第2話 夢ノ中デ
体がふわっと浮く、不思議な浮遊感に包まれながら日輪
目の前に広がるのは
そして、青々と茂る山々。
その下に広がる小さな村。
近くに川でも流れているのだろう、わずかな水音が耳をくすぐる。
先程いたセカイ《無と虚》とはまるで相対的。
とはいっても、白夜はそれらに一切触れることは許されない。
バーチャルリアリティ、VRヘッドセットを使っているようなものだろうと、白夜は考えている。
見渡して、見上げて、見下ろして。
白夜にできるのはそれだけ。
所詮は仮想の世界にすぎないのだから。
いや、でも肌がかんじる風や温度、匂い、音はとても仮想のものとはとても思えないのだけれど。
まぁ……夢だし。
白夜は、この辺り一帯をぐるりと見渡すことのできる、今居る丘が好きだ。
特に、この丘一面に茂っている、やわらかくて、薄い緑の芝生が心地よい。
とはいってみても、今居るココがドコなのか、白夜は知らない。
不思議なところだ。
いま、自分が生きているセカイでは見たこともないような村人たちの服装。
石を積み上げて作ったのだろう、建造物
ココは現実に存在するのか、
それとも自分が作り出したセカイなのか
現在白夜が住んでいるのは、大都会だ。
家の近くにこんな場所はなかったはずだし、かといって田舎に越した覚えもなければ、田舎というものに行ったこともない。
…………あれ?待てよ?
今連発した〈田舎〉という言葉は
適切なのか?そもそも俺、〈田舎〉という言葉の厳密な意味、知らなくない?
どこからどこまでが〈都会〉で、
どこからどこまでが〈田舎〉なのか。
どこにその〈都会〉と〈田舎〉の境界線があるのか。
………………………………………。
いやー、言語って難しいね。
ぐるぐると別の方向へはずれていく自分の思考をぐっと止め、白夜はため息を一つ、くだらないとこぼした。
それでも、(ココがドコなのか分からなくても)幼い頃から白夜はよくこの場所にくる。
あの、白くて無機質なセカイを経て、このVR世界(仮)に。
…………もちろん、夢の中で。
記憶に残っている中で一番古いのは
確か5歳ごろ。
何度も何度も夢の中で同じ場所へ行く。
しかも不定期に。
それが不思議な話だ、と気づいたのはつい最近だ。
だって、
何度も何度も夢の中で同じ場所へ行く
のは
白夜の中でもはや〈常識〉であり、
〈当たり前〉だったから。
でも、白夜はこの場所に来るのは嫌いではなかった。むしろ好きだ。
夢の中は俺だけのセカイ。
誰にも邪魔されない、誰にも傷つけられない、たった一つの俺の居場所。
白夜は、ゆっくりとした動作で瞼を閉じた。あぁ、肌を撫でる風が心地よい。
ずっとココにいたい。
ココだけが俺の生きたいセカイ。
白夜が物想いにふけっていた、その時。
「白夜。」
凛としたソプラノの声が不意に白夜の耳に飛び込んできた。
ココでは呼ばれるはずのない自分の名が聞こえてきたことに、白夜は一瞬ハッと、閉じていた瞼をみひらいて。
すぐに、あぁ………彼女か。と気づいて声のした方向へ振り返った。
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