第6話 剣と狼牙

「なんだって聞いてやんよ!!」

 一匹狼が獣となってエルスに襲いかかる!


 一匹狼の装備は基本的に素手。

 そこにスキルで生み出した爪が、

 青白い光で形成されている。

 鋭く尖った爪は、無手であるためスピードも速い!

 ゆえにその切れ味は倍増され、

 圧倒的な殺傷力を生み出す!


 グワッ!

 大地を蹴って頭上から攻める一匹狼!

 右手の青白い爪が弧を描いて、

 エルスに振り下ろされた!


 アイズは迂闊にも、

 尾を引いた光を綺麗だと、

 一瞬だが見とれてしまった。


 キィーーン!

 エルスは剣で横凪ぎに爪を振り払う!

 だが!

 さらに左手が逆サイドから突き出された!


 バキ!

 エルスは一匹狼の左手を、

 瞬時にムーンサルトキックで弾く!

 一瞬の攻防!!


「俺様の初撃を初見で退けた奴は久しぶりだ!」

 興奮状態で高ぶり、笑っているようにも見える鋭い狼の眼光。


 一匹狼はさらに踏み出し、攻撃の手を緩めない!


 !!

 怒濤の連続攻撃れんぞくこうげきがエルスを襲う!


 しかし、これもエルスはスマートに受け流す!


(凄い二人とも…一匹狼の速さも、エルスの剣の扱いも…)

 アイズは置かれている状況を忘れて、

 二人の戦闘に見惚れてしまっていた。


「オラオラ!攻めて来ねぇのか!」

 圧倒的なスピードで攻め続けながら、一匹狼が煽る。


 戦闘経験の差によって、

 一方的な展開となっていた。


 エルスは、気が付いた時に剣を所持していたから使ってみた。

 というだけに過ぎない、いわば素人。

 かたや自分のスキルを使いこなす冒険者。


 しかし、勝負は一瞬にして着くことになる。


 防戦一方のエルスは、

 一匹狼の攻撃を受け続けている間に、

 "何か"を思い出す(思い付くに近いかもしれない)感覚が脳裏に走った。

 それが記憶だったのかは定かではないが、

 ピンと来たエルスは、一匹狼の動きを見切り、

 右手攻撃時に生じる一瞬の右脇の隙を見つけた!


 

 一匹狼の右手がエルスに伸びた時!

 ドゴ!

 動きを見切っていたエルスが、

 カウンターで左フックを脇腹に放った!

 ふいをつかれ一匹狼の動きが止まるかと思われたが、

 こいつ、この程度で倒れるような半端な冒険者ではなかった!

 即座に左手で反撃に転じてきた!

 しかし、一瞬でも隙を作った瞬間に勝負は決していた。


 一匹狼の左手より速く、

 エルスの剣は一匹狼の首元へ、

 刃を突き立てていた!


 一匹狼の汗が一滴、

 エルスの剣に滴り落ちる。


「くっ…!」

 首に剣を立てられ、完全に動きが止まった一匹狼。


「私の勝ちだ」

 低く冷たい声が対戦の終わりを告げた。


(エルス強い!あのスピードの中で一匹狼の動きを見切った?!)

 アイズは千里眼のおかげで、

 やっと追い付いて見れていた戦闘だった。

 それだけ二人の速さは尋常では無かった。


 エルスはゆっくり剣を引き、

 一匹狼もスキルを解いた…

「クソ…俺の負けだ!どうにでもしろ!」

 一匹狼はその場にあぐらをかいて座り込み、悪態をついた。


「エルス…」

(まさか殺したりしないよね?)

 アイズは少女をかかえながら、

 心配そうにエルスを見つめた…


 腰に剣を納め、

 軽く息を吐き、

 エルスが口を開けた。

「仲間になってくれないか?」


 一匹狼とアイズの目と口が、

 ポカンと開いたままになったのは言うまでもない。


「え、エルス?!」

 アイズは頭が混乱している


「はぁ?!」

 一匹狼も同じようだ。


「このクエスト、クリアさせてあげたい」

 言葉少なく理由を話すエルス。


 少し考え込んで、一匹狼が口を開いた。

「なんとなく察したが、アイズには受領出来なかったクエストだな?事件化してるしな…」

 と、チラっとアイズに目をやる一匹狼。

 言われて、切なそうに下を向くアイズ。


「戦えねぇくせに、事件に手を出そうってのが気に食わねぇ」

 一匹狼は良くも悪くも正直だ。


「戦闘は私がする」

 エルスの意見は一貫していた。


「一匹狼さん、私からもお願いします。この子を守りたいの…」

 アイズは目を潤ませていた。


「チッ!

 負けたからな。

 仕方ねぇ付き合ってやんよ!

 俺がいなきゃクエストクリアになんねぇだろ」

 渋々といった表情で一匹狼が応える。


「ありがとう、助かる」

 そう言ってエルスは、

 一匹狼に手を差し出す。


 フン!と鼻を鳴らしながら一匹狼は手をとって立ち上がると

「ルプスだ。通り名で呼ぶんじゃねぇ」


 "一匹狼 ルプスが仲間になった!"


 ひとまず少女を家へ送ろうと話し合い、

 街へと戻った一行…


「おねぇちゃんが、あの手紙読んでくれたの!ありがと!!」

 目が覚めてから、元気を取り戻し、別れ際には笑顔が見えていた。


 アイズはこの時、

(冒険者になって良かった)

 と、心から思った。


 ルプスは小さく

「ケッ…」

 と、甘いんだよ。

 とでも言いたげな顔で、

 遠くから見ていた。


 ちゃんとパーティーメンバーとして、

 勝手に遠くには行ってりしないだけ、

 ルプスは人間が出来ている。


 エルスは胸が暖まるのを感じていた。

(これが人助けというものか…)


 アイズは見えなくなるまで手を振っていた。


 そして3人はアイズの居候する酒場に集まった。


 ドカッ!

 と、勢いよく木製の椅子に座り込むルプス。

 THE・男!っという感じだ。


 向かいに並ぶようにアイズ、エルスが席についた。


「ここがおめぇらの根城ねじろか…ボロいな」

 一言目ひとことめから酷い、ルプス。


「ちょっと、私にはともかく、マスターは悪く言わないで」

 アイズも流石に黙ってはいない。


 しかし、カウンターのマスターは何を言われてもニコニコしていた。

 人生経験の差が違うのだろう。


「で?俺まで連れてきて、

 どうしよってんだ?」

 と、勝手に話題をすり替えるルプス。


「あ、えっと…

 パーティーなんだし、

 これからの作戦会議…かな?」

 ちょっと困ったようにエルスを見るアイズ。


「ルプス、君の情報を分けて欲しい」

 エルスが続けた。


「分け前の8割なら、いいぜ」

 肘をついて前のめりになったルプスが切り出した。


「8…?!」

 アイズが驚愕きょうがくの顔を浮かべた。

 いくらクエスト受注者だからと言って、

 それは持っていきすぎと言いたそうだった。


「かまわない。話してくれ」

 エルスが躊躇ちゅうちょなく応えた。


 アイズはエルスに対しても

「え?!」と目を点にしていたが、

 渋々了承した。


「魔物の正体はゴブリン族、

 低級だが群れると厄介だ。

 なにより、統率が取れすぎてるのが気になる。

 あれは上級のボスがいるに違いない。

 狙いは子供、目的は解らんが…」

 淡々と話すルプス。

 こういう時は普段の悪態は出ないみたいだ。


「なんで子供を…」

 アイズが呟いた。


「解らん。

 が、街の近くに巣を作ってる以上は排除する。

 それが俺のクエストだ」

 するとルプスは勝手に頼んだビールをゴクゴクと飲み始めた。


「次の犠牲者が出る前に巣を潰さないと…」

 アイズはまた指をたてて考え込んでいる。


「巣の場所は?」

 エルスがまたルプスに問いかける。


「あぁ、それとなく掴んでるけどな」

 と、ルプスは"もう一杯"とマスターに合図を送っている。


「それって私達だけで潰せるかな?」

 クエスト紹介所は冒険者ギルドそのものだから、

 もちろん応援も要請できる。


「ったりめぇだ!元から俺一人で十分だ」

 強気のルプス。

 お酒の力で言ってるのでなく、

 そこに関しては本気のようだ。


「では明日、魔物の巣を叩こう」

 エルスがまとめると、

 二人は黙って頷いた。

 ルプスはそのつもりだったみたいだし、

 アイズもエルスが言うなら、

 といった表情をしていた。


「パーティーにはリーダーが必要だ」

 ルプスが意外にも仲間意識のある発言をした。


「それならばアイズがいい」

 これも即答のエルス。


「ぇ…え?!私?!!」

 顔から目が飛び出しそうなほどに驚くアイズ。


「あんたがそれでいいってんなら、意味があんだろ。俺はいいぜ」

 ルプスは反対しなかった。


 こうして、新たに誕生したパーティーのリーダーはアイズとなった。


「戦えねぇガキがリーダーなんて、聞いたことねぇな」

 ルプスは人より発達した八重歯を見せると、

 ニヤリと笑った。


 ほどなくしてルプスは自分の宿に帰っていった…


 明日は魔物の巣にアタックする。


 アイズは緊張からか、

 あまり寝れなかった。


 そして、夜が明けた…



 続く…。

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