第八章 謎の侵入者

 秋生が亡くなって、二ヶ月が過ぎようとしていた。

 もう世間では秋生のことは忘れ去られようとして、知り合いの間でも話題に上ることも少なくなってきた。僕は毎日、秋生のホームページの作品を読んだり、3ちゃんネルの掲示板を見張ったり、なにか動きがないかと目を光らせていた。

 ナッティーとは時々、秋生が好きだったゲームをして遊んだり、アバターのファッションショーに付き合ったりしていた。あれから秋生のマイページに悪口のミニメールがきてないかと訊ねたら、秋生が亡くなってからはエロサイトの高額請求も悪口のミニメールもきていないとナッティーは答えた。

 ――ということは、犯人は秋生が死んだことを知っている? 

 もう必要がないので、それらを止めているのだろうか。もしかしたら、リアルで知っている人たちの中に犯人がいるのかもしれない。そんな疑念が胸に湧く……。


「ところで最近なにか動きがあった?」

「――うん、それがおかしなことがあるのよ」

「なあに?」

「あのね、小説投稿サイトで『村井秋生むらい あきお』を名乗る人物が作品を発表しているのよ」

「ええっ? 死んだ秋生を名乗っている奴がいるのか?」

「そうよ。ネットの世界だから、誰も秋生くんが死んだこと知らないでしょう? だから秋生くんのファンたちの間で、その小説が話題になってて、凄い人気なのよ」

「いったい誰なんだ! 秋生を装って、人気まで横取りしている卑劣な奴は……?」

 怒りで思わずパソコンのデスクを叩いた。

「その小説投稿サイトを見張っていて、そいつが投稿した瞬間を捕まえて、パソコンのIPアドレスを調べてみるわ」

「おうっ、IPアドレスなら個人が特定できる!」

「そうよ、それで犯人の尻尾を掴んでやるわ」

「ナッティー頼んだよ」

「よっしゃっ! 任せておいて、伊達にネットの世界で生きてないわよ」

「だから、もう死んでるって……」

「また言ったなあー、このイジワル!」

 あははっ。これはナッティーと僕のいつものジョークなんだ。



 ※IPアドレスとは、インターネット網の中のコンピュータを

 機械同士で認識できように1台1台に割り当てられた住所の

 ようなもので、所有者名が判ります。

 サーバー名の検索など、IPドメイン関係の検索の決定版です。

 2chでも、これがあるのでやたらな書き込みはできません。

 個人名が特定されて「誹謗中傷」「名誉棄損」などで告訴されて

 います。




 さっそく、僕はナッティーに教えられた小説投稿サイトにいってみた。

『のべるリスト』は、オンライン小説を主としたテキスト作品の公開、閲覧が楽しめる小説投稿型SNSのコミュニケーションサービスだった。

 投稿された小説にブックマークしたり、お気に入り作家を登録したり、コメントを残したり、また、そのサイトでは小説や作家の人気ランキングまである。


 確かに『村井秋生』というペンネームで小説が掲載されていた。しかも、作品名も作家も堂々の第一位だった。すごい閲覧数で人気はうなぎ昇りだった。――驚いたことに、その作品は秋生のホームページにあった長編小説の一本で、いったい誰が、いつの間に、持ち出したのだろうか? 僕は用心のために秋生から教えられたパスワードを一度変更しているのだ。……なのに、ホームページの中が誰かに覗かれていた?

 こうも易々とパス抜きができるなんて……見えない敵の不気味な影がシタシタと迫ってくるようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る