第8話 ボスゴブリン

「ニンゲン…」


 奥のゴブリンが確かに"人間の言葉"を喋った!


「喋った?!」

 驚きの表情を浮かべるアイズ。


 エルスは相変わらず、

 どこの何が変なのかが解らなかったが、

 アイズがこれほどに驚いているのだから、

 そう言うことなんだろう、

 と思っていた。


「これも"終焉"の影響だってのか…!」

 ルプスが呟いた…


(終焉?)

 エルスは聞き覚えがあるような、

 不思議なその単語が気になったが、

 そんな事で質問している場面ではなかった。


 親玉らしきゴブリンが合図を出すと、

 一斉に取り巻きが3人に向かって仕掛けてきた!!


『ギギィー!』

 取り巻きは"話せない"ようだ。


 今までのゴブリンとは違い、

 ちゃんとした剣や槍を使っている!

 親玉の周りは精鋭揃いって事なのか?!


 !!

 最初のゴブリンと一撃を交わしたルプスは、

 そのまま横っ飛びをして、

 暗闇に消えた!


「ちょ…!ルプス?!」

 置いてけぼりを食らったアイズは慌てた!


「そんくらいはエルスで凌げ!俺は親玉をやる!」

 暗闇に消えながらルプスの捨て台詞。


「任せておけ」

 チャキ!

 と剣を構え直し、エルスが応える!


 アイズは急いで"千里眼せんりがん"を発動した!


 広間は薄暗いが、

 千里眼さえ発動すれば、

 アイズには魔物の動きが手に取るように解る!


 猫目(夜目)が利くのではなく、

 熱源やオーラを感じ取れるようになるからだ。


「エルス!

 前方に剣1匹、

 すぐ後ろに槍2匹、

 後からナイフが3匹!」

 千里眼で見えた情報を素早くエルスに伝えるアイズ!


「わかった」

 エルスは頷き、

 一歩踏み出すと同時に、

 右袈裟斬りを繰り出す!


 ズバ!

 暗闇に黒い血飛沫があがる!

『ギャン!』

 ゴブリンの悲鳴があがった!


 闇雲に見えたエルスの一振りは、

 的確に先頭のゴブリンを捉えていた!


 さらに踏み出し、

 右に一閃!

 左に踏み込んで突き!


 スバン!ドシュ!

 寸劇だった。


 あっという間に前方の3匹を仕留めるエルス。


 ここまで数回でしかなかった戦闘経験で、

 エルスは確実に成長していた!

 記憶が無いのだから、

 感を取り戻しつつあった、

 と言うのが正解なのかもしれない。


 なによりこの暗闇の中、

 アイズの情報だけでここまでやってのけるセンスが、

 常人をはるかに凌駕していた。


(単なる剣士じゃねぇ…だが、

 なんなんだありゃ?!)

 親玉目指して回り込むルプスは、

 エルスの圧倒的な戦闘センスを目の当たりにして、

 ゾッとしていた…

(2度と怒らせないようにしよう…)


『ギギィー!』

『ギ!』

『ギ!』

 後方のナイフゴブリン3匹は

 戦局で動きを変えたらしい。

 声が散り散りに聞こえてくる!


「バラけた?!」

 どれを優先的に伝えていいか、

 解らなくなるアイズ。


「アイズ!距離と方角!」

 エルスが叫んだ!


「はい!

 左5メートル西北西、

 中6メートル北西、

 右4メートル北東!」

(そんなまさかダンジョン内で方角が解るはずない!)

 そう思いながらも反射的に情報を伝えるアイズ。


 一瞬の沈黙、

「わかった」

 エルス特有の、

 戦闘状態の時に聞ける低い声で、

 返事が帰って来た。


 姿勢を低くしたエルスが一瞬にしてアイズの視界から消えた!

 ※裸眼で見えなくなっただけで、前方では追えてる。


 ドシュ!


 目が慣れているはずのゴブリンが構えるよりも、

 さらに速くエルスの突きが、

 一番遠い真ん中のゴブリンを捉えていた!


 エルスの剣が発する白刃はくじんの光だけがチラチラと見える!

 だがその白刃はくじんの動きは線を引き、

 常人では到底追い付かない速さで左右に輝く!


 圧倒的に有利だとゴブリン達が思い込んでいた中で、

 エルスはそれをことごとくくつがえし、

 あっという間に取り巻きを殲滅させた。


 一方、

 親玉に先回りしていたルプスは、

 取り巻きを瞬殺していくエルスに見とれていた…


 だが次の瞬間、ルプスは我が目を疑った!


 ボスゴブリンの取り巻きは殲滅させたはず?!


 エルスを脇見している間に、

 なんとボスゴブリンの周りには、

 さらに多くの取り巻きがいつの間にか召喚されていた!


 その数は20…いや、30は居るかもしれない!


 暗闇のさらに影に隠れていたルプスは、ボスゴブリンの近くとはいえ、向こうにも発見されていないが、圧倒的な数の差に対して、足がすくんで動けなくなってしまった!


『ギィギギギギギィギギギ!』

 無数のゴブリンが嘶く洞窟内、

 エルスは少し後退してアイズに合流していた。


「なにこれ…」

 絶句してアイズはそれ以上声が出ない。


『そこまでだゴブリンども!神妙にしろ!』

 突然の大声が洞窟内に響き渡る!

 空洞入り口にはランプで照らされた数人の人影が見える。


 真っ暗な洞窟内でポツンと明るいためか、遠目でもはっきりと姿を確認できた。


「騎士団か…」

 ルプスは誰も聞き取れないほどの音量で呟いた…


 一転、ゴブリン達の注意は入り口に集中した。


 チャンスとばかりに、エルスはアイズの腕をつかみ、さらに後退する。

 そんな中でもルプスはまだ動けないでいた。


『冒険者は下がっていなさい、ここからは我ら"オーデ騎士団"がお相手する!』

 声高らかに宣戦布告したのは、

 いかにも高貴な騎士といった出で立ちいでたちの大男。


『突撃ーーー!』

『おぉーー!!』

 大男の掛け声で騎士達が一斉にゴブリンの群れに雪崩れ込んだ!



 続く…。

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