイトは自身の顔がにやけるのを止められなかった。

 ケイト自身、相当な竜マニアである。

 でなければ続かない仕事なのだ。竜師とは。

 しかしケイトほどに竜トークが出来る相手はあまりおらず、話し相手がいなかったのである。

 ミレーナから話を聞いてはいたが、自分以上に竜を愛している者がいるとは到底思えず半信半疑だったが……ドルトの竜に関する知識は期待以上だった。

 そしてすぐにドルトと色んなあれこれを話したいと、ウズウズし始めた。


「ねっねっドルトくん! この中の竜さ、もしかして全部区別ついてたりする?」

「そりゃまぁ……つくだろ。全然違うじゃん?」

「でもこの子とこの子とかさ、すごく似てると思うけど?」

「確かに大きさと色は似てるけど、逆にそれくらいしか似てなくね? 筋肉の付き方も、顔の形も、何もかも違う気がするが……」

「いやー全然わかりませんなぁ」


 首を傾げながらも微笑むケイトを見て、ドルトは少し不気味に思う。


「何でうれしそうなんだろう……」

「えへへーなんででしょうねーそれより今日さ、仕事終わったら一杯どうよー?」

「いいねぇ。行こう」

「いい店知ってるんよードルトくんのオゴリで♪」

「そこは先輩が奢っとけよな……」


 その後も二人は竜の世話をした。

 そのたびにケイトはドルトの超人的超感覚、知識量、観察眼に驚かされていた。

 仕事が終わった後、飲み屋でもケイトとドルトは盛り上がり、その日は朝まで語り明かしたのである。


 ――――朝日が昇り、ふらつきながらも二人は竜舎へと戻る。


「……ちと、飲みすぎたな……」

「だねー……でも楽しかったよー」

「俺も。あんた結構話せるな」

「いやいやドルトくんこそ」


 小屋へと戻ると、ケイトはベッドにダイブした。


「ごみん、ちょっと寝かして……昼からは私が出るからさ」

「あいよ。任せときな」

「よろ……しく……がくっ」


 ケイトはそう言い残すと、すやすやと寝息を立て始めた。

 ドルトとて眠いが、一応女性であるケイトに起きていろとはとても言えない。


「さーて、やるとするかぁ……ふぁぁ」


 太陽が燦々と降り注ぎ、眠い頭を無理やり覚まそうとしているかのようだ。

 大あくびしながら、ドルトは竜の世話を始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る