第九章 見えない敵
学校から帰ったら、自分の部屋にあるノートパソコンを開いた。
受験に必要だからと去年、親から自分専用のノートパソコンを買ってもらった。リビングにあるデスクトップは家族と共有なので、妹や弟が検索やゲームなどいろんな用途で使うので、自分に必要な『お気に入り』なども登録できないし、家族がいる部屋では長時間パソコンをいじっているわけにもいかない。すぐに妹や弟が「お兄ちゃん、何やってるの?」と後ろから覗き込むからだ。
自分専用のノートパソコンを買ってもらってからは、パスワードをかけて他人に覗かれないように設定してある。
まず部屋に鍵をかけてから、僕はパソコンの電源を入れて、立ち上がったらパスワードを入力し、メールなどをチェックする。その後『のべるリスト』を開き『村井秋生』という
つい、一時間ほど前に連載の続きを更新していた。
やったー! これでIPアドレスを見れたはずだ。IPアドレスさえ分かれば、それを辿ってナッティーがそいつのパソコンの中に入って、どんな奴か相手の顔を確認できる。
――もう少しで秋生を嵌めた犯人を見つけられるんだ。
いつもナッティーがいるゲーム&アバターのSNSのウインドウを開いて、彼女に呼びかけた。
「ナッティー、ナッティー」
いつもなら、すぐに現れるはずのナッティーが……。五分経っても、十分経っても姿を現わさない。――いったい、どうしたんだろう?
小一時間経った頃に、
「ツ……バサ……くん……」
か細い声がパソコンの中から聴こえた。同時に、薄くぼやけたナッティーのアバターも表示された。
「ナッティーどうしたんだい?」
「……しばらく意識を失っていた」
「大丈夫かい?」
「うん、なんとか……」
ナッティーのアバターは、少しずつ鮮明さ取り戻した。
「IPアドレスは確認できたの?」
「――それがダメだった。あの小説投稿サイトをずっと見張っていたの。そしたら偽者が秋生くんのファームで投稿したから、ナッティーは慌てて、そいつのIPアドレスを見てやろうとパソコンの中を覗き込んだら、その瞬間に……意識を失ったぁー」
「ええっ!?」
「そいつのパソコンには強い
ナッティーが泣きそうな声で叫んだ。
「幽霊を一撃する瘴気っていったい……? ただのパソコンじゃなさそうだ」
「そうなのよ。――あのパソコンにはIPアドレスも付いていなかった気がする」
「ええっ? そんなバカなことが……!?」
IPアドレスが付いてないパソコンなんて常識的に考えて在りえない。
「いきなりドス黒い瘴気に当てられて、コトンと意識を失った時はもう死んだかと思ったわ」
「――ナッティーはもう死んでいるから、それ以上は死ねない」
「そりゃあ、そうだけど……」
いつものジョークだが、とても笑える気分ではなかった。
パソコンに瘴気が漂っているって……いったい敵は何者なんだ? 信じられないようなナッティーの言葉に、僕は自身『見えない敵』に対する恐怖が現実味を帯びてきた――。
※ 瘴気(しょうき)とは、古代から、ある種の悪い病気を
引き起こすと考えられた「悪い空気」。
もしくは、熱病を起こさせるという山川の毒気。
気体または霧のようなエアロゾル状物質と考えられた。
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