02 魔法使い遊園地へ行く

第15話

 少し眠いけど待ち合わせ場所に少しだけ早く向かう。

 遅刻は厳禁、遅刻は厳禁。


「早いですね」


 すると橘さんは、既にそこにいた。

 俺は、うつむいたまま地面に言葉を放つ。


「あのすみません……」


 小さな声だったために恐らく届いていないだろう。

 やってしまった。

 女の人を待たせる男なんて最低だ。

 そんなこと、幼稚園児でもわかる。


「あやまらなくてもいいんですよ。

 私、待つの好きなんです。

 変わっているって、よく言われているんですけど……

 私ね、待っている間のいろんなことを妄想して遊ぶの楽しいんです」

 

「妄想?」


「あ、ごめんなさい」


 俺の問いに橘さんの表情が暗くなる。


「妄想女って引きますよね?」


 橘さんが今にも泣きそうな顔でそういった。


「え?気にはならないですよ。

 うん、俺もよく妄想するし」


「本当ですか?」


「うん」


 それを聞い橘さんの表情がパッと明るくなる。


「よーし!妄想部隊発進だー」


 橘さんはそう言って俺の手を握りしめる。

 そして、俺はこのときまたひとつ大人の階段をのぼった。

 女の子と手を繋ぐ。

 モテない男が、一度でも夢見た世界。

 それは、女の子との腕を組み、手つなぎ、ひざまくら、耳かき………その他いっぱい。

 童貞からの脱出への第一歩。手つなぎデートを俺は今、経験している。

 千里のデートは、タッチから……

 

 ――私信、かみさまこんなチャンスをくださりありがとうございました――

        俺、無事に大人に一歩近づきました……


 本当にありがとう。

 俺は、そう願い太陽を見た。


「ハクション!」


 くしゃみが出た、そうだった俺は太陽の光を見るとくしゃみが出るんだった。

 恥ずかしい。

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