第2話

 1つずつ、疑問を解消していこうと思う。それが事件解決――音子の発見に繋がるのではないかと考えた。

 今回の誘拐事件、怪しい人間がいる。。しかし、それは推測である。ミステリー小説を読んで漠然にこの人間が怪しい。と、高を括る程度の物である。犯人という確証もない。だが、今はそれについては隅に置いておく。

 しかし、それならばそれで良い。音子のいる場所は検討を付けた。そもそもおかしかったのが、何故2回に分ける必要があるか。である。10年前と今回の事件、最初の1回だけが犯人の犯行だったのではないか。

 そうなるとやはり、イレギュラーは津田 沙羅であろう。彼女の『本当』を紐解くことが出来れば、音子も見つかるのではないかと思う。

 来浪は車を走らせ、トゥインクルフェアリーへ急ぐ。




 移動中、来浪にはある考えが頭を過ぎっていた。必要になった思考の中で、ある結論を抱いているのだが、どうしても頭が否定する。最悪を考えなくてはならない。つまり、あらゆる可能性を想定するその思考の中で、ふと、気が付いてしまった。それを確かめなくてはならない。

 来浪は準備中の店の前に立っている。丁度沙羅が開店の準備をしており、一度息を吸うと彼女に声をかけようとする。

「……あたしに聞いても、何も知らない。よ」

「ごめんなさい、そうとは思えないんです」

 先に声を掛けられて少し驚いたが、来浪は沙羅の隣に並び、彼女から話を聞こうと目を真っ直ぐと見つめる。

「まず1つ、10年前と今回の事件は別物であると思います。その理由としてあげるのは貴女の態度です。怖い思いをしたと思うのですが、美虎さんが貴女を尋ねた時、津田さんはさも関係がないようにふるまっていましたよね? 取り乱すでも、声を荒げるでもなく。普通、互いに顔を知っている貴方は、犯人から守ってほしいと思うのではないかと」

「……忘れてるって、言ってなかった?」

「肯定しませんでした」

「……」

 少し、心が痛む。理由はどうあれ、しかも推測でしかないもので沙羅を責めているのである。これで彼女に嫌われ、心を閉ざしてしまうのならそれもしょうがないことである。来浪は自分が思っている以上に追い詰められていることを今理解した。音子が無事なら、そんな思考があったことを否定しない。

「僕は――」

 ある最悪を想定してしまった。この場合、そうであってほしくない。の最悪である。彼女――津田 沙羅が庇うとしたら今現在では1人しかおらず、その人が事件に関わっているのだとしたら、これほど否定したこともない。そうでなければ、彼女が黙っている理由が思い当たらないのである。

「ずっと考えていたんです。どうして、10年前の犯人は貴方を誘拐したんだろう。って――でも、どれだけ考えても納得出来ないんです。犯人は3人を誘拐して、その3人が殺された後、僅か1週間の間に貴女を誘拐した。その1週間の内、数日は笹原さんの家にいた。2か月の間、一切を表に出さなかった犯人がどうして捕まえて数日の貴女を逃がせるのでしょうか?」

 それだけではない。もう1つの根拠の中に、マリアの発言があった。一体、沙羅はいつ誘拐されたのか。その問いに彼女はこう答えたのである。「いつか。と、聞かれたのならいつでも」その言葉がどうしても今になって頭の中で何度も反響し、脳の中に残響を残していく。

 ずっとずっと誘拐されていた。親から愛を貰えないと知った時から。否、物心ついた時から――以前来浪は、誘拐されたら周囲の人間も誘拐されている。と、思考したことがあったが、この沙羅という女性はまさにすべてに当てはまるのではないか。被害者の友人として、被害者として……そして。

「津田さん、10年前の誘拐犯、それは貴女のお兄さんだったんじゃないですか?」

「……」

「そもそもの前提が間違っていました。1週間の時間、そして貴女の友人である3人が亡くなった日、貴女は解放されたんだ。その後、何があったのか、どういう経緯で笹原さんが保護したと言ったのかはわかりません。けれど、今音子ちゃんは――」

「違う」

「……何がですか?」

「あの子は……音子は、守られている、だけ」

「誰に?」

 もう1つの疑問。仮に津田 恭平が犯人だった場合、彼は誰に殺されたのか。誘拐犯に殺された。と、笹原が言っていたようだが、その誘拐犯が殺されているだろう現状、殺人犯は別にいる。それが誰なのか――来浪は様々を想定する内に最悪を思いつく『身近にいる正義の味方が耐えられなかった』である。

 今、沙羅が違うと言ったのはこの部分なのだろう。

「津田さん、貴女は誰がお兄さんを殺したのか、知っていますね?」

「………………」

 これ以上、話を聞くことは難しいだろう。元々、沙羅の反応を知りたかっただけであり、十分の根拠を得ることが出来た。来浪はその場から去ろうとするのだが、突然沙羅に肩を掴まれ、振り返る。

「待って……」

「なんでしょう?」

「これだけは……これだけは知っていて――あたしは、守られた。どうしようも出来なかったあたしを……救ってくれた。だから――」

「ええ、わかっています。僕は、警察じゃありません――魔女に仕えるカラスですから」

 やっと1つの確証が持てた。悪意ではない。それだけを知りたかった。

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