第9話 オーデ騎士団

『突撃ーーー!』


 5、6人の騎士がゴブリンの群れに雪崩れなだれこむ!


 パリーン!ガシャパリン!

 手に持ったランタンを投げつけ、

 前方の暗闇を照らし出す!


 ぼんやりだったボスゴブリンが暗闇からその全容を現した!


「でかい…」

 騎士の誰かが呟いた。


 ボスゴブリンは取り巻きに比べて、

 約3倍はあろうかという体格。


 これほどの大きさのゴブリンは見たことがない

(騎士団曰く)


 ボスゴブリン周辺が照らされたことでルプスは新たな発見をしていた!


「ありゃ…奥への通路…」

(拉致した子供がいるに違いねぇ!)


 ギン!ドゴ!ガン!ギィン!

 騎士達とゴブリンの群れが激突している!


 ルプスは戦闘の隙を突いてエルス達の元へ戻った。


「ちび助、奥の通路が見えるか?!」

 ルプスは相変わらず怯えるアイズに問いかけた。


「ち…?!…ぅん、ボスの脇から通じる道があるけど…」

 不愉快ながらも千里眼でしっかりと見て返事をするアイズ。


「拐われた子供達が奥にいる可能性が高い!」

 ルプスは同時に

 "やるか、やらないか?"

 の質問も含めた顔付きでエルスを見た。


「わかった」

 エルスは状況を察して一言だけ、低い声で応える。


 しかし、ボスとの戦闘は避けられない。

 タイミングを見計らおうとルプスはチラっと騎士団の方を見た。


 その時、指示を出す隊長とおぼしき大男と目があった。


「ルプス…やはりお前か」

 大男はさっきまでの張り上げた声とは違い、

 冷たさも混じった声で口を開いた。


「ガイア…」

 ルプスが呟いた。


 どうやら知り合いのようだが、

 エルスもアイズも聞きなれない名前に、

 わざわざ反応している場合ではなかった。


「おい!騎士団!ゴブリンどもを惹き付けとけ!ボスは俺がやる!」

 ルプスがガイアと呼んだ大男に向かって叫んだ!


「それは出来ぬ相談だ。

 加勢したいというなら、

 止めはせん。」

 ガイアは冷静にルプスの挑発を返す。


 だが、この答えをルプスは待っていた。


「じゃ、勝手にやらせてもらうぜ!」

 ルプスはエルス達にアイコンタクトを送り、先陣を切って走り出した!!


 エルスもこれに続き、

 困った顔をしながらもアイズも二人を追った。


 "一匹狼"

 シャキーン!

 青白い爪がルプスの拳から伸びる!

 発動すると光る性質から、

 今までは出していなかったが、

 ランタンの灯りがある今は、

 思う存分に出すことができる!


 と、その直後だった!!


 ドゴォン!!


 前線の戦場から、

 洞窟全体を震わせる衝撃が響き渡った!!


 ボスゴブリンの強烈な一撃が前線の騎士達に向かって放たれたのだ!


 数名の騎士や巻き添えを食った取り巻きゴブリンが吹き飛ぶ!


「なっ?!」

 ガイアが驚愕の表情を浮かべた。


 たったの一撃で騎士団員が3人、戦闘不能にさせられてしまった!


 武器は特に無い。

 手甲のようなものを拳に付けている。

 ボスゴブリンは格闘型のようだ。


「おいおい…

 あれが"ゴブリン"の腕力かょ…」

 顔がひきつるルプス。

 魔物の凶暴化が進んでいるとはいえ、

 低級モンスターのゴブリンが、

 ここまで強力になるものなのか?!


 ボスの一撃と、

 騎士達の奮闘によって、

 取り巻きはほぼ壊滅状態となっていた。


「退け!あとは私が出る!」

 ガイアが騎士剣を縦に構え直し、動ける部下を退けさせた!


 ガイア、ルプス、エルスの前にボスゴブリンが立ち塞がる!

(アイズは一歩引いている)


『ニンゲン…』

 再びボスゴブリンが口を開いた。


 次の瞬間、目を血走らせ巨大な拳が先頭のルプス目掛けて振り下ろされる!


 ドゴォ!

 ルプスはこれを回避するが、

 地面を叩いた衝撃でまたも洞窟内が揺れる!


「当たるかよ!」

 飛び上がった勢いでルプスがボスの顔面を狙う!

『"狼牙ろうが"!!』

 青白い爪が狼の牙となってボスに襲いかかる!

 ルプスの大技が炸裂した!


 ガツ!

 鈍い音、

 ルプスの渾身の大技はボスのオデコで跳ね返された!

かてぇ!」


 ルプスがボスの注意を引いてる間にエルスが仕掛ける!


「はぁぁっ!」

 ズバン!

 走り込んで足を狙って斬りつけた!

 だが、浅い!

 多少の血飛沫ちしぶきが上がるが、ボスは気にも止めていない。


 ルプスの大技もエルスの剣撃も、

 巨大化したゴブリンには全く効いていない!


『"地走じばしり"!!』

 ズドン!

 ガイアの剣技がボスの水落みぞおちにヒットした!


『ガッ!』

 痛みで声をあげるボスゴブリン!

 効いている?!


 ルプスはボスの頭を蹴って飛び退き、

 再び3人はボスの前に並んだ。


「どうやら急所は変わらんようだな」

 と、ガイア。

 しかし、その表情には余裕の色は無い。


「アレ使ってあの程度か?!腕が鈍ったかガイア」

 ルプスは皮肉混じりにガイアに突っかかる。


「お互い様だ、狼牙でかすり傷も作れて無いではないか」

 ガイアが言い返す。


 この2人、面識がありお互いの技も知っているようだ。

 だからこそ、お互いの大技がさほど効いていない事で、

 このボスゴブリンの強さを痛感しているようだ。


「アイズ、急所を探せるか?」

「やってみる…!」

 エルスとアイズ、

 先の暗闇の中を千里眼で見抜いた戦法をまたやろうとしていた。


「ほぅ、を使う少女か…面白い、

 時間は稼いでおく!」

 ガイアは状況を理解して、ボスの注意を引くつもりのようだ。


「早くしろ、ちび助!仕留めちまうぞ!」

 ルプスもガイアに遅れまいと飛び出した!


『"どく"!』

 アイズがアメジストの左目を見開いた!


 心臓はほぼ人間と変わらない、

 しかし、そこは分厚そうな鎧で守られている。

 首筋、脇の下、太ももの内側…

 確かに狙えそうな場所はいくつかある。

 しかし、前の方角などと違って、どう伝えたらいいのか、

 アイズが戸惑っていると、

 エルスが何か思いつき、

 アイズの肩に手を置いた。


「わかった」

 エルスの目付きが変わった。


「え?!」

(まだ何も言ってないけど…)

 何が解ったと言うのか?

 エルスは足止めで戦うルプス、ガイアの後からボス目指して走り出した!!


 ボスの巨大な拳を騎士剣で受け止めているガイアの横を、低い姿勢で走り抜けるエルス!


 シャキン!

 居合い抜きでボスの内股をくぐり抜けながら斬りつけた!

 静脈を斬られ、大量の血飛沫が上がる!


『ッゴァ!!』

 悲痛なこえをあげるボスゴブリン!


 さらにエルスは止まることなく後ろに回り込むと、次は鎧の隙間を抜いて脇の下に剣を突き立てた!


 ドシュ!

 さらに大量の流血!


 そのまま背後から首元へ駆け昇ると、

 素早く体を捻り、回転を加えてボスのうなじを凪ぎ払った!!


 ドバァ!!

 これまでにない大量の血飛沫とともにボスゴブリンが前のめりに倒れた!


 まさに寸劇だった。


 それはアイズが千里眼が見て、思い描いた通りの戦法だった。


(どうして伝わったの??)

 ボスを倒した喜びよりも、

 アイズには疑問ばかりが頭を駆け巡った。


 ボスの周りを飛び回って翻弄ほんろうしていたルプスは、ペッ!とタンをボスゴブリンの亡骸に吐き捨てた。


 攻撃を受け止めていたガイアは疲れきったのか、

 腰を落として休んでいたが、

「ルプス…あの女剣士は?」

 と本人には聞こえないように囁きかけた。


「知らねぇ、ただ、とんでもねぇ女だ」

 ルプスはため息混じりに答えた。


 アイズ達はクエストをクリアした!


 奥の通路の先からは、

 拐われていた子供が無事救出された。


 後始末は騎士団が引き受けるとのことで、3人は洞窟を後にした…



 続く…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DEADLOCK~終焉のエルス~ Habicht @snowy0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ