第3話 その男、狂暴につき…

 クエスト紹介所までの道のり、

 エルスはここまでのアイズとの会話に、

 沢山の「はてな」が浮かんでいたが、

 あまり聞きすぎるのは気が引けてしまい、

 自分から話し出せずにいた…


「記憶があっても、エルスってそんなに無口なのかな?」

 アイズがふいに口を開いた。


「すまない…解らない…」


「ふふ、その堅い話し方、

 本当にどこかの王国の騎士様だったりしてね」

 話題性などない私と居ても、

 こんなにも楽しそうに笑顔が出る。

 アイズはつらい過去があるというのに、

 なんという前向きな性格をしているんだろう…


「アイズ、さっきの"千里眼せんりがん"についてなのだが…」

 思いきって聞いてみよう、とエルスが切り出す。


「え?あ~スキルのこと?」

 自分の発言を思い出すように、

 空を見上げながら答えるアイズ。


「すまないが、そのスキルとは何だ?」


「え?!」

 またしてもアイズのキョトン!を見ることになってしまった。


「あーそっかー!ごめん、気付かなかったぁ、説明するね!」


「すまない…」


「いいよいいよー」


 アイズは、自分では当たり前過ぎて気づいてあげられなかった事に対して、申し訳なさそうに話し出した…


 ーーーーーー

 スキルはこの世界の人なら3割程度の人が使える"個性"なの。


 私の場合は遺伝による継承だから、持ってるんだけど。


 あんまり他の人の事は解らないから、私のスキルで説明するね。


 私のスキルは"千里眼"

 これは遠くが見えたり、人の行動を先読みしたり、そこも個々で得意不得意があって、

 私は片目しか使えないから、近くの標的に対して、

 ある程度の先読みが出来る程度かな?


 スキルには決まり事があるの、スキルの名称は三文字。

 そして、発動させるのに一文字の通常技、二文字の大技がセオリーね。


 私だと「開眼」で能力解放、

「読」「解」とかで発動させるの。


 スキルは人によって様々で多種多様が存在してる。


 攻撃に特化したスキル、

 防御を固めるスキル、

 空間を操るものもあるよ。


 ーーーーーー


「どう?解りやすかった?」

 一通り説明を終えて、心配そうに私を覗きこむアイズ。


 身長差があるから、アイズが私と向き合うだけで覗かれてるようになるだけだが…


「ありがとう、理解はできた。

 …私にも、あったんだろうか?」

 引っ掛かっていたのはそこだった。

 スキルというのが存在するのは解った。

 だとすれば、剣士の格好をしている私もきっと冒険者か何かなんだろうから、スキルは使えたんだろうか…


「うーん…

 忘れちゃってる人だと使うのは無理のような気もするけど…

 きっかけがあれば体が覚えてて使えたりするかも?」

 頭を右に左に傾けながら、

 人差し指を口元に当てて考え事をする仕草が、

 なんとも愛くるしいアイズ。

 人差し指のそれは癖なのだろう。


「とりとめの無い話になってしまったな、すまない」

 アイズが答えを持ってる訳ではないのに、困らせてしまった。


「いいっていいって!悩みも共有するのが仲間だよ♪」

 口元の人差し指をピンと突き出してウインクをするアイズ。

 まだ無邪気な女の子、けれどアイズは必死に自分の運命と戦っている。


「あ!見えてきた、あそこがクエスト紹介所だよ!」


 中心街の北側、さらに奥にはうっすらと立派な王城が浮かんで見える。

 軒並みの建物よりも一回り大きな建物が、クエスト紹介所だった。


「おっきいからすぐに覚えられるでしょ」

 と、小走りして入り口に立つと「おいで」と手招きしているアイズ。


 私も吊られて、少しだけ早足で後を追った。


 紹介所の中へは二人で同時に入った。


 外よりも薄暗い内部、点在するテーブルには僅かだが冒険者らしき人影が見える。


 アイズは迷わず奥のカウンターへ進み、エルスと自室で見合わせていた紙をカウンターに置いて、

「このクエストなんですけど、類似の事件って起きてないですか?」

 アイズがカウンターの男性(おそらく受付)に本題から切り出した。


「ちょっと待ってな…」

 紙を受け取り、男性はクエスト内容を確認している…


 男性は一通り読み終わったところで、何かを思い出したように一端奥の部屋に入り、すぐにもう一枚の紙を持って帰って来た。


「似ているっていうか、こっちはもう事件なんだが、子供が拐われたクエストがある、が…」

 男性はそれ以上は言葉を濁らせた。


「当たりかも、エルス!

 そのクエストも受注できますか?」

 狙いが当たって嬉しそうなアイズ。


 しかし、男性は首を横に振った。

「こっちはダメだ、既に受領されてるし、お嬢ちゃんには危険すぎる」


 "お嬢ちゃん"


 アイズはそのフレーズを聞いた瞬間に顔色が変わった。


「どうして?

 依頼そのものは他人と被っても、

 報酬は先にクリアした人の物でしょ?」

 明らかに"お嬢ちゃん"と言われたことで熱くなっている。


「だから、事件になってるから危険なんだって…」

 アイズの剣幕に少し困り顔の男性。


「じゃ元のクエストでも同じ事件になったら、私は下ろされるってこと?」

 どうやらアイズの怒りは収まらないようだ…


「はぁ…解ったよ、本当言うとこのクエストは"一匹狼いっぴきおおかみ"が受けてるんだ、やめときな」

 やれやれ、と溜め息混じりに応える男性。


「いっ…」

 言いかけて声を詰まらせて黙ってしまうアイズ。


 エルスはここが何をする場所なのか?を知るために黙って見ていたが、

 さすがにアイズを見かねて声をかけた。


「一匹狼って?」


「ん?連れかい?アンタその格好で一匹狼知らないのか?」

 受付の男性にもキョトンとされるエルス。


 やはり鎧を着ていれば女剣士に見える。

 誰だって反応は似たようなものだと改めて解った。


「一匹狼は文字通りソロの冒険者だ、

 誰とも組まないし、

 クエストを譲ろうなんて気も持ち合わせてるような奴じゃない。

 職員の俺が言うことじゃ無いが、関わらない方がいい。」

 完全にアイズとエルスをシャットアウトしてしまった。


「一度出ようエルス…」

 急に落胆したアイズはトボトボと紹介所を出ていった…


 外でエルスが出てくるのを待っていたアイズは呟くように話し出した。

「一匹狼って人は会ったことは無いけど、

 狂暴な冒険者で有名なの。

 誰も同じクエストをやろうとしないのが、暗黙の了解になってるってわけ…」

 そして深い溜め息をついたアイズ。


「クエストというのは他には無いのか?」

 ダメなら別のクエストを探せばいいと考えたエルスだったが…


「だって!女の子が訴えてるんだよ?!ほっとけないよ!」

 アイズは悔しそうに地面に向かって叫んだ!


 女の子…そういうことか、

 アイズは自分と、その女の子を重ね合わせている。

 だから、このクエストをやりたいのか。


「一匹狼を探そう」

 エルスは深い意味はなかったが、会えば何かが変わると感じた。


「え…でも…」

 困惑するアイズだったが、

「クエスト中で鉢合わせたってことなら、なんとかなるかも…」

 と、いつものポーズで呟いた。


「決まりだ、剣を取りに戻ろうアイズ」

「うん!わかった!」


 二人は少しだけ早足で酒場へと引き返していった。


 ソロ冒険者の一匹狼とは、一体何者なのだろうか?



 続く…。

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