第十九章 信じる友のために戦う!
秋生がパソコンの中に入って、今日で三日が経った。
まだ、なんの動きもない。ナッティーは相変わらずモンスターに噛み付かれた状態でフリーズしていた。
秋生からは、なんの連絡もこなかった。もしかしたら……秋生も敵に捕まってしまったのかもしれない。だんだん不安になってきた――。
フリーズしたパソコンの画面を見ていると、僕らをこんな目に合わせた、あの『見えない敵』が心底憎らしくて、悔しかった。
「チクショウー!」
思わず、液晶画面を叩いてしまった。が、その時だ! 静止していた画面がコマ送りのように少しづつ動き始めた。
「おおっー! 動いた、やっと動いた」
序々に動きがなめらかになってきた。死んだように動かなかった僕のパソコンがようやく息を吹きかえしたのだ。
同時にパソコンの中から声が聴こえてきた。
「ツバサ、やっとパソコンが動いた。パソコンにかけた結界は破ったけど、それでも動かなかったんだ。――今、ツバサの怒りの波動がパソコンに流れて、やっと動き出したよ」
「秋生、ヤッター! これでパソコンの中に僕も入れる」
「ツバサ、今度は僕がこちらへ誘導するよ」
そういうと秋生は画面に二次元の掌をニョキと突き出した。もう分かっているさ、僕はその掌に自分の掌を合わせた。
その瞬間、ふわりと僕の霊魂が抜けてパソコンの画面の中へ吸い込まれていった。
――僕は、再び二次元の世界へ。
僕はこないだと同じの戦士のアバターになっていた。秋生は元々魔術師だったが、今回は僧侶を選んだようだ。西遊記の三蔵法師のような衣装を身に付けている。
『モンスターランド』では、四種類のキャラから選べる。盗賊・魔術師・僧侶・戦士などがある。
盗賊は敵のアイテムを盗んだり、時々レアな技を使って一発逆転のチャンスがある。魔術師は敵の技を封じたり、罠を仕掛けたりして敵を倒す。僧侶は主に回復技や防御が使える。hpが下がって死にそうになったら、僧侶の回復技でまた復活できる。
戦士の僕は、派手な大立ち回りで敵と戦う役だ。秋生から連絡を待っている間、僕はリビングのパソコンで『モンスターランド』と、よく似た対戦ゲームをやって戦いに備えて特訓をしていたのだ。
今度は前みたいに、モンスターにビビって遅れを取ったりはしない。
「秋生、ナッティーの様子はどうだ?」
「パソコン画面のフリーズは解除したが、モンスターはまだフリーズさせてある。今、ヘタに動かしてナッティーを呑み込んでしまったら、取り返しがつかなくなる」
「そうだな。モンスターの口からナッティーを吐き出させないと……タイミングが難しいな」
「僕がモンスターのフリーズを解除したら、ツバサは速効で攻撃技を入れるんだ」
「おう! 任せろ、今度は負けないぞぉー」
「ふたりで戦って、ナッティーを救おう!」
「秋生! よっしゃあ、いくぞぉー!」
僕は戦闘準備に入った、まるで剣道の試合に臨む気構えだった。
「ツバサ、ちょっと待て!」
「なんだぁ?」
「動くな!」
いきなり秋生は両手をあわせて八指まで掌中に入れ、残る二指をつき合わせて、九字結印で呪文を唱えた。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」
すると、秋生の背中から青く輝くオーラが発散されて僕の身体を包み込んだ。何ともいえない清涼感が身体中を駆け廻った。
「よし!」
秋生の回復技は終了――。
「……なんか、身体が急に軽くなったようだ」
「ツバサ、レベルを見てみろよ」
驚いた! レベルが一気に300になっている。たった、レベル23しかなかった僕なのに……。
「秋生、すごくレベル上がったぁー! これなら絶対に負けないぞ」
「回復とレベル上げなら、僕に任せておけよ」
あんなに人と争うことが嫌いだった秋生なのに、今は闘志満々だ。
「――秋生、おまえ変わったなぁー」
「そうか? 争い事が嫌いな性分だったのに……」
「おまえ強くなった気がする!」
僕のいった言葉に、秋生はニンマリと笑った。
「――僕は、死んでから自分自身について考えてみたんだ。それで分かったことがある。今まで僕は誰とも面と向かってケンカをしたことがなかった。争い事を起こして面倒になるくらいなら自分の方から謝っておこうと、いつもそう考えてきたんだ。でもね、それって、ただの卑怯者の論理なんだよ。――良い子の振りをして、実はみんなに無関心だった」
「そうかな? 秋生は優しいからだと思うけど……」
「違うよ。自分の保身しか考えてなかった――。3チャンねるで叩かれた時、クラスのみんなに冷たい眼でみられて、誰も僕のことを信じてくれなかった。……と、いうのも今まで僕が誰かを守るために戦ったことがないので、僕という人間を誰も信じていなかったってことさ」
「秋生のことをよく知らなかったんだよ」
「いつも感情を隠すことで、本音の自分を見せなかった。クラスメイトたちとの軋轢を恐れて、周囲から距離を置く傍観者的立場だった。だから誰にも信用されなくて当然だよ。――こうなった原因の何パーセントは、僕の日和見主義にあったのだと分かったんだ」
「僕は秋生のことは信じている!」
「ありがとう」
「おまえが死んでも僕らの友情は変わらない」
「ツバサの友情だけが僕の心の支えだった。今さら気付いても、もう手遅れだけど……」
やはり秋生は自分の命を捨てたことを後悔しているのだろう? 自嘲するように、フッとニヒルに笑ってみせた。
「僕のことを無条件で信じてくれるのはナッティーとツバサおまえだけだった。――だから、このふたりを守るために僕も全力で戦うんだ!」
「そうだ! 信じる友のために戦おう」
「よし! ツバサいくぞー」
「おうっ!!」
その掛け声と共に、僕らの戦いの火ぶたが切って落とされた。
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