第1話

 県立図書館に到着。調べ物をする際、本を読むためにここを利用することもあるのだが、物を借りるということが苦手な来浪はこの場で調べ物を終わらせることが多い。ここに訪れたことがあるとはいえ、この場所に愛着があるわけでもなく、ただの情報ツールとしか見ていないためにどこにどの本があるなど細かいことを頭の隅に置いたこともない。故に10年前のことを調べるため、過去の新聞がどこに置かれているのか職員に尋ねなくてはならない。

 来浪は職員に新聞がある場所を聞くとその場所へ足を進め、10年前の事件を探す。

 すると、それは呆気なく見つかり、来浪はその資料を近くにある机に広げた。

 いくつかの新聞を机に広げ、とりあえず。と、それらを流し読む来浪だが、ふと首を傾げた後、その事件の最初と最後をジッと見つめた。

「あれ?」

 最初――それは事件が発覚し、新聞に載せられた記事なのだが……日付は9月10日、その記事には誘拐された生徒は記事が出る3日前から学校に顔を出していなかった。と、あるが、これは生徒がよく無断欠席をするために発見が遅れたのだろう。しかし、問題はそこではなく、この時点では誘拐された人数は3人なのである。

 そして、最後……その記事を最後とした理由は誘拐された3人が遺体で発見されたと記載されている記事だからである。その時の日付は11月14日である。

 2か月もの間、3人の少女が事件の中にいたことに来浪は胸にズシリと重いものを感じずにはいられなかったが、それ以上に――。

「4人目は一体、いつ……」

 塚田は3人が発見されてから明るみになったと言っていたが、記事にはそもそも4人目の存在すら触れられていない。

 つまり、誘拐事件が発覚した後、4人目はまだ学校に登校していたということになる。ならばその犯人は3人を誘拐し、殺害した後に4人目の少女を誘拐したことになる。しかし、4人目が逃げ出してしまい、笹原に保護された。

 来浪は4人目の少女が保護されたことが記載されている新聞を探した。それは少し探しただけですぐに見つかり、来浪はそれを読んでいく。

 その記事の日付は12月7日、1か月経たない間に4人目である沙羅という少女が保護された。と、記載されていた。

 しかし、保護されたとあるだけで、どこにいたのかや犯人の特徴などの話は一切なかった。のだが、来浪は保護した警官が答えてくれたというインタビューが書かれた箇所に目を向けた。

 そこには笹原が少女を保護し、数日の間自宅で落ち着くのを待っていた。と、あるが、日数などの細かなことは書かれておらず、別のことが記載されていた。それは4人目の少女の家庭環境についてであった。

 曰く、少女の自宅に連絡をしたところ誰も応答せず、少女に両親の連絡先を聞いてそこに掛けてみたところそちらも数日応答なし。

 曰く、やっと母親に連絡が取れたかと思うとその母親は父親に全て任せており、自分には関係がないと電話を切られた。

 そして、父親とは最後まで連絡が取れなかったとのことである。

 記事の最後には、親の無関心が今回の誘拐事件を引き起こした。と、煽るように締めくくられていた。

「……」

 来浪は新聞から目を離し、はふっと息を吐き天井を見上げた。

 親の無関心が引き起こした。確かに第三者から見ればその見方も出来る。だが、原因は誘拐をした人物であり、親に全ての責任を擦り付けても良いのだろうか。いや、起きなかった罪、認識できなかった罪を正当化するつもりもないのだが、来浪はやりきれない気持ちを心に持った。

 もちろん、虐待とも取れるような両親の対応はどこかしらで裁かれるべきものであると思う。しかし『何故』を考えた時、そこに至るまでの経緯や事情、それらを汲んでも良いのではないか。来浪は教育心理やその他教育の知識を得るために様々な状況を話に聞いたり、実際の『被害者』『加害者』と言葉を交わしたりしたこともあるために、どちらが悪か。の答えが出せずにいた。傷つけた、傷ついた。やらない、出来ない。環境が親を追い込み、環境が子を慣れさせていく。子どもは大人ではない。しかし、大人も子どもではないのである。

 10年前の事件の被害者には家庭の事情があった。結果、それが最悪な事態を招いたかもしれないが、来浪はそれを指弾するつもりはない。

「……うん、新聞はこれくらいかな」

 来浪は新聞を持って図書館の案内カウンターまで行き、コピーを頼む。この図書館は新聞の半分以下までのコピーを許可しており、最も気になった4人目の少女のことが記載されている新聞をコピーしてもらうように頼んだ。

 そもそも図書館に長居するつもりもなく、大体の情報が集まったら場所を移し、じっくりと考えようと来浪は思っていた。

 そうしてコピーを終えた来浪は車に戻り、以前マリアに連れて行ってもらった喫茶店を目指すのである。

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