第7話 ゴブリン達の足取り

 翌朝、中央広場で待ち合わせた3人。


 ルプスはやはり意識が高い、アイズ・エルスよりも先に来ていた。


「おせぇーよ、魔物は明るいうちに叩く!早めの行動は定石だろ」

 と、朝から第一声がこれだ。


「そういうものなのか?」

 と、エルスがアイズに問いかける。

「うん。魔物は暗闇で強くなる性質を持ってる事が多いから、明るい時にってのは本当だよ」

 アイズはルプスに聞こえるとまた面倒だと感じたのか、コソコソとエルスに説明した。


 もちろん聞こえていて、流し目でギロっと2人を睨んでいたが、エルスが記憶喪失で、自分達の「当たり前」がそうではない事を理解しているのか、それ以上は言ってこなかった。


「とりあえず行くぞ!ちびリーダー」

「ちびは余計ですー!」

 アイズは頬を膨らませて、口を尖らせた。


 ルプスが先をズカズカと歩き、

 その後をアイズがテテテ…と小走りで着いていく、

 そしてエルスは後ろから、

 足音が少な目の、ちょっと独特な歩き方でスタスタと続いた。


「急ぐ理由はもう1つある。

 寝る前に寄った酒場で、

 このクエストに騎士団が乗り出したって話だ」

 と、聞いてもいないのにルプスが話始めた。

 意外とお喋り好きなのかもしれない。


「事件になったから?」

 アイズが質問する。


「あぁ、奴等に持って行かれたくは無いな」

 渋い顔をするルプス。


「騎士団?」

 これはまたエルスの質問攻撃。


「オーデ国直属の戦士達だよ、

 事件解決は貢献度が上がるからね…」

 少し暗い顔をするアイズ。


「国から給料貰ってて、クエスト報酬まで持っていきやがる。

 ぜってぇ先にクリアしてやらぁ!」

 八重歯を剥き出しにして吐き出すルプス。

 よほど嫌な思いをさせられた過去があるのだろうか?


 ほどなくして3人は昨日の森に到着した。


「こっからは俺の"探索たんさく"スキルで匂いを追う。静かに着いてこい」

 ルプスは顔の前で指で"いん"を切ってスキルを発動させた。


 アイズは黙って頷くと、エルスにも合図を送るように振り返った。

 エルスもアイズに、黙って頷いて応えた。


 匂いを追うスキルとはまた、

 狼らしいスキルだなぁと、

 アイズは感心していた。

 今回は相手がまだ見えていないから千里眼は使えない。


 ザッザッザ…

 獣道すらない深い茂みを掻き分け、時には潰して、昼間の陽射しが入らない薄暗い森を進む一行。


 やがて、木々が切れて、少しだけ拓けた場所に出た。


 そこにはこけや蔓がびっしり張った、

 古い遺跡が姿を現した。


「ここは…?」

 口を開いたのはアイズ。


「古代遺跡だな、

 ゴブリンの奴ら、

 ここを根城に使ってやがったな」

 チッ…

 ルプスが2人だけに聞こえる程度のボリュームで呟き、舌打ちをした。


「作戦は?」

 ゴクン…

 アイズが生唾を飲みながら、

 ルプスに問いかけた。


「んなもん、ねぇよ」

 と、ルプスが爪先でトントンと地面を蹴った。


 組んだばかりのパーティーだし、

 チームプレーも無いよね、と納得したかのような顔のアイズ。


 エルスは黙って剣を抜き、

 姿勢を低くしていた。


「妙な連携が取れてた奴らだ、

 必ず親玉がいる。

 そいつを叩けばクリアだ」

 ルプスがまずは左手に、

 牙のように鋭い、

 青白い爪のスキルを発動した。


「アイズは私の後ろに」

 空いてる左手でそっとアイズを守るエルス。


 闘争本能剥き出しのルプス、

 それに続くエルス、

 そしてアイズ。


「GO!」

 ルプスが号令を出した!


 3人は一気に遺跡の入り口と思われる穴に向かって走り出した!


 入り口には2匹のゴブリン!

 見張りの門番か?!


 !!

 ザン!

 ルプスの爪と、

 エルスの剣により、

 声をあげる隙を与えず斬り倒されるゴブリン達。


(やっぱりこの2人、強い…)

 後ろから着いていくだけのアイズだったが、

 2人を頼もしく感じていた。


 勢いに乗って遺跡の中へと走り込む!

 中はさらに暗い。


 目を凝らしていなければ、

 敵襲に気付けないかもしれない。


 と、慎重になりかけたアイズを他所よそに、

 ルプスがどんどん奥へと突き進む!


『ギィーーーー!』

 ゴブリンの警戒した声が遺跡内部に響き渡った!


「もうバレたか!」

 チィ!

 ルプスは舌打ちが多い。


 

 声を出したゴブリンをこれも一撃で仕留めるルプス。


 昨日は割りと呆気なくエルスに負けたように見えたが、

 決して彼が弱いわけでは無かった。

 それを証明するかのようだった。


「囲まれたらちびちゃんがあぶねぇ、急ぐぞ!」

「ちびは余計だってば!」

 連続する戦闘に顔色が悪いアイズだったが、

 突っ込みの速さからして、

 まだ大丈夫なようだ、

 と、エルスは安心した。


 遺跡の中は狭い!

 背丈のあるルプスとエルスは歩きにくそうに進む。


 通路はほぼ一方通行、

 このまま進めば、

 おのずと親玉に会えそうだ。


 すると前方から3匹のゴブリン!

 既に戦闘体制になっている。

 やはり先ほどの声で、

 もうバレているようだ。


 牙牙牙ガガガ!!

 息つく間もなくルプスがゴブリン達を切り刻む!


 あまりの速さにゴブリンも理解できないまま、

 断末魔の声をあげることなく倒されていく。


 通路を走り抜けた先、

 ホールのように広がった部屋に

 5~6匹のゴブリンと、

 その奥に一回り大きなゴブリン(おそらく親玉)がいた!


「ギー!ギー!」

 取り巻きのゴブリンが奇声をあげる中、

 親玉ゴブリンがゆっくりと立ち上がった。

 背丈は周りのゴブリンより約3倍!

 長身のルプスやエルスよりも、

 さらに大きい!


『ニンゲン…』

 片言の濁った声がフロアに乱反射する。


「喋った?!」

 アイズが驚愕の表情をしている。


 ゴブリンは低脳で、

 言葉など話さない。

 もちろん、

 人間の言葉ならば尚更だ。



 続く…。

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